風の対話ーー語りが届くとき
無理
風の対話ーー語りが届くとき、
風が交差し、語りが空と地を満たしていた。
その流れの中で、悪の靄が再びうねり始める。
語りに触れたことで、闇は揺らぎ、
その中心から――二つの影が現れた。
ひとりは、漆黒の鎧をまとい、
その瞳に深い拒絶と冷たい知性を宿していた。
悪の精霊、リルド。
魔王に次ぐ力を持ち、語りを最も深く憎む者。
もうひとりは、細身の体に灰色の羽を持ち、
リルドの背後に静かに立つ者。
悪の従者、アリサン。
語りを持たぬまま、リルドに仕える者。
風がふたりの周囲を巡る。
語りの力が、彼らに届こうとしていた。
だが、リルドは一歩前に出て、風を裂くように言った。
「語りなど、弱者の幻想だ。
言葉に頼る者は、風に流されるだけ。
我らは、奪うことでしか生きられぬ。
それが、真の力だ」
風の精霊は、静かにリルドを見つめる。
その瞳に、恐れはなかった。
彼女は、語りを知っていたから。
「語りは、流されるものではない。
それは、選ぶもの。
誰かに届くことを願う、風のかたち」
リルドは、冷たく笑った。
その笑いは、空気を凍らせるようだった。
「ならば、見せてみろ。
その語りが、我らに何をもたらすのか」
アリサンは、リルドの背後で風に触れようとしていた。
その指先が、語りの流れにかすかに触れた瞬間――
彼の瞳が、わずかに揺れた。
「……これは、誰かの声……?」
リルドが振り返る。
その目に、わずかな苛立ちが宿る。
「アリサン、語りに触れるな。
それは、我らを弱くする」
だが、アリサンはその言葉に答えず、
風の中に漂う語りを、もう一度見つめた。
それは、影が語った言葉だった。
「……ぼくは、語る。
誰かに届くかはわからない。
でも、語りたいと思った。
それが、ぼくの力だから」
その言葉が、アリサンの胸に届いていた。
語りは、届いたのだ。
闇の中に、ひとつの芽が――
静かに、生まれ始めていた。
風の精霊は、そっとつぶやく。
「語りは、奪えない。
それは、誰かが受け取ることで、生まれるもの」
リルドは、風を睨みつける。
その身に、語りが触れることを拒むように、
靄が再び濃くなる。
だが、風は止まらない。
語りは、確かに届き始めていた。
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次章予告:「揺らぎの種――アリサンの選択」
語りが、アリサンの心に届いた。
それは、闇の中に生まれた最初の芽。
リルドは語りを拒み、風を裂こうとする。
だが、語りは静かに揺らぎを生む。
次に訪れるのは、アリサンの選択――
語りを拒むか、語りを受け取るか。
その選択が、風の行方を決める。
無理




