6話 〜じいさん〜
「ああ、これ美味しいねぇ、日本酒が欲しくなるやつだぁ」
おぉ、おぉ、こいつはまた呑んどるなぁ。
「あ!?あるよいいの」
ん?何か思いだしたのかマスター。
「え、何かあったっけぇ」
「ほら、この間の……まだ開けてないよ」
その顔はいい酒でも思い出した顔だな。
「そうか、忘れてたわ」
女将、それはダメだろ?お前も”おちょ”だなぁ。
お、持って来た持って来た。
「これこれ、ほら呑もうよ」
「おお、いいね、冷えてるそれ?」
「もうギンギンよっ」
マスターそれキンキンじゃないのか?
「いいなぁそれ、呑んでみたい」
「えー、番頭の好みに合わないかもよ」
「ママちゃんそんなこと言わないで俺にもちょうだよ」
この男も酒好きだからなぁ。
「じゃあ、みんなでこっちで呑も呑も」
おお、みんな集まって乾杯か、いいのお。
「うん、うまっ」
「いいね、これ。あっ、あれ欲しくなった。作って」
「えぇ、今から〜?」
「やれよぉ、注文されたんだから」
「じゃあお前やれよ」
「な、俺はマスターだから、ここに座ってんの」
調子のいいやつめ。
「いや、いいよ後で。あ!?忘れてた」
「何!?」
「じいさんのコップ」
おぉおぉ、忘れとったんかお前、俺の分を。
「あ、ホントだぁ。俺のはねえのか?てうるさいからなあの人は」
おい、女将!いや、娘よそんな風に思っとったのか?
「じいさんのはこれでいいか?て、あれ何やってんのコレ」
なんじゃあ、どうした?
「あっ忘れてた。豆腐焼いてみたんだった」
「マスターやっちゃった?」
真っ赤な顔してお前はまったく。
「少し焦げたけどいいんじゃない」
お前は気楽やなぁ、娘。
「ならさぁ、味噌カツの味噌やろうよ」
おぉ、豆腐田楽かぁ!?
「はい、じいさんのコップ」
「おぉ」
おお良いなぁ俺の酒かぁ。
「何かこの辺にいたりするの?そのじいさんて」
赤い顔して怖がるなよ。
「いるんじゃない?酒置いたから寄って来てるよ多分」
お前は俺を何やと思っとるんやぁ。
「はい、山椒は好みでね」
分かっとるな娘よ。
「じゃあ、いただきま……て食べないの?」
「まだじいさんが食べてないから」
ありがとうな娘。
「もう良いんじゃね?」
「まだ早いでしょ?いくら何でも」
「いや、どうせあいつ死んでるし、一瞬で食べるんじゃねぇ?」
おいドボ、なんじゃワレぇ。
「ああ、そうかあんたのお父ちゃんでもあるのか」
「じゃ頂こか」
うまそうに食べて呑むなぁ。
さすが俺の子だ。
「やっぱうまいなぁ、じいさんがこんな食べ方してたから俺も好きになったよ」
そうかそうか、お前に伝わったか。
「ホントだウマっ。これメニューで出してみるか?」
おおっ、マスターも気に入ってくれたか?
「で、アレはまだ作らないの?」
「番頭うるさーい。まだ覚えていたのかよ」
「ママちゃん口悪くなってるよ、ハハっ」
お前らも大概、呑兵衛やなぁ。
「おーい、いつまでふらついとるんじゃ」
て!?
「あっ、オバンくさっ!?連れ戻しに来やがった?」
ばあさん迎えに来たから、素直に戻るかの?
「じゃあな!お前たち。フッフーンだっ」
完




