4話 〜憎めないヤツら〜
「あぁあ、タクシー全然来ないよ」
「そうっすね。しかし、今日は冷えますね」
「そうだな、俺たちの前にまだ5組はいるから、こりゃ無理だな」
諦めムードを匂わせつつ、どこか暖かい所で一杯やろうと思い出したのは……
俺タダシ45歳。
営業職の課長をしています。
「おぉ、いいっすね課長、ちょっと曲がりますか?」
この調子いいのは、ススムといって若手のホープ。
とは言え、ただ調子がいいだけで、その中身を悟られなければ……の話。
「じゃ、あっち行ってみるか?」
と、ふらふら来たのは……
『居酒屋なみのり』
ふーん、初めて見る名前だな?
そして、茶色いドアを開けると、
「いらっしゃいませ」
と、店主らしき男と、料理を作る女将らしき女のまな板を打つ音が小気味良かった。
「へぇ、こんなとこあったんですね?」
「な、いつもはひと駅向こうに行くからな」
「はいどうぞ、瓶ビールとお通しですねぇ」
「あ、頼んで良いですか?」
「はい、どうぞ」
「えーと、課長、コレ好きですか?」
「ああ、いいな」
「あと〜、コレはどおっすか課長」
「好きなの頼めばいいよ」
お前は、気を遣っているのか、自分で決められないタチなのか?
まぁ、その曖昧で柔らかいところがお前の売りなのだが、俺には……
「ノリちゃん、最近あれだね、カズヤくんみないね」
「そういえばそうだね?」
ん?カズヤ、人違いか?
「カズくん会社でイジメられてくたばったんじゃないの?」
「はは、ピンちゃんストレートすぎっ」
「でもね、冗談みたいに揶揄ったけど、実はホントにキツかったりしてね」
ん?会社でイジメとは穏やかではないなぁ?
「この間なんてカウンターで、ぐたぁてなってたよ」
「ナミちゃんそれホントに?」
「うん、何でもさ、課長にまた嫌味言われて、ホントに辞表を出そうか迷ってるって言ってたし」
課長?
「ありゃりゃ、それは深刻だなぁ。アイツも明るく振る舞ってるけどねぇ」
「そういえば、課長にくっついてる後輩が優柔不断で、そいつが客を逃したのにカズヤが怒られたってボヤいてたな」
優柔不断……うん、コイツのことだな、いつも俺に寄ってくるし。
「いるいる、そう言うエコ贔屓する上司ね、アイツも可哀想なんだね」
「何かああ言う話して嫌ですよね?贔屓する上司にベタベタする部下ってね!
多分、ピンポイントで俺たちの事を言われているんだぞ?
「まあ、そうだな?どこにもいるんだろう、そう言うのが」
と、話を合わせておこう。
「でもなぁ、アイツも39でしょ?今から転職じゃあ、可哀想だしなぁ?」
「成績はNo. 1らしいのにねぇ?」
はい、決まりましたっ。
彼らは私の部下のカズヤの話をしていますっ。
「あ、失礼ですが、あなた方は営業職ですか?」
えっ!?
「はい、そおっすけど、何か?」
「いや、知り合いがですね……」
「ああ、そうなんですか?でもそれは?」
うん、お前は黙っていて良いぞ、ややこしくするだけだからな?
「何かその方がお困りのようなんですね?勘違いとかであればいいんですがね?」
「そうなんですよ。良い奴だから可哀想で」
「ね、先月も後輩の発注ミスを被されて、参ったて言ってたわよね」
「言ってたね、ピンちゃん。俺も聞いたよそれ」
はははぁ〜、そうだったのか。
「うわぁ、俺の後輩がそんな事して来たら許さないですけどね?」
いやあ〜、お前はその後輩の方なんだがぁ?
「いやぁ、しかし、その彼はなかなか見どころのある人みたいですね?」
「ああ、アンタも分かりますか?ちょっとお調子モノなんだけど、憎めないというか」
はいっ確定!
そいつは俺の部下ぁ〜。
「あ?今からかよぉ?」
「どうしたんだススム?」
「いえ、課長何でも……」
「気にするな、また彼女か?」
「ええ、今から会えないかって?」
好都合じゃないか?
「ぜひとも行きたまえっ」
「へ?」
「あ、いや彼女は大切にしないとな?私のことは気にしなくていいから」
「分かりました。じゃ、ご馳走様でした」
ふぅ、逆にせいせいしたと言うもんだ。
「さぁ、みなさんここからの分は私が奢りますので、先ほどの彼の話をもうちょっと聞かせてもらえまけんか?」
「何でアンタに?」
あれ!?
完




