表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の呼吸  作者: ユウ
6/9

2章 2節〜加速〜


職場に入ると、空間が少し広く感じられた。 実際に広がったわけじゃない。

使われなくなった区画が増えただけだ。

入口付近の表示板が更新されている。

極致計画 進捗 92%

昨日より、わずかに数字が増えている。 それを確認しても、特別な感情は湧かない。 進んでいる。 ただ、それだけのことだ。

「順調って事か」

誰に向けたわけでもなく、声が出る。 返事はない。

この時間帯に作業している人数は、以前より減っていた。

通路を進む。 照明は必要最低限。 点灯していない区画が、はっきりと区切られている。

『 不要区画』 端末には、そう表示されていた。

「ここ、使ってたよな……」 独り言が漏れる。

以前は資材置き場だったはずだ。

その前は、確か――

考えようとして、やめる。 必要がなくなった。 だからここは閉じられた。 それで説明は終わる。

作業内容も減っている。 点検項目を開くと、ページ数が短い。 確認、チェック、次。 確認、チェック、次。 「はいはい……」 誰もいないのに、業務時の声が出る。この癖は抜けそうにない しかし今は、端末がすべて判断してくれる。

「楽になったな」 そう言ってみる。

本心かどうかは、自分でも分からない。

不要区画を迂回して歩いていると、 ふと、音が耳に刺さった。

チ、チ、チ。

足が止まる。 ポケットに手を入れる。 懐中時計だ。

取り出さなくても分かる。 秒針が動いている。 正確な間隔で。 チ、チ、チ。

周囲の機械音に紛れていたはずなのに、 今は、それだけがはっきり聞こえる。

「……こんな音、してたか?」

蓋を開く。 針は正常だ。 遅れてもいないし、早くもない。 それでも、 一秒ごとの区切りが、やけに近い。 チ。

次の音までが、短く感じる。

チ。

まだ進む。

チ。

「急いでるわけじゃ、ないよな」 誰にともなく言う。 時計は答えない。 ただ、刻む。

視界の端で表示板が光る。

極致計画 進捗 92%

数字は止まっている。 それなのに、 懐中時計の音だけが、先に進んでいく。

チ、チ、チ。

まるで、 何かが決まった時刻に向かっているみたいだ。 理由は分からない。 何が起きるのかも、書かれていない。

それでも、 この音を無視するのが、少しだけ難しくなっている。

「……大丈夫だ」 そう言って、蓋を閉じる。

音は布越しに鈍くなる。 完全には、消えない。

ポケットの中で、 懐中時計は変わらず動いている。

俺は歩き出す。 不要区画を避け、 減った作業を続ける。 職場は静かだ。

それでも、まだ機械音は残っている。 まだ、俺の足音もある。 世界は、動いている。

だが、 時間だけが、 俺を置いて先に進んでいる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ