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影との対話、そして選択

無理

影との対話、そして選択

風の精霊は、扉の前に立ち尽くしていた。

開かれたその先――第六の部屋は、静かすぎるほど静かだった。


一歩。

彼女は、足を踏み入れる。

床板が、わずかに軋む。

その音が、まるで誰かの呼吸のように、部屋に染み込んでいく。


椅子に座る“誰か”は、微動だにしない。

顔は見えない。

けれど、確かに視線だけが、風の精霊を捉えていた。


その視線は、冷たくもなく、怒りでもない。

ただ、深く――深く、静かに見つめていた。

まるで、彼女の心の奥にあるものを、そっと探るように。


風の精霊は、胸に抱えた日記をぎゅっと抱きしめた。

その重さが、今は少しだけ軽く感じられる。

きっと、ここにたどり着くために書かれたものだった。


「……あなたは、誰?」


彼女の声は、空気を震わせるほどに静かだった。

言葉は、音もなく部屋に溶けていく。

返事はない。

ただ、椅子の人物の指が、ほんのわずかに動いた。


風の精霊は、その動きに気づいた。

けれど、怖くはなかった。

むしろ、何かが始まろうとしている――そんな予感がした。


彼女は、もう一歩、近づく。

椅子との距離は、あと数メートル。

その間に、空気が変わる。

重く、静かで、でもどこか懐かしい。


「……私たちは、ここに閉じ込められていた。

でも、あなたはずっと、見ていたんでしょう?」


沈黙。

だが、その言葉に、部屋の空気がわずかに揺れた。


椅子の人物の肩が、ほんの少しだけ動いた。

それは、肯定のようにも、否定のようにも見えた。


風の精霊は、日記をそっと床に置いた。

そして、両手を胸の前で組む。


「私たちは、ここから出たい。

でも、それだけじゃない。

私たちは、知りたい。

なぜ閉じ込められたのか。

なぜ、あなたがそこにいるのか。

そして――私たちが、何者なのか」


その言葉に、部屋の奥で何かがきらりと光った。

それは、椅子の人物の目だったのか。

それとも、記憶の中にある何かだったのか。


風の精霊は、静かに息を吸った。

そして、次の言葉を口にしようとした――その瞬間。


椅子の人物が、ゆっくりと立ち上がった。


その動きは、まるで時間が引き伸ばされたように、ゆっくりと。

風が、部屋の中を静かに巡る。

そして、影が――確かに、動き始めた。


---


次章予告:「立ち上がる影と記憶の扉」

第六の部屋で、ついに“誰か”が動き出す。

風の精霊の問いかけに、沈黙の中で応えるように立ち上がった影。

その存在は、精霊たちの記憶と深く結びついていた。

次に語られるのは、過去の真実か、それとも未来への選択か。

扉の先で、精霊たちは“自分たちの物語”と向き合うことになる。

無理

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