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お持ち帰りしたけりゃ獣化しな!

作者: henka

「リサちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「はい。何でしょう、瑞穂様?」

「今日、合コンがあるんだけど、友達が風邪を引いちゃって、女の子が不足してるのよ。よかったら、人数合わせに人間に化けて出てくれない?」

 瑞穂様がこう言うのには理由があります。何故なら、私の正体は魔法の力を授かったタヌキなのです。

「合コン? ですか?」

「そっか、リサちゃんはタヌキだから知らないかも。合コンっていうのは、簡単に説明すると、新しく友達をつくる飲み会って感じかな」

「なるほど。私はいいですよぉー」

「本当? ありがとう!」

 瑞穂様は私に笑みを返してくれました。うぅ……悔しいけど、瑞穂様のスマイルは可愛いのです。


「ケッ、合コンなんか行っても、お前には男は付かねえよ」

 私と瑞穂様が話をしていると、しょーすけ様が不機嫌そうに言ってきました。

「瑞穂様。しょーすけ様は瑞穂様に合コンに行って欲しくないみたいです」

 私はしょーすけ様の本心を瑞穂様に報告します。

「リサ、てめぇ! 俺の思考を読みやがったな!!」

「ありがとう、リサちゃん。大丈夫よ、庄助。私、今回、幹事なだけだから。心配しなくても浮気はしないから。あはは」

「ケッ……」


 しょーすけ様と瑞穂様と一緒に暮らし始めて、ある時、瑞穂様から聞いた話によると、告白はしょーすけ様からしてきたらしいのです。しょーすけ様に惚れて山からやって来た身としてはものすごく羨ましい話です。だから、しょーすけ様は瑞穂様が合コンに行くのが嫌だったのです。


「私も心配ご無用です! しょーすけ様以外の♂に興味はありませんから」

「タヌキ。お前はがんばれ。むしろ適当な男を見付けて、俺から離れてくれ」

「ガーン……私には冷たい……」

「こらこら、庄助! リサちゃん、可哀そうじゃない」

「いいから、お前ら、さっさと行って来いよ!」

 しょーすけ様は私達が出掛けるまでずっと不機嫌でした。


「まったく、庄助の奴、リサちゃんには冷たいんだから」

「いいのですよ、瑞穂様。私はタヌキですから……」

 一緒に暮らしてわかったのですが、私は瑞穂様からしょーすけ様を奪うことはできそうにありません。二人とも、お似合いだからです。でも、諦めるかと言うと、それもできそうにありません。なので、私は最近、傍にいられるだけでもいいのじゃないかと思うようになりました。幸いにも、私は人間じゃなくてタヌキなので、それができるのです!

「こらこら、リサちゃん。簡単に諦めていたら、私から庄助は奪えないぞっ。まぁ、今日はせっかくの合コンだし。楽しくやろう!」

「……はいっ!」

 瑞穂様は恋敵なのに落ち込んでいる私を励ましてくれる優しい方なのです。


 合コンは初めてやるのですが、私はこの場に集まる男性の方々を知らないばかりか、女性の方々も瑞穂様以外は知らないので緊張します。

「リサちゃん。タヌキってことは、一応、内緒にしておこっか?」

「はい。そうですね」

 瑞穂様との打ち合わせにより、私は瑞穂様のいとことしてみんなに紹介されることになりました。男性五人、女性五人の合コン。最初はお互いに向かい合わせに座り、自己紹介などをしながら、お互いのことを知っていきます。私はタヌキなので、いろいろ聞かれると困るのですが、瑞穂様がうまくフォローしてくださり、なんとかタヌキとバレずに楽しく会話をできています。タヌキ社会にもこういう場を設けてもいいかもしれないと思いました。


 幹事を務める瑞穂様が会話の流れをうまく取って、適度に席替えを提案します。男性、女性混ぜこぜになると、さらに話が盛り上がりました。店に出てくる魚介類の料理も美味しいのです。ただ、お酒というのはこれまで飲んだことが無かったので、私はすぐに酔ってしました。

「すみましぇん。トイレに行ってきみゃす……ひっく」

「リサちゃん、大丈夫?」

「らいじょーぶでしゅ。瑞穂さ……ん。心配ごみゅようなのでしゅ」

「……。ちょっと、心配だけど……何かあったら、いつでも連絡してね。最終手段、カバンに入れて帰ってあげるから」

「ひゃい。わかりましゅた! ひっく」

 私はふわふわした気分で、この場を抜けてトイレに向かいました。


 トイレから出てくると同じ合コンの席にいた男性の方と会いました。私はペコリと挨拶して戻ろうとしました。ところが……

「リサちゃん、メアド教えてよ」

「私、ケータイ持ってましぇん。ひっく」

「今の時代、持って無い訳ないでしょ。お願い。君の事が気になるんだ」

 なんと男性の方は私を口説き始めたのです。

「そう言われても持ってましぇん。だって私はタヌ……」

 私はここでハッとなりました。危ない危ない。自ら正体をバラしてしまうところでした。


「まぁ、いいや。それじゃあ、これから、俺の家に来ない? 近くなんだ。みんなには悪いが、抜け出そうぜ」

「瑞穂さ……んが……」

「瑞穂ちゃんも確かに可愛いけど、俺はリサちゃんがいいな」

 男性の方は攻めてきます。私は貶されるのには慣れっこですが、褒められるのは慣れていないので困りました。

「無理でしゅ~行けましぇん~」

「そんな堅いこと言わずにー」

 よく観察していみると、男性の方も結構酔っている感じでした。そこで私は考えました。

「私を連れて帰りたかったら、私みたいに動物に変身してくだしゃい。ひっく」

 相手が酔っているので変身しても大丈夫だろうと思いました。


「へ?」

 男性の方がよく意味がわからないという顔をしている前で、私は元のタヌキの姿に戻ります。全身からもこもこと茶色い毛が生えてきて、鼻が黒ずみ、顔の前面が前にでっぱります。お尻側が膨らんできて、パンツからしっぽを出します。耳が小さく丸くなり、髪の毛が短くなります。

 男性の方は私を見てポカンとしています。酔いが醒めてしまっていたら、ちょっとマズいかもです。でも、寄って来た男性を追い返すには変身を見せた方がいいかもしれません。

 体が縮み、来ていた服が床に落ちると、私はタヌキの姿で這い出てきました。それを見て、男性の方は目を丸くしています。

「ほら、どうでしゅか?」

 私は勝ち誇った顔で男性の方に言います。すると、こう返してきました。


「リサちゃん、仲間だったんだ」


「へ?」

 私が意外な反応に困惑していると、男性の方が……変身し始めたのです。

「ウソ……」

 男性の方は全身に黄金色の毛を生やします。耳が三角にピンと立ち、お尻の方からもこもことしっぽが出てきます。鼻と口先が徐々に突き出していき、マズルが形成されます。

「キ……キツネ!?」

 私は困惑しました。男性の方はドンドン、宿敵のキツネに姿を変えていきます。

「あわわわ……」

 服が落ちて、中からキツネになった男性の方が出てきました。私はビックリし過ぎて何も言えません。以前、アイドルのももちゃんと山で会ったあの気配と違います。この方は正真正銘の化け狐です!

「ほら、変身したぜ」

 男性の方は私に迫ってきます。私は最終手段で瑞穂様にテレパシーを送りました。



〝瑞穂様。トイレに今すぐ来てくだしゃい! ひっく〟



「リサちゃん、どうしたの……って……キツネ!」

「瑞穂様助けてくだしゃいー」

「リサちゃん、一緒に俺の家に行こうよー。それといい加減、リンって名前覚えて」

 リンは私のしっぽを甘噛みしてきます。

「あちゃー、これは合コンどころじゃないね……」

 瑞穂様の判断で、三人で途中で抜けて家に帰ることになりました。これから波乱の予感です。

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