10話 〜たいはい〜
「泣かない〜」
おお、やっとるやっとる。
もう誰か歌っとるな?
どれ、そぉーとドアを開けると……
そこは『居酒屋なみのり』わしにとっては異世界じゃあ。
ん?2人とも気づかんのぉ。
よーし、それじゃあ歌が終わるまでここで聞くとするか。
「おお!あー」
「惜しかったね、自己記録更新かと思ったのにね?」
「また明日チャレンジするか?て!?あ、いらっしゃいませ」
ほほ、やっと気づきおったかマスター。
「すみません、採点で競っててうっかり」
女将もほどほどじゃな?
「今日は何になさいます?少し冷えて来ましたからね」
そうじゃなぁマスター、そしたら……
「ぬる燗でももらおかの」
「分かりました、2ご……、あ、迷惑かけたんで一杯目奢りますよ。それでちょっと」
何じゃマスター、奢りは嬉しいが、まさかワシを実験台とかにせんじゃろなぁ?
「え、アンタ何やってんの?それ使うの?」
「え、うん。サービスだから試してもらって」
おいマスター。
いや、ワシも80を超えたが、敢えてヘイっマスターと言わせてもらおうか?
ワシをどうする気じゃ。
「はい、松さんお待ちどう様」
おお、なんじゃこりゃ?
テレビでしか、いや今時テレビでさえ見んてこんなの!
「どうです?コレで一杯目はググッと行っちゃって」
そんな笑顔でマスター。
わしを殺す気か?
こんなの勢い付いて呑みまくるぞ!?
ま、いいか?
「んぐ、んぐ。プハぁー、うまい!」
ほれ、一口目から行ってしもうたじゃないか?
と、
「おお、この『ちろり』もいいのう。
トクトクとっおっとっと」
危ない、こんな大きいのに溢れさすとこじゃった。
しかし、あそこにいつも飾ってあったし、赤地に金の祝いて書いてあるが……
これは飾りモノではなかったのか?
「はいお通しです」
おお、女将よぉ、こんな通しもあるのか?
「ほふっ、ほふっ、うん旨いな女将。出汁もか?」
「ええ、作りました。もう寒いですからねぇ、それで昨日から」
あったまるわぁ。
いいのぉ、と?
「マスター、おかわりじゃ。ちろりはコレでええ」
「はいはい、気に入っていただけました?」
煩い、どっちかと言ったら、お前のせいで、呑み過ぎてしまうのを心配しとるんじゃ、ワシは。
でも、
「ぐび、ぐび」
と、わざと音を立ててしまう旨さよ!ほほ。
歌か、あれ?
誰か来とったの気づかんかったわ。
なかなか可愛ええ子じゃな、何歌うんじゃ?
おお、こんな古いのを歌うとはな。
「あの……、私の父が歌ってたんですけど、一緒に歌ってもらえませんか?」
て、え!?わしにか?
「あ、この方は歌はあまり」
煩い黙れマスター、この小僧!
しっ、しっ!
「いや、この歌はわしも好きですじゃ、歌いましょう」
「ありがとうございました」
おーおー、いい子じゃのう。
「お、もし良かったら一緒に呑まんか?」
ゆうてもうぁ、ゆうてもうたぁ!?
「あ、いえ、今から人が来ますので」
おおい、そんな顔しないでくれ、こんな歳でも恥ずかしくなるわ。
て、
「なあに笑っとんじゃ女将」
「ええ、松さん。フフっげきちーん」
「あ、女将テメェ」
まずいまずい、つい若い時の口が……
「はい、松さんコレ食べて」
「何じゃ?」
「サービスに赤魚の干物」
「おお、ありがとな2人とも」
ええ、奴らじゃのぉ、いい店じゃ。
「じゃオレ、振られ気分で……を歌うわ」
おいコラっマスター!!
完




