惑星竜セレノヴァ──神々の災厄、声なき守護者
かつて、空を越え、魔導世界に墜ちたものがあった。
誰もそれを呼んだわけではない。だが、それは現れた。
名を持たぬ存在。けれど今、彼らはこう呼ぶ。
──セレノヴァ。惑星竜、混沌の星喰い。
第一章:その名もなき災厄
セレノヴァは語らぬ。言葉を必要としない。
言葉よりも遥かに深く、広く、重い“存在”そのものだからだ。
それは、喋らぬ。しかし愚かではない。
動物とは違う。あれは──星を喰うほどの本能を携えた知性体である。
体長はおよそ十二キロメートル。
かつて空を滑り落ちた時、その巨体は大陸の空を塞ぎ、世界の魔導潮流を狂わせた。
その尾は山脈を砕き、翼の波動は魔導嵐を巻き起こし、ただ“存在するだけで”異常が発生する。
地球の人類より遙に能力の高い魔導世界の人類が束になっても届かない。
都市が動いたとて意味はない。魔導機械が群れを成しても歯が立たぬ。
──なぜなら、それは個体数や知能では覆せぬ圧倒的な惑星サイズの存在だからだ。
第二章:血に流れる魔導、意思ある構造
セレノヴァの肉体には、物理的な“内臓”という概念が存在しない。
その肉や血液は、魔導エネルギーそのもので構成されている。
骨はダイヤモンドよりも硬く、魔導鉱石が結晶化して構造化されており、
皮膚は亀裂のように発光しながら常に再生している。
巨大な竜というより、“魔導生物に擬態した小規模惑星”とすら言える。
この存在の最大の特異点は、「飢餓」にある。
セレノヴァは強い。誰よりも、何よりも、負けることなどない。
だが、その力を維持するには巨大な魔導エネルギーの結晶が必要だった。
──世界が恐れたのは、その強さではない。
「喰わねば死ぬ」という事実こそが、世界にとって最大の恐怖だった。
第三章:なぜ世界は襲われたか
近しい過去、魔導世界が繁栄し、魔導結晶を無尽蔵に使用し天空にまでその結晶塔を築いた時代があった。
世界の民は言った──「これで我らは、他の世界の侵略など恐れずに済む」と。
だが、彼らは知らなかった。
空の彼方で、飢えた一つの存在が、自分の餌場を奪われていくのを見ていたことを。
セレノヴァは“意図的に”世界を襲ったわけではない。
ただ、生きるために接近した。
その巨大な口は、塔を喰い、逆らう都市を呑み、海を染めた。
だが、それは怒りではない。憎しみでもない。
──ただ“飢えていた”だけだった。
人間と同じく、自分が生存する為に必要な食料を奪われるのが怖かったのだ
第四章:最果ての人、ラスナとの戦い
魔導世界の人間は自分たちが滅びかけたと勘違いした。
当然、セレノヴァにはそんな意思は無い
しかし、恐怖は伝染し、天を覆うほどの巨影に、大地が恐怖の声を上げた。
どの国家も、どの種族も勝手に慌て勝手に抗う術を持たないと絶望した。
だが、ただ一人、真意を察知し、それを対処できる者がいた
その名は「ラスナ」。
最果ての書庫に棲む“究極の魔導剣士”。
星の理を刻む魔導文字を魂に刻み
無数の禁書と共に生きた、沈黙と誇りの戦士。
彼女は魔導剣を抜いた。
その一振りは、空間ごと悪しき因果を裂き、正しき因果に導く神話級の魔剣。
空を裂いて降り来るセレノヴァに対し、
ラスナは単騎、魔導式跳躍でその首元へ跳躍。
一閃、五重の魔導結界を斬り裂き、
その奥に現れたのは、光と重力が波打つ“星核”──セレノヴァの魔導中枢だった。
星核は常に膨張と収縮を繰り返し、
巨大な魔力のうねりを放っていた。
その揺らぎに合わせ、ラスナは瞬間を見極める。
剣では届かぬその核心へ、
彼女は封印魔導式を構築し、魔力を一点に集中させた。
放たれた光の楔が、星核の軌道の隙間に正確に突き刺さる。
それは破壊ではない──“封印の核点”を刻む、一瞬の奇跡だった。
セレノヴァは反応した。
咆哮と共に空が割れ、彼女を吹き飛ばさんとするも、
ラスナはすでに次なる陣を完成させていた。
古代魔導式《星鎖陣》──
重力と次元を操る最高位の封印陣。
セレノヴァの外殻を捕縛し、時空層へ引き込む
さらに魔導連鎖を“冷却”することで、その暴走を緩和。
最終的に、時空の狭間へと押し流すことに成功した。
戦いは熾烈であった。
だが、殺し合いではなかった。
ラスナは「否定」せず、「封じた」。
それが彼女の選んだ“最果ての剣”の在り方だった。
セレノヴァは眠るように姿を消し、
魔導世界は静かに、その命脈を繋ぎ止めた。
第五章:古なる戦い──クルサルとの激突
それより遙か昔。
セレノヴァは、魔導世界を襲撃した異界の軍勢──30メートル級の超戦闘生命体「クルサル」の軍団と衝突した。
クルサルは略奪と侵略を繰り返し己の強さにしか興味が無い、獰猛な戦闘種族。
星を焼き、世界を奪うことを使命とする存在であり、後に地球すらも狙う脅威となる。これはナズナ達によって一時的に阻止されたが
セレノヴァは、その侵攻を一個体で迎え撃った。
群を成すクルサルたちを圧倒し、数百体に及ぶ超戦闘種を単独で退けたのだ。
ブレス一閃で大陸を割り、尾の一撃で空を裂き、魔導の咆哮で次元を捩じ曲げた。
この時、誰もが知った。
セレノヴァとは「破壊するもの」ではなく、「守る者」なのだと。
だが、遥かな時を経て、そのことを忘れてしまった者が大半だ。
第六章:ナズナの反応
そして今、彼は別の世界を彷徨っている。
気配だけ。姿はない。だが、確かに近づいている。
ルミエールが言った。
「ナズナは無意識に“声なきもの”に引き寄せられてる。あの子は、過去の記憶を受け取る“器”だから(シグナルエコー)」
ラスナが言った。
「セレノヴァ……まだ、彷徨っているか。」
地球という世界は、非力で、脆く、だが同時に──“豊か”だ。
魔導の欠片すらないその地に、セレノヴァが興味を抱く理由はただ一つ。
地球の奥底に眠る、手の付けられてない魔導の塊だ。
しかし、ラスナとルミエールの、その解釈は間違っている
セレノヴァの真の望みは.......
──そこに、ナズナがいるからだ。
竜は今も、静かに宙を漂っている。
星々の狭間を渡りながら、かつて出会えなかった“理解者”を探している。
言葉を持たぬまま、ただ微かに、進路を“彼女”の方へ向けているのだ。
その姿を誰が見るでもなく。
声を誰が聞くでもなく。
ただ、巨大な沈黙の中で、セレノヴァは彷徨っている──
今度こそ、誤解されぬために。