1章 2節〜整っていく街〜
点検区域へ向かう途中、俺は歩みを止めた。
極致計画 進捗率 85%
モニターにはそう表示されている。
ふと、視線の先の壁が気になった。
「……今日も問題なしか」
端末を一瞥して、そう呟く。
誰に聞かせるつもりもない。
返事が返ってくるはずもない。
壁面は滑らかで、継ぎ目が見えない。
補修の痕もなく、整っている。
「前から、こんなだったか?」
昔、ここに小さな窪みがあったような気がした。
だが、端末は沈黙したままだ。
点検箇所の前で立ち止まり、
数値を見て、周囲を見て、小さくつぶやく。
「気にしすぎだったな」
そう言って、自分を納得させる。
実際、トラブルは減った。
このやり方のほうが、正しい証拠だ。
表示板が視界に入る。
今は簡単な記号だけが流れている。
「昔は面倒だったな……」
口にしてから、
以前は文字を読んで、理解しようとしていたことを思い出す。
街は、今のほうが整っている。
整っているから、作業が減る。
作業が減るから、考えることも減る。
「悪くない」
短く言って、この考えを終わらせる。
点検項目を開く。
確認、チェック、次へ。
「はいはい……次」
業務時の癖で、
誰もいないのに声が出る。
指は止まらない。
止める理由がない。
以前は、迷いながら作業をしていた。
「これ、後で影響出ないか?」
「本当に合ってるのか?」
そんなことを考えていた気がする。
「今は大丈夫、ってことだろ」
自分に言い聞かせる。
納得できているかは、分からない。
端末を閉じる。
胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
「……まあ、いいか」
その一言で、
引っかかりは日常の奥に押し戻される。
俺は次の点検地点へ向かう。
街は動いている。
機械音が遠くで重なり、
どこかで誰かが作業をしている気配がある。
まだ、音がある。
まだ、俺の声も残っている。




