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語りの決断ーーアリサン、語るか否か

無理

語りの決断ーーアリサン、語るか否か

空が震え、風がざわめいた。

リルドの掌に、黒い結晶のようなものが浮かび上がる。

それは、すべてを凍らせ、燃やす――最強の力。

拒絶の極点から生まれた、闇の結晶だった。


「これが、我らの“秘密兵器”。

語りを凍らせ、風を止める力だ。

お前たちの語りなど、これで終わりだ!」


リルドが結晶を掲げた瞬間、

空の色がわずかに濁り、風が一瞬だけ止まった。

語りの流れが、凍りつくように静止する。


だが――そのとき。


「待って、リルド」


その声は、風の中に溶け込むように、静かだった。

けれど、確かに届いた。

語りのように、まっすぐに。


アリサンが、リルドの前に立ちはだかっていた。

その灰色の羽が、風に揺れている。

彼の瞳は、もう迷っていなかった。


「……それを使う前に、ぼくの話を聞いてほしい」


リルドは、目を細めた。


「アリサン……お前、まさか……」


アリサンは、ゆっくりと語り始めた。

その声は震えていたが、確かに語りの風に乗っていた。


「ぼくは……昔、語りを持っていた。

でも、それを誰にも聞いてもらえなかった。

語っても、笑われて、否定されて、

やがて、語ることが怖くなった」


風が、そっと彼の背を押す。

語りの芽が、胸の奥でかすかに揺れていた。


「そのとき、リルド様が現れた。

“語らなくていい”って言ってくれた。

“語りなんて、弱さだ”って。

ぼくは、その言葉に救われたと思った。

でも……」


アリサンは、リルドを見上げた。

その瞳には、語りの光が宿っていた。


「でも、あれは“救い”じゃなかった。

ただ、語りを閉じ込めただけだった。

ぼくは、ずっと……語りたかったんだ」


リルドの手が、わずかに震える。

黒い結晶が、かすかに軋む音を立てた。


「アリサンやめろ!

それ以上語るな。

お前まで、風に流されるな……!」


だが、アリサンは止まらなかった。

風が、彼の語りを包み込んでいた。

その語りは、まだ始まったばかりだった。


「ぼくの語りは、まだ途中なんだ。

でも、もし誰かが聞いてくれるなら――

ぼくは、もう一度……語ってみたい」


その言葉が、風に乗って広がっていく。

語りの流れが、再び動き出す。

空が澄み、大地が震え、灯が揺れる。


リルドは、結晶を握りしめたまま、動けなかった。

その瞳の奥で、何かが揺れていた。


そして、アリサンの語りは――

まだ語られていない過去へと、静かに続いていく。


---


次章予告:「語りの記憶――アリサンの封じられた日」

アリサンが語り始めた、自らの過去。

それは、語りを失った日、そしてリルドと出会った日の記憶。

語ることをやめた理由、心を閉ざした理由。

次回、語りの記憶が開かれる。

それは、風の未来を決める鍵となる――

そして、リルドの心にも、かすかな風が吹き始める。

 

無理

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