5話 〜晴れやかに〜
1月も終わりに近づき、寒さに厳しさが増してきた。
そんな、ある日だった。
「来週は雪かもだってね」
「ああ」
「ああって、売り上げに響くんだからね」
「ああ……何かあったかい物でも用意してあげないとね」
「ふふ、そうだ……ね」
曇り空の下にあっても、晴れ渡るような2人だった。
今日はせっかくの休みだということで、鎌倉辺りにでも食べ歩きならぬ、呑み歩きをといそいそと繰り出す、ナミとノリ……そう『なみのり』の2人だった。
「はぁ、良いねたまには朝から呑むのも」
「アンタはいつも呑んでんじゃん」
「はぁ、お前もだろ?」
「ハハハっ」
そんな笑い声に干されて行く生ビールだった。
軽く呑み歩いたところで、
「ねぇ、たまには横浜まででようか?」
と、ナミの提案だった。
「良いけど、どこに行こうか?」
「そうだねぇ?」
「ま、取り敢えず行ってみるか?」
そして適当に決めようと、相変わらずな2人であった。
「あぁ、あれ?あんなだったっけ?」
「ホントだ。あまり電車で来ることないからね」
いつもは横横道路に、首都高を通る2人。
さすがに呑み歩きとなると、今日は電車である。
そんな窓からの景色が、懐かしくも目新しい2人であった。
「さぁて、どこに行こうかね?まだお腹空いてないでしょ?」
それなら、雑貨か服でもぶらぶらとと、ナミに気遣うノリだった。
「あ、じゃあさぁ、ラウの服とかも見ようよ」
「そうだね、犬用品の店とかもたくさんありそうだしね」
ぶらぶらよりもふらふらとの方が似合う2人は、歩きながらウインドウショッピングと洒落込むのだった。
「あ、あれは子供服じゃない?」
「ルイにか、見てこっか」
孫へのプレゼントを選ぶのも、2人にはまた楽しいひと時と言えた。
そんな時、不意に呼び声がした。
「よう、ノリじゃないか?」
え?
と、振り返ると、それは会社員時代の上司だった。
「ああ、お久しぶりです」
元上司には大人しいノリだった。
「珍しいところで会ったな?」
と、言いつつも、どこか面白くないという面持ちのその男。
「こっちはナミと言います」
「ほぉ、嫁さんか?楽しそうに……人に押し付けといて良い気なもんだ」
「いや、ですからアレは……」
変な雲行きに戸惑うナミ。
「ふっ、どうだったかな?しかしお前はなぁ」
「あの、お世話になったか知りませんが、何ですか突然」
「おい、やめろよ。いいから」
「女の陰にでも隠れるのか?」
「そんなつもりはないですよ。それに……」
口籠るノリ。
「ハッキリ言いなさいよノリちゃん」
「いや、いいんいだ」
女の人の前だからと強がりを見せるような男ではない。
普段の行いこそが?と考えるのがノリなのである。
「ふ、まぁいいや。ママに庇ってもらいなノリちゃんよ」
と、立ち去る元上司の男であった。
先ほどから明らかに口数の減ったノリ。
何か小骨でも引っかかるような顔で、スタスタと歩く彼だった。
気になるナミは、
「ねぇ、やっぱ言いたいこといえば良かったんじゃないの?」
「ん?いいよ。俺はもう辞めた身だから、残っている人や、目をかけてくれた上司だってまだ居るからね」
「ふーん」
と言いつつも、ノリのことを信頼するナミだった。
「じゃあさ、白楽まで行かない?」
「おっ、アレか?聖地巡礼だな?」
「そう、リョウが行ったらしいけど、美味しかったってよ」
「行くかっ、でもモエにバレたら怒られるな?」
「ホントだね。一緒に行こうって言ってたからね」
「今度、どっか連れてってやるか?」
「ま、ウチでも良いんじゃない?鍋パとかさ」
「おお、そしたらアレだ、みんな呼んでパァとやっかぁ?」
「ははは、結局そうなるよね?ノリちゃんらしいわ」
「そうだろ?俺はこうじゃ、なくちゃな」
帰りの夜風はいつになく身体に堪える寒さだった。
しかし、2人を温かくしているのは、酒のせいばかりではなかったようだ。
そして、まだまだ眠ることを知らない今夜の月は……
2人を横須賀の街へと誘うのだった——
完




