第4章 1節 始まりの失敗
設計室は、驚くほど静かだった。
完成した街の中枢にあるはずなのに、音を立てるものがない。
俺は椅子に腰を下ろし、無意識に机の縁を指で叩こうとして、やめた。
癖だ。
現場にいた頃から、確認の合図みたいに指が動く。
「……まだ、慣れないな」
独り言のつもりだったが、向かいの席の男が小さく笑った。
「音がないと、仕事してる気がしないか」
彼も元は現場作業員だった。
長年クレーン作業に従事していた。
俺が彼を“管理側”に引き上げた。
壁面の表示が淡く光る。
極致計画 進捗 100%
誰もそれを見上げない。
見る必要がないからだ。
この数字に至るまで、何度も確認した。
何度も、互いに確認させ合った。
「……これで、完成だな」
俺が言うと、室内にいる全員が、ゆっくり頷いた。
拍手もない。
達成感も、正直ない。
ただ、胸の奥に残っているのは――
安堵だった。
俺たちは、最初から“完璧な街”を作ろうとしたわけじゃない。
始まりは、1つの事故だった。
「あのとき、俺が止めていればな」
年配の計画者が、ぽつりと言う。
彼もまた、元は現場の人間だ。
配電区画の管理をしていた。
「あれは……誰のミスでもなかった」
俺はそう言ったが、彼は首を振る。
「違う。確認を省いた。それが原因だ」
あの事故で、街は一つ止まり、人が死んだ。
数値は基準内だった。
警告も出ていなかった。
だから、誰も“止めなかった”。
いや、“止める必要”が無かった。
「人は、判断するから間違える」
誰かが言った。
責める口調じゃない。
事実を述べるだけの声だった。
俺たちは皆、同じ経験をしている。
確認漏れ。
判断の遅れ。
『たぶん大丈夫』という希望的観測。
「だから、だ」
俺は続ける。
「人が常に管理しなくていい街を作る。
人が判断し続けなくても回る街を」
それが、極致計画の始まりだった。




