雲の影ーー空から降りるもの
無理
雲の影ーー空から降りるもの
雲の向こうから、ゆっくりと降りてくる“それ”は、
白い霧に包まれながら、徐々に輪郭を現していった。
最初に見えたのは、広がる翼。
次に、長くしなやかな尾。
そして、全身を覆う虹色の鱗――
「……ドラゴン……?」
かんなが、ほうきの上で息を呑んだ。
その姿は、絵本や伝承でしか見たことのないものだった。
けれど、今、確かに目の前にいる。
「ミラーシャルドラゴン……!」
りゅうとの声が震えていた。
クロも、ふわふわの体をぴたりと止めて、空を見上げる。
「伝説の……守護竜クロ……?」
ミラーシャルドラゴン。
千年前、この世界を守っていたとされる存在。
ある日突然、姿を消し、誰もその行方を知らなかった。
ただ、語り継がれていたのは――
「人を守るために、どこかへ旅立った」という言葉だけ。
そのドラゴンが、今、雲の中から現れた。
虹色の鱗が、太陽の光を受けてきらめく。
その瞳は、深い湖のように澄んでいて、
かんなたちを見下ろすと、ふと――
「……っ!」
ミラーシャルドラゴンの顔が、わずかに動いた。
その瞳が、かんなをまっすぐに捉える。
「え……?」
かんなは、思わず息を止めた。
その瞬間、空気が変わった。
まるで、体の奥に何かが触れたような感覚。
「……オーラ……?」
かんなの胸の奥が、熱くなる。
言葉では説明できない。
けれど、確かに“何か”が、かんなの中で反応していた。
ミラーシャルドラゴンは、ゆっくりと翼をたたみながら、かんなの方へと降下してくる。
その動きは、威圧ではなく、静かで慎重だった。
「……かんなを見てる……?」
りゅうとの声が、かすれた。
クロは、かんなの足元で小さくつぶやいた。
「……感じてるクロ……かんなの中の、何かを……」
ミラーシャルドラゴンは、かんなの目の前まで降りてくると、
その巨大な顔を、ほんのわずかに傾けた。
まるで、何かを確かめるように。
かんなは、ほうきの上で動けなかった。
怖くはなかった。
ただ、胸の奥がざわついていた。
ドラゴンの瞳が、ゆっくりと細められる。
その瞬間、かんなの中に、熱のようなものが走った。
「……どうして……」
言葉にならない感情が、喉の奥で震える。
ミラーシャルドラゴンは、何も言わない。
ただ、静かに、かんなを見つめていた。
そして――
その巨大な翼が、ふわりと再び広がった。
虹色の光が、空に反射してきらめく。
次の瞬間、ドラゴンの身体が、かんなの方へと――
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次章予告:「目覚める力――オーラに呼ばれて」
雲の中から現れたのは、伝説の守護竜・ミラーシャルドラゴン。
言葉を持たぬその存在は、ただ静かに、かんなのオーラを見つめる。
その反応は、偶然か、それとも運命か――
次回、ドラゴンが動く。
かんなの中に眠る力が、呼び起こされようとしていた。
無理




