かんな、我に帰る
無理
かんな、我にかえる
「か、かんなさ……かんなさ……ん!」
グランファリーさんの声が遠くで響く。
その瞬間、かんなの意識が過去から現在へと引き戻された。
(……なにやってんの私! 過去ばっかり思い出してないで、今は――!)
目の前では、地面が揺れて、亀裂が走る。
ザルヴァル・ウェイドが……出てきた。
「グランファリーさん! ザルヴァル・ウェイドって!?!?」
りゅうとが叫ぶ。
どうやら、あの記事は読んでなかったようだ。
(たしか、ザルヴァル・ウェイドは森で目撃されたって記録があった。でも今ここに封印されてたってことは……)
そんなことを考える余裕なんてない。
足元がぐらつく。視界が赤く染まる。
「グアアアアアアアアアア!!」
唸り声が響く。
ザルヴァル・ウェイドが姿を現した。
そして今頃、グランファリーさんがりゅうとの質問に答える。
「ザルヴァル・ウェイド……それは、200体のボスのうちの1匹です!」
「な、なんだと……!」
りゅうとは驚いていたが、その時間すら惜しいほど状況は加速していた。
「グヤナハサナナラタヤタハワタアハニマテラハカタマヤコユヌツネユフリリメユユテリテコキニサハヒテハナニナニナヤハハカハ……」
ザルヴァル・ウェイドが謎の呪文を唱え始める。
「みんな、逃げて!」
かんなは必死に叫ぶ。
クロもいる。りゅうともいる。グランファリーさんだって。
こいつが外に出れば、世界はどうなるかわからない。
でもまずは、みんなが無事でいてくれたらそれでいい。
……そう思った矢先。
「クロクロクロクロクロクロクロクロ!」
「な、何してるの!? 今ふざけてる場合じゃないよ! クロ!」
クロが壊れたみたいに「クロクロクロ……」と繰り返している。
「早く逃げなきゃ! ザルヴァル・ウェイド、まだ呪文唱えてる! 今のうちに!」
かんなは声を張り上げる。
りゅうとも悔しそうな表情だったが、頷いて動き出す。
クロはそのまま無理やり引っ張って――なんとか出口へ。
だがグランファリーさんだけは、そこに残っていた。
「グランファリーさん! 逃げてください!」
「いいえ、私は森の精霊。ここは……私の責任です。なんとかしてみせます。
かんなさん、お先に。――またいつか」
笑顔だった。
すごく綺麗で、誇り高くて、切なくなるほど。
(どうして逃げてくれないの……なんで、そんな顔するの……)
かんなが言葉を詰まらせていると、後ろからりゅうとの声が聞こえた。
「……俺たちも、戦うぞ! 今度は封印じゃない。決着をつける!」
「無理だよ! りゅうと!」
「無理でもいい! ゲームだから復活できる。だから、今は全力で戦うんだ!」
「そ、そんな……!」
かんなは一瞬言葉に詰まる。
たしかにゲームなら、復活できる。
でもこの世界では、グランファリーさんが……もう戻ってこられないかもしれない。
あのモンスターが解放されたら、森は確実に破壊される。
それなら――復活できる私たちが守るしかない。
でも、そう思いかけた瞬間――
ザルヴァル・ウェイドが手をゆっくりとかんなたちに向けて伸ばした。
その指が空を裂くように動いた瞬間――
空気が変わった。
重く、冷たく、何かが動き始めているような……そんな気配が満ちていく。
無理




