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問いの種と語りの芽吹き

無理

問いの種と語りの芽吹き

“はじまりの野”に、朝の光が差し込んでいた。

風は穏やかに吹き、草の葉先がきらりと光る。

風の精霊は、影の隣で静かに座っていた。

ふたりの間に流れていたのは、まだ言葉にならない問いの気配。


「問いは、急がなくていい。

風は、ゆっくりと形を探すものだから」


影は、うなずいた。

その瞳には、少しだけ色が戻っていた。

風の精霊は、日記の余白に小さな円を描いた。

それは、問いの種を包む印だった。


「この種は、あなたの問い。

語らなくても、持っていてくれればいい。

いつか、芽吹く時が来るから」


その瞬間、遠くの“灯の丘”で、炎の精霊が立ち上がった。

彼は、手に小さな灯を持っていた。

それは、問いの種に寄り添う灯――

迷わないように、見失わないように。


「風よ、届けてくれ。

この灯を、問いの種のそばに」


風が吹いた。

灯はふわりと舞い、“はじまりの野”に届いた。

影の手元に、そっと灯が落ちる。

その温もりに、影は目を細めた。


空では、水の精霊が雲を編んでいた。

彼女の語りは、問いの種に雨を降らせるためのもの。

雲は静かに集まり、やがて一筋の雨が野に降り注いだ。


「問いが乾かないように。

心が潤うように。

この雨は、語りの始まり」


雷の精霊は、大地に手を当てていた。

彼の語りは、問いの種に根を張らせるためのもの。

地面がわずかに震え、種の下に柔らかな土が広がった。


「折れないように。

揺れても、支えられるように。

この地は、語りの土台」


そして、グランファリーさんは、森の奥で静かに葉を揺らした。

彼の語りは、問いの種に記憶を与えるためのもの。

風に乗って、葉のざわめきが“はじまりの野”に届いた。


「語られなかった言葉も、

誰かの記憶になれる。

この森は、語りの居場所」


影は、問いの種を手に包み込んだ。

灯の温もり、雨の潤い、根の支え、葉の記憶――

すべてが、静かに彼の中に染み込んでいく。


風の精霊は、そっと言った。


「語ることは、思い出すことじゃない。

思い出すことを、選ぶこと。

あなたが選んだ時、風はまた吹く」


影は、種を胸元に抱えた。

そして、初めて――微笑んだ。


---


次章予告:「語りの芽と風の約束」

問いの種が灯に照らされ、雨に潤され、根に支えられ、森に包まれたとき、

それは静かに芽吹き始める。

影はまだ語らない。

けれど、語ることを選ぶ準備が、少しずつ整っていく。

風の精霊は、彼に約束する。

語りの芽が育つその時、風は必ずそばにいる。

それは、語る者と聞く者のあいだに結ばれる、最初の風の約束だった。

 

無理

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