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語りの森と灯の丘

無理

語りの森と灯の丘

“はじまりの野”には、風が吹いていた。

風の精霊が語るたびに、草が揺れ、花が咲き、空が広がっていく。

彼女の言葉は、誰かの記憶に触れるような優しさを持っていた。

それは、まだ届かない誰かのための風だった。


“灯の丘”では、炎の精霊が小さな灯をともしていた。

彼の語る物語は、迷いと希望のあいだに揺れていた。

灯は、過去の痛みを照らし、未来の道を示す。

丘の上に並ぶ灯は、まるで誰かを待つように、静かに燃えていた。


空の高みでは、水の精霊が風に乗りながら、流れを描いていた。

彼女の言葉は、空に溶けて雲となり、雨となって地に降りる。

それは、誰かの心に染み込むような、静かな語りだった。

空には、彼女が名づけた“流れの名”が、ゆっくりと広がっていた。


雷の精霊は、大地に根を張っていた。

彼の語る言葉は、力強く、揺るぎない。

“誓いの根”は、地面を貫き、遠くの森へと伸びていく。

その根は、誰かの約束を支えるために、静かに育っていた。


そして、“語りの森”では、グランファリーさんが静かに語っていた。

彼の言葉は、葉のざわめきとなり、枝の揺れとなり、森の記憶となった。

森は、語られた言葉を抱きしめ、誰かが迷ったときに思い出させる。

その根は、精霊たちの言葉をつなぐ道となっていた。


それぞれの場所で、精霊たちは語り続けていた。

風、灯、流れ、根、森――それぞれの言葉が、世界に風を吹かせていた。


そして、ある日。


“はじまりの野”に、ひとりの影が現れた。

それは、見知らぬ者だった。

けれど、風の精霊はすぐに気づいた。

その者の足元に、風が集まっていたから。


「……あなたは、風に導かれて来たの?」


影は、少しだけうなずいた。

その瞳には、迷いと希望が混ざっていた。


風の精霊は、日記を開いた。

そして、余白に新しい言葉を綴る。


「誰かが風に気づいたとき、物語は出会いになる」


その言葉に応えるように、丘の灯が揺れた。

空の流れが変わり、雷の根が震え、森の葉がざわめいた。


語る者たちの言葉が、誰かに届いた瞬間だった。


---


次章予告:「風に導かれた者と最初の問い」

“はじまりの野”に現れた影は、風に導かれてやってきた者だった。

彼は、まだ言葉を持たない。

けれど、精霊たちの語りに耳を傾けることで、少しずつ自分の問いを見つけていく。

風の精霊は、彼に語りかける。

それは、物語の続きを紡ぐための、最初の問いだった。

語る者と聞く者――その出会いが、世界に新たな風を吹かせる。

 

無理

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