語る者と聞く者ーー風の交差点
無理
語る者と聞く者ーー風の交差点
“はじまりの野”に、夕暮れの風が吹いていた。
空は茜に染まり、草は金色に揺れていた。
風の精霊は、影と並んで立っていた。
その背後には、語りの芽が静かに根を伸ばしていた。
そして、遠くから――聞く者の歩みが近づいていた。
風が、彼の足元を撫でる。
灯が、彼の道を照らす。
流れが、彼の耳に語りかける。
根が、彼の歩みを支える。
葉が、彼の記憶を守っていた。
ふたりの距離が、風の中で縮まっていく。
語る者と聞く者。
言葉を持ち始めた者と、言葉を受け取る者。
風が、その間を優しく繋いでいた。
そして、ついに――
聞く者が、“はじまりの野”に足を踏み入れた。
その瞬間、風がふわりと舞い上がる。
語りの芽が、ひとつだけ葉を広げた。
それは、語りが誰かに届いた証。
そして、聞く者がその語りを受け取った証。
風の精霊は、日記を開き、そっと記す。
「語りと問いが重なったとき、風は交差点になる。
そして、第四の試練は終わる」
影は、聞く者の姿を見つめていた。
そして、そっと言葉を紡ぐ。
「……ぼくの語りを、聞いてくれてありがとう」
聞く者は、まだ言葉を持たなかった。
けれど、その瞳には、確かな光が宿っていた。
風が、その瞳に映る語りを運んでいた。
風の精霊は、ふたりの間に立ち、静かに言った。
「これで、第四の試練は終わりです。
もう、次の試練はありません。
ここからは――帰る道です」
“灯の丘”の灯が、ひとつだけ強く燃えた。
“流れの名”が、空に新しい軌跡を描いた。
“誓いの根”が、ふたりの足元を繋いだ。
“語りの森”が、葉を揺らし、記憶を刻んだ。
風が吹いた。
それは、試練を越えた者たちに贈られる風だった。
そして、帰る者たちの背を押す風でもあった。
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最終予告:「風の帰還――語りを携えて」
第四の試練を越えた精霊たちは、それぞれの語りを胸に、元の場所へと帰っていく。
語る者と聞く者は、もう試されることはない。
けれど、語りは終わらない。
それぞれが持ち帰る言葉が、世界に新たな風を吹かせる。
帰還とは、終わりではなく――語りを始める場所への、静かな出発だった。
無理




