三章 3節 〜建設停止〜
午後の作業が一段落したところで、
端末が一斉に短く震えた。
音は控えめだ。
だが、数が多い。
俺は画面を開き、
表示された文面を一度だけ確認する。
ーーー正式辞令
未完成街 建設作業停止
全作業員 第一の街へ配置換え
本日付ーーー
予定通り。
想定より、少しだけ早い。
俺は深く息を吸って、
仮設広場の中央へ歩き出した。
「――全員、手を止めてくれ」
声を張る必要はなかった。
管理者が立つ場所に立てば、
自然と視線が集まる。
溶接の火花が消え、
クレーンの動きが止まる。
騒音が引いて、
街が一段静かになる。
「正式な辞令が下りた」
俺は端末を掲げる。
「この街の建設作業は、今日で終了だ。
明日以降、全員第一の街へ配置換えになる」
一瞬の間。
ざわめきは、すぐには起きなかった。
「……マジかよ」
誰かが小さく呟く。
それを合図に、
低い声があちこちで重なり始める。
「第一の街って、あの完成区画の?」
「もう人、足りてるんじゃなかったか?」
俺は手を上げる。
「作業内容は引き続きある。
ただし、この街での工事は、ここまでだ」
説明は簡潔に。
余計な言葉は足さない。
そのとき、
前のほうから一人、歩み出てきた。
ベテランの作業員だった。
この街の建設初期の頃から、
ずっと現場にいた男だ。
「主任」
低い声。
怒鳴るでもなく、
噛みつくようでもない。
「ここはまだ、完成してねえ」
「分かってる」
「骨組みだけだ。
通りも、ビルも、途中だ」
「分かってる」
俺は、視線を逸らさなかった。
「じゃあ、なんで止める」
問いは短い。
だが、軽くはない。
「未完成でも、役目は終わった」
俺はそう答えた。
「ここでやるべき作業は、
もう別の場所で引き継がれる」
「……納得はできねえな」
「だろうな」
俺は苦笑した。
「俺も、正直好きな判断じゃない」
周囲が静まり返る。
「だが、決まった。
この街は止まる」
ベテランは、しばらく俺を見ていた。
何か言いかけて、
結局、肩をすくめる。
「……あんたが言うなら、しゃあねえ」
それだけだった。
誰かが短く息を吐く。
誰かが工具を置く音がする。
「今日の作業は、ここまでだ」
俺は続ける。
「片付けは最低限でいい。
危険物だけ処理して、
あとは明日、第一の街で続きだ」
命令でも、お願いでもない。
ただの指示だ。
作業員たちは、
大きな反発もなく動き始める。
文句はある。
未練もある。
だが、それ以上に、
現場の人間は分かっている。
止めろと言われた工事は、
どれだけ未完成でも、
それ以上進まない。
俺は一人、中央に残った。
クレーンは動かない。
足場も、火花も、もうない。
騒がしかった街が、
急に空洞みたいに感じられる。
「……ここまで、か」
誰に向けるでもなく呟く。
未完成の街。
人と機械が溢れていた場所。
役目を終えたわけじゃない。
ただ、必要とされなくなっただけだ。
俺は端末を閉じる。
管理者の仕事は、
街を完成させることじゃない。
終わらせることも、含まれている。
そう理解して、
俺は第一の街へ向かう準備を始めた。
この街は、
今日で呼吸を止める。
音もなく。
抵抗もなく。




