揺れる心の調律
無理
揺れる心の調律
――決戦まで、あと三日。
共鳴の間に、静かな時間が流れていた。
誰も動かず、誰も言葉を発さず。
ただ、重ねた手のぬくもりだけが、彼らを繋いでいた。
その沈黙の中で、風の精霊が、そっと息を吐いた。
「……ねえ、みんな。怖いって、言ってくれてありがとう」
その声は、風のように柔らかく、けれど確かに届いた。
「怖いって思うのは、誰かを大切にしてる証だと思う。だから……それを隠さないでくれて、嬉しかった」
雷の精霊が、少しだけ目を伏せる。
「……でも、それでも……進まなきゃいけないんだよな。怖くても、迷ってても」
水の精霊が、そっと頷いた。
「うん。だって、私たち……もう、誰かを守りたいって思ってるから」
炎の精霊は、拳をほどいて、手のひらを見つめる。
「……俺、裏切りを恐れてたけど……それって、誰かを信じたいってことなんだよな。信じるって、怖いけど……それでも、信じたい」
風の精霊は、目を閉じて、静かに言った。
「離れていくかもしれないって思った。でも……それでも、今ここにいるみんなを、信じたい。信じるって、委ねることだよね」
グランファリーさんは、そっと微笑んだ。
「……守れなかったらって、思ってた。でも、守りたいって思う気持ちがあるなら……それを信じて、進みたい」
その言葉に、光の糸がふたたび震え始めた。
今度は、揺れがゆっくりと、穏やかに広がっていく。
まるで、精霊たちの心が、少しずつ調律されていくように。
水晶の声が、再び響いた。
――心の音が、重なり始めました。
――恐れも、迷いも、信じるための一部です。
――そのすべてを受け入れたとき、扉は応えます。
精霊たちは、もう一度、手を重ねた。
今度は、誰も目を逸らさなかった。
誰も、沈黙に逃げなかった。
光の糸が、すべての壁を包み込むように輝き始める。
そして――
扉が、脈打ち始めた。
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次章予告:「扉の向こうにあるもの」
心を揃えた精霊たちは、ついに扉を開く。
その先に待つのは、試練か、希望か。
けれど、彼らはもう迷わない。
それぞれの恐れを抱えたまま、信じる力で一歩を踏み出す。
無理




