表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/212

森の影、動くーーぬいぐるみの勇気

無理

森の影、動くーーぬいぐるみの勇気

森の空気が、ぴたりと止まった。

風も、鳥も、虫の音さえも消えたような静寂。

かんなは、魔法の杖を握りしめたまま、じっと前を見つめていた。


「……誰も、いない……?」


そう思った瞬間、クロが小さく鼻を鳴らした。


「クロのぬいぐるみセンサーが反応してるクロ……でも、姿が見えないクロ……」


「ぬいぐるみセンサーって……ほんとにあるの?」


りゅうとの声が、少しだけ軽くなっていた。

それでも、手はしっかりと剣の柄を握っている。


「……なんか、森の一部みたいに溶け込んでる気がする」


かんなが、そっとつぶやいた。

目を凝らしても、何も見えない。

ただ、木々の間に“何か”がいるような気配だけが、確かにある。


「……もしかして、気のせい……?」


かんなは、ゆっくりと魔法の杖を下ろした。

その瞬間――


パンッ!!


鋭い音が森を裂いた。

銃弾が、かんなのすぐ横をかすめて、近くの木に命中する。


「っ……!」


木が軋む音を立てて傾き、

そのまま地面に倒れ込んだ。


「かんな!!」


りゅうとが、すぐに前へ飛び出した。

その動きは素早く、頼もしかった。

クロも、かんなの足元に飛び込んでくる。


「クロ、かんなの盾になるクロ!!」


「いや、クロはぬいぐるみだから……!」


「ぬいぐるみでも、守れるクロ!!」


かんなは、倒れた木を見つめながら、息を呑んだ。

敵の姿は、どこにもない。

けれど、確かに“狙われている”という感覚だけが、背中に貼りついていた。


「……喋らないし、姿も見えない。

でも、確かにいる……」


りゅうとは、剣を抜いたまま、にやりと笑った。


「……なんだよ、隠れてるなら出てこいっての。こっちは準備できてんだけどな」


「りゅうと……」


かんなは、思わず彼の横顔を見た。

その声には、ほんの少しだけ安心が混じっていた。


「……動くな。次、狙われるのは誰か分からない」


「うん……」


クロは、ふわふわの体でかんなの足元にぴたりと寄り添いながら言った。


「かんな、りゅうと、クロは逃げないクロ。でも、怖いのはちょっとあるクロ……」


「……うん。怖いよね。でも、ありがとう」


かんなは、クロの頭をそっと撫でた。

その手のひらに、少しだけ震えがあった。


りゅうとは、森の奥を見据えながら、少しだけ声を張った。


「おーい、そっちの“森の影さん”、黙ってないで出てきたらどうだー?

……って、まあ無理か。喋らないタイプか」


「りゅうと、ふざけてる場合じゃ……」


「いや、ちょっとくらい声出してないと、緊張で固まるだろ。俺もさ」


その言葉に、かんなは小さく笑った。

ほんの少しだけ、肩の力が抜けた。


けれど、森の奥からは、また音がした。

枝がきしむ音。葉が揺れる音。

そして、何かが地面を踏みしめるような、重い気配。


敵は、まだ姿を見せない。

けれど、確実に近づいている。


---


次章予告:「見えない敵――森の狙撃者」

銃弾が森を裂き、静寂が緊張に変わる。

かんなとりゅうとの距離が、少しずつ近づく中、

クロの無邪気な勇気が、ふたりを支える。

次回、見えない敵が再び動き出す。

その正体は、森に溶け込む狙撃者。

姿なき脅威に、どう立ち向かうのか――

ミナト村への道は、まだ遠い。

 

無理

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ