8話 〜敬遠〜
「ねぇ野球つけてよ」
「ごめんなさい、テレビ見れないんです」
「えっ、ドラマ見てんじゃん」
「ああ、これ動画サイトなんですよ」
分かるだろ古いドラマだし、今どきはさっ!
「何だよ野球見たくて来たのになぁ?」
知らねぇよ、お前らの希望なんて。
何で居酒屋で野球が見られると思った?
そういう店もあるかも知れないけど、小料理屋さんに行けよ。
その方が可能性高いだろ?知らんけど。
パチパチパチ、
「いやぁいつ聞いてもお父さんの歌上手いねえ」
おお、ちゃんと仕事してるなマスター。
それにあっちのお客さんも拍手してくれるから、雰囲気戻りそうだね。
良かった、良かった。
「いや、知らねえ奴の歌なんか聞きたくないんだよ。野球だよ野球」
まだ言うかしつこいな。
私は料理作るのに忙しいんだよ。
一回言ったんだから理解してよね。
「あのぉ、他のお客さんのことを言うようなことは控えていただけませんか?」
おお、良いぞマスター。
他のお客さんの気分と店の雰囲気を守ってくれー。
アンタの重要な役目は今っ、まさに今っ。
「ああっ!言ってねぇだろ別に」
言ったよねアンタさっきしっかりと、そしてアンタのお連れさんも気不味そうにしているよぉ。
そろそろ気づいてー。
「ま、どっちにしてもお願いしますね」
お願い、その曖昧さ届いてー。
「ちっ、あーもういいっ」
おっ、帰るのか?帰ってくれるのか?
「これおかわり」
はいっ残念!
て、昔のクイズ番組ひとりでしている場合じゃないのよ私。
「はいタコさんウインナーお待ちどう様」
ああいう人たちって赤いウインナーが好きな人いるよねぇ。
「お、美味そうですね、兄さん」
ん?番頭、そこ行っちゃうのか?
誰にでも行くのは知ってるけど、今はちょっと……
「あ、良いっすよねコレ、良かったら食べます?」
ええ!?
良い奴じゃん。
なになにあなた?
「あ、良いっすか?すみません、遠慮なく」
「どうぞどうぞ」
おいっダチョウになってるよぉ。
「はは、これは、たまにはいいですね?
お返しにビールでもどうぞ」
「ああ、すみませんいただきます」
おお、何たる常識人っ。
さっきの傍若無人は何処へー?
助かるんだけど——番頭さん。
「そっちのお兄さんも良かったどうぞ」
「あ、ありがとうございますっ」
おお、素直な良い子だね。
さっきまでの気不味そうな顔も消えているし、良かったぁ。
「番頭のビール2本くらいサービスしてやろか?」
おお、それくらいしたらんかいマスター。
つーか、お前がもっとしっかりしていれば、ビール2本分無くさずに済んだんだけどな?
ま、でも良かった良かった。
ただの飲んだくれじゃなくて、ムードメーカーだったのね番頭さん。
あ”っ!
こっち見てウインクすんなや番頭。
やっぱサービスは1本分にしとくからなっ!
完




