記憶の扉と第六の影
無理
記憶の扉と第六の影
扉が脈打つように、ゆっくりと震え始めた。
風の精霊が手を離すと、光はそのままくぼみの中に吸い込まれ、静かに消えていく。
次の瞬間――鉄の扉が、重々しく開き始めた。
ギィィ……という音が、保管室の奥に響き渡る。
その音は、まるで長い眠りから目覚めるようだった。
風の精霊は、日記を胸に抱えたまま、開いた扉の先を見つめる。
そこには、薄暗い廊下が続いていた。
壁は無機質で、どこか病院のような冷たさがある。
だが、空気には確かに“誰かの気配”が漂っていた。
「……ここが、第六の部屋の先……」
彼女は通気口に向かって声を送る。
「扉が開いた。今から、先に進む。みんなも、準備して」
雷の精霊の声が返ってきた。
「了解。こっちも、もうすぐ檻を抜けられそうだ。そっちで何かあったら、すぐ知らせてくれ」
風の精霊は、廊下に足を踏み入れる。
歩くたびに、靴音が静かに響いた。
壁には何も貼られていない。
ただ、廊下の奥に、ひとつだけ扉が見える。
その扉は、他のものとは違っていた。
木製で、古びていて、まるで誰かの部屋のような雰囲気を持っている。
取っ手には、精霊たちの紋章が刻まれていた。
風の精霊は、そっと手を伸ばす。
だが、触れる寸前――扉の向こうから、かすかな音が聞こえた。
それは、誰かが椅子を引くような音。
誰かが、立ち上がるような気配。
風の精霊は、息を止めた。
「……誰かがいる」
彼女は、日記を開く。
最後のページをもう一度見つめた。
「忘れたふりをしても、あいつは見ている。」
その言葉が、今になって重く響いた。
風の精霊は、扉に手を当てる。
その瞬間、扉がゆっくりと開き始めた。
中は、暗かった。
だが、中央にぽつんと置かれた椅子が見える。
そして――その椅子に、誰かが座っていた。
顔は見えない。
だが、確かに“視線”だけが、こちらを向いていた。
風の精霊は、静かに言った。
「……あなたは、誰?」
返事はなかった。
ただ、部屋の空気が、少しだけ重くなった。
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次章予告:「影との対話、そして選択」
風の精霊がたどり着いた第六の部屋。
そこにいた“誰か”は、言葉を持たない存在だった。
だが、その視線は、精霊たちの記憶の奥を見つめていた。
次に進むためには、問いかけること。
そして、答えを受け入れること。
精霊たちは、影との対話を通して、自分たちの“選択”を迫られる。
それは、脱獄の終わりではなく――新たな始まりだった。
無理




