8話 〜お久しぶり〜
「ここの階段を上がるのもひと苦労だね」
「そうよぉ。ちゃんと1人で降りられるくらいに抑えてよね」
「煩いなぁ、自分もだろ?」
チリン、チリン、
と、その軽いドアを開けると……
『居酒屋なみのり』
我らの青春が詰まった古巣なのです。
「ああ!?珍しいわね?大マスター」
「おお、久しぶりだね?相変わらず可愛いなぁお前さんは」
「いやだぁもう、ノリさんたら」
と、幾つになってもはしゃぐのはアユミ。
しかし、コイツもシワが増えたなぁ?
「ジィたちはそっちに座るか?」
「おぉ、そおだな?低い方がいいな」
よくここで飲んだくれて、座りながら寝てしまったもんだ俺も。
「瓶でいいかな?」
「うん、ルイもちゃんとやってるな?」
「平気ですよ、ナミちゃん。私が見ていますからね?」
そうウインクをして見せるアユミ。
その仕草には20年前に初めて会った時と、変わらぬ愛嬌があった。
「ナミちゃんて?俺のおばあちゃんだよアユミさん、アレは」
「いいじゃないの、女は幾つになっても若いのさ。チビも私をアユミちゃんと呼ぶんだよ?昔みたいにね」
と、言いながらカウンターの席から俺たちにグラスを向け、乾杯の仕草をするアユミだった。
早いもんだ——月日の、人の世の流れは
あのモエも今ではベルギーに行ってしまっている。
あの頃を彩った他の彼女たちも今は、あちこちに移り住んでいるみたいだった。
「ルイ、味噌カツをくれるか?」
「バァ、ここではマスターって呼んでよね?」
「何を生意気なぁ?今日のメシが美味かったら、そう呼んでやるよ?チビ助が」
「あぁ、バァまた言ったなぁ?トシくん召喚すんぞっ!」
「ふっ、あの世からお迎えに来いってか?アイツは来やしないよ」
「俺たちのことなんて忘れて、あっちで楽しくやってんだろな?アイツは……」
「ふふふ、弟のことをアンタたちは……まぁ、あの男なら仕方ないか?」
懐かしむアユミは、マイクを取り立ち上がるのだった。
歳と共に声に美しさが増すアユミの歌声に、酔いしれる俺たちだった……
そして、
チリン、チリン、
「ああ、いらっ……お久しぶりです。お二方」
と、ルイが笑顔を向けたのは、店長と十文さんだった。
「よっ、やっと来れたよぉ。検査終わってさぁ」
挨拶に片手を上げるのは、この男のトレードマークなのだろうが、シラフの時の照れが見え隠れしていた。
「あれっ?ナミさん、ノリさんじゃないですかぁ?」
「ああ!?ホントだぁ、久しぶりっ。どしたの今日は珍しい?」
「アンタもなかなか久しいわよ?店長」
「あれ、レレレ?アユミちゃんじゃないのぉ?」
相変わらずこの男は、いつも掃き掃除をしているおじさんかっ?
じゃあ、またみんなでこっちに座って、
「さぁて、乾杯〜!て、あれ?十文さんまだそのセットで飲んでるんだぁ?やるなぁ」
「はは、ここに来た時だけですよぉ?この店のせいですからね!」
「そうそう、私の人生が変わったのもここのせい!」
「わっははアユミちゃん、とうとうアサミに似て来たね?」
「もう、面倒だあー、お前はアサミなぁ!」
「もう、ノリちゃんは酔っ払ってぇ。ごめんねぇ、アサミちゃん」
「私はアユミだし、ナミちゃん」
「あ、ごめん。アサ……ユミちゃん」
「ねぇ、『ア』くらいちゃんと言い直して、一文字よ一文字。それに五十音の最初の……」
最初かぁ?
思えば、大変な始まりだったなぁ?
責任を被る形で会社を辞めて、ナミの夢と始めたこのお店。
少しずつお客さんが増えてくれて……
そこまで大きな波ではなかったけれど、乗れて……
今もこうして、気のいい顔ぶれが集まってさ。
良かったなぁ……この店を始められてさ。
「じゃあ帰るよ。みんなも元気でね〜」
閉めるドアに、どことなく重さを感じる。
あの頃は、いつも軽かったのになぁ……
しかし、
ああ、楽しかったなぁ。
「あ?忘れた……」
「何を?」
「ルイにマスターて呼んでやるのを」
「いいじゃないか、それはさ、また来られるってことでさ」
「そうだね?それとさぁノリちゃん……」
「何、今度は?」
「いや、結構さ、、、大きな波だったよ。それに乗れたんだよ?私たちはねっ!」
完




