3話 〜水に流そう〜
年末なので、呑む機会も多いと思いますので、酒のお供に読んで頂けたらと、連続投稿する予定です。
「あれ!?きっしーはまだトイレ?」
カウンターに座る常連の目が、きっしーの席とトイレを行き来する。
「ああ?」
と、答える俺はマスターさ。年は秘密ね。
「男のクセにとか言わないの」
「きっしーは平気かね?」
一応客の手前、女将さんに聞いてみたら、
「いつものことでしょ。まだまだ出てこないよ」
荒々しい返しの女将。もっと柔らかく行こうぜ。
「そうなんだ。でも他の人たちも入りたいかもしれないし」
どーだ正論だろ?
「そしたらノックするか、ソワソワするでしょ」
と、相変わらずなつっけんどんを、できたばかりの料理に乗せて来た。
おい、それは辞めろ!
「うーんでも、酒飲んでるから近くなるでしょ」
やはり自論が捨てきれません。俺は。
「じゃ聞けばいいじゃん」
嫌そうに手を振り、みんなを指差す女将。
「はあ、オシッコしたいですか?て聞いて回るの?」
そんな居酒屋聞いたことねぇー。
頭いってんだろ?ある訳ないだろそんな店。
「じゃあ黙ってろよ」
はいっ男丸出しのお前、出ましたぁ。
(つーかほんとに男じゃないよねアナタは)
ま、気を取り直し、カラオケの手拍子でもしていよーっと。
パチパチパチ、
「いやーうまいね、いい歌だね」
今の俺には沁みるぅー。
お?次はあの子かぁ、どんな歌声なんだろ?
コンコン、
て、おい、お前!
ノックしとるやん。
「きっしー、平気?ちょっと長いよ」
出ましたぁ、『私はいいの!』て奴。
伝家の宝刀、女将の棚上げ。
「マスター、そんな口の形なんてアニメでしか見たことないよ」
と、笑うのは赤ら顔の番頭。この時間になると色が変わるらしい。
ま、うちの店が呑ませているとも取れるか?
いや本人の意思だ。そこは譲らないよ〜。
で?きっしーの返事はあったの?なかったの?
スタスタと付け場に戻る女将は、何食わぬ顔でマイグラスを煽る。
「全く、喧嘩しないでよ」
と、トイレのドアを叩き、
「きっしさん起きてる?みんな入れないよ」
俺の代わりに言ってくれるのは、きっしーの連れのママさん。
しかし、喧嘩しないでよ、て俺はそんな険しい顔していたのか?
いかんいかん、客商売、客商売。
「よし、飲もう」
笑顔を作るだめだ。
「店のためなんだ」
「そんなこと言ってマスター、飲みたいだけでしょ?一杯だそうか?」
と言うのは40がらみの常連さん。
「おお、良いこと言うね君。週2日から3日にシフト増やしてあげようか、何なら」
「はははっ、参ったなぁ、もっと飲みに来いってか?」
まんざらでもないんだろ?
その笑い方は、いいぞ週5でも出させてやるぞ、金さえ使ってくれればな?
へへへっ俺の中の腹黒がぁ〜ああ。
「またバカばかり言って、ママも言ってやって下さいよぉ」
女将は半笑いなのか?未だ読めない。
「ははは、マスターも呑ませてくれるお客さんは確保したいからね!」
控えめに笑うが言うことはキツいぞー!ママさん。
そして、ついに天の岩戸が開くのだった。
神々しい照明を背にホールに降り立つきっしー様。
「どしたんですか皆さん。トイレの前に集まって」
ズレたメガネを上げながら真顔のきっしー。
顔を見合わせる彼以外の全員。
「具合悪いの?」
トイレに駆け込みたそうなピンちゃんと言う女性の常連さん。
「いや、ただキレが悪かったんですよ。何でもないですよ」
「な、なんなのそれ?20分もずーとこうしていたの?」
おおっと、手振りまで付けちまった。
そして巻き起こる酔った笑い。
「や、やめて笑わさないで〜漏れる漏れるぅ」
と、ピョンピョンしながらトイレに駆け込むピンちゃん。
俺の取った笑いを、ちっぽけなものに変える大笑いを取るのだった。
完




