7話 〜真実はひとつ〜
「ええ、開いてたの?」
「うん、今日来たらねぇ」
と、何か不気味さを隠せないでいる女将は、まな板を念入りに洗いながら例の番頭に返していた。
「しかし、どうやって入ったんだろね?まぁ鍵開けたんだろうけどさあ」
腑に落ちないマスターは、カラオケのモニターを点けながら振り返り、ドアにそっと視線を注ぐ。
「鍵は替えてもらっているから、前の人でもなさそうだし」
今度は、床に散らばったコースターなどを拾い集めるマスターだった。
「うーん、こんなに酷いんじゃ警察にでも連絡した方がいいんじゃない?」
それはごもっともなのだが、
「だけどお金も置いて無かったし、取られた物がまだ見当つかないんだよね」
カウンターから何からアルコールスプレーのマスター。
噂を嫌う女将がまな板をひっくり返す。
「そうかぁ難しいモンだね、あっおかわりね」
心配面を装う番頭の喉は、まだ潤いが足らなさそうだった。
「さあて、やるかぁ」
と熱湯に荒らされた食器類などを漬け込む女将は、続けてヤカンのお湯をあちこちにかけ出すのだった。
「あ、ママちゃんもう一杯おかわり」
すでに赤ら顔の正体を現した番頭。
それを、じとぉ〜とした目で見る女将は、
「無理っ」
と、ひとこと言うとゴム手袋をするのだった。
「あ、怖い顔が出たから、マスターこれ」
客なのだが、下手に出る番頭だった。
不意に、すーとドアが開いた。
振り返るマスターの顔が少し強張る。
どこかにまだ恐怖心のようなモノが宿っているのだろうか——
しかしその顔がほつれ、
「あ、いらっしゃいませ」
「鯖の塩焼きとジェノベーゼお願いできる?」
歩み寄りながら淡々と告げるのは、
「あ、大家さん」
顔を上げた女将がそう呼んだ。
「大掃除中?今日は無理かしらね」
番頭の呑む姿を認め、客がいることに安堵する大家。
「平気ですけど今消毒しているので、もう少しだけ良いですか」
流石に番頭への返しとは違う顔の女将がそこにいた。
「何かあったの?」
心配そうな大家は、状況から何かを探る様子だった。
それはそうだ、ここで何か有れば、この物件にも関わるのだ。
「ええ、実は……」
と暗い顔を作り語るのは女将だった。
昨日は休みで今日来てみたら店が荒らされていたのだった。
「もうここにあった果実酒とかが倒されて溢れてて」
と、実被害は、散乱とその酒だけなので、なるべく騒ぎたくないとも伝えた。
「そうだったの?鍵はちゃんと掛けてるものねぇ」
確認するような大家の顔。
無言で、当たり前だろ?と言いたげなマスター。
「ふーん、それじゃあお困りでしょ……あっそうだ!娘に電話して防犯カメラでも見てもらおうかね?」
閃く大家がスマホを手にする。
「え!?カメラつけたんですか?」
それにさえ気づけないマスター。
「ええ、世の中物騒だし、あった方が?と思って付けてみたのよ」
言いつつスマホを耳にあてるのだった。
「果実酒も倒されただけならいいけど、口つけて呑まれてたりとかね?」
二次災害の根を刈り取ろうとするマスター。
「そうねぇ、お客さんに出す物だから、勿体無いけど捨てるしかないわね」
躊躇わない女将もさすがと言えよう。
そして、またドアが開いたのだった。
「コレに移して来たから見られる?」
と、USBメモリを差し出す娘。
「ああ、わざわざすみません。こっちのモニターで見ましょうか?」
受け取り、セットするマスター。
「おっ、!?いよいよ分かるんですね?」
意気揚々の番頭は、1番の部外者だった。
「よーしコレで見られる、どんな奴だ?この野郎」
犯人の姿を想像して、怒りを露わにするマスターだった。
「あっ、ここだここだ」
「え!?」
一点を見つめる一同。
そこに気不味そうに口を開けるのは——
「ねえ、何でドア開けてんの?番頭」
怖い顔の女将が手袋を外す。
「え、あ!?いや……そうだ昨日やってるかな?て開けたんだった」
昨日も酔ってフラフラしていたらしいこの男。
「アレっ、ここ、白いのが入って行った」
「や、猫じゃないこれ」
猫が好きではない女将は露骨に嫌な顔をした。
「え、でも猫って出ていけないわよね、もう居なかったんでしょ?」
確かにそうだ!?
と顔を見合わせる一同は、先を急いだ。
すると、
「あれ、またあんた来てんじゃん」
遂に呆れる女将。
「あ、いや何で来たんだろ、俺」
記憶をなくすのも常習犯の番頭。
そして、そこをすり抜け出ていく猫の姿があった。
「しかし、何で鍵開いてたんだ?おかしいよな」
そこが腑に落ちないマスターは、拳を握りしめた。
「じゃ巻き戻って見てみましょうよ」
大家の娘が自然な提案をする。
リモコンの仕様上、ボタンを押しっぱなしの女将が苛立つ。
そして飽きを押し込める一同。
そして、やっと原因究明に至るのだった。
「コレってぇ?」
と、やはり顔を見合わせ黙り込む。
そして、女将が沈黙を破るのだった。
「ねぇ、アンタ——」
女将の鬼の形相が、マスターの目を怯えさせた。
「やばっ!」
と、カメラ映像のように鍵を掛けることなく、慌てて店のドアから出て行くマスターだったのである。
完




