第3の試練.記憶の回廊
無理
第3の試練.記憶の回廊
光の中を進むと、空気が変わった。
風の精霊は、まるで水の中を歩いているような感覚に包まれる。
足元は柔らかく、踏みしめるたびに淡い光が広がった。
その光は、彼女の記憶に反応しているようだった。
回廊は静かだった。
だが、壁には映像のようなものが浮かび上がっていた。
それは、風の精霊がまだ幼かった頃の記憶。
誰かに手を伸ばせなかった瞬間。
誰かの涙に気づけなかった夜。
「……これは、私の記憶」
彼女は立ち止まり、壁にそっと手を当てる。
すると、映像が揺れ、声が響いた。
「あの時、言えなかった言葉。
それが、今も残っている」
風の精霊は、目を閉じた。
その言葉が胸に刺さる。
けれど、もう逃げる気持ちはなかった。
「……受け止める。全部」
彼女が再び歩き出すと、回廊の先に分かれ道が現れた。
右の道には、雷の精霊の記憶。
左の道には、水の精霊の記憶。
その奥には、炎と森の精霊の記憶が交差していた。
風の精霊は、通気口に向かって声を送る。
「みんなの記憶が、ここにある。
それぞれが、自分の道を選ばなきゃいけないみたい」
雷の精霊の声が返ってくる。
「……見えてる。俺の記憶。
誰かを怒鳴った瞬間。
守りたかったのに、守れなかった。
でも、もう逃げない」
水の精霊が静かに言った。
「私も。あの夜のこと、思い出した。
誰かの声を聞いていたのに、動けなかった。
それでも、今なら……向き合える」
炎の精霊は、短く息を吐いた。
「信じるって、怖いことだった。
でも、信じたいって思った気持ちは、本物だった。
それを、忘れたくない」
グランファリーさんの声が、最後に響いた。
「記憶は痛みだけじゃない。
優しさも、後悔も、全部が私たちの一部。
それを抱えて、進みましょう」
風の精霊は、回廊の中央に立ち、日記を開いた。
その最後のページが、静かに光を放っていた。
「第三の試練は、記憶を越えて進む者のためにある。
選ぶのは、出口ではなく――自分自身」
彼女は、日記を閉じた。
そして、仲間たちの記憶が交差する場所へと歩き出す。
その先に、試練の扉が待っていた。
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次章予告:「選択の間と記憶の証明」
記憶の回廊を越えた先に現れるのは、“選択の間”。
そこでは、精霊たちが自らの記憶を証明し、未来への道を選ばなければならない。
第三の試練は、過去を受け入れるだけでは終わらない。
それぞれが、自分の“本当の姿”を見つけるための問いに向き合う。
風の精霊は、仲間とともに――最後の扉へと手を伸ばす。
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