共鳴の間
無理
共鳴の間
――決戦まで、あと四日。
空間の中心に、最後の光の粒が舞い降りる。
それは、グランファリーさんの足元へと吸い込まれていった。
景色が変わる。
広がったのは、かつて彼女が守っていた森――
けれど、そこに緑はなかった。
木々は焼け焦げ、枝は折れ、地面には裂け目が走っていた。
風は止まり、命の気配はどこにもない。
森は、死んでいた。
グランファリーさんは、ひとり立っていた。
その足元には、枯れた花と、砕けた小さな楽器が落ちていた。
それは、森に住んでいた子どもたちの精霊が使っていたものだった。
「……ここは……」
彼女の声は、震えていた。
そして、耳に届いたのは――
「グランファリーさん……どこ……?」
小さな声。
それは、森の奥から聞こえてきた。
彼女が振り返ると、倒れた木の陰に、傷ついた精霊たちが横たわっていた。
目を閉じたまま、動かない。
その中には、彼女が名を呼んで育てた子もいた。
「……ごめんなさい……」
彼女は、膝をついた。
その手は、震えていた。
あの時、彼女は神殿の命令で前線に向かった。
森を守るために、戦う力を得るために。
でも、その間に――森は襲われた。
敵は、森の精霊たちが最も無防備な時間を狙ってきた。
彼女がいない時を、知っていたかのように。
「私が……いなかったから……」
彼女は、誰よりも森を愛していた。
誰よりも、命を守ろうとしていた。
けれど、その優しさは届かなかった。
その責任は、誰にも分けられなかった。
風の精霊が弟を失い、
雷の精霊が仲間を傷つけ、
水の精霊が信じることを失い、
炎の精霊が怒りに飲まれた――
でも、グランファリーさんは、
森そのものを失った。
「……私が、もっと強ければ……」
その言葉は、誰にも届かない。
ただ、枯れた花の上に落ちていく。
そして、空間が震えた。
森の奥から、かすかな光が差し込む。
その光の中に、かつての森の姿が、ほんの一瞬だけ浮かび上がった。
緑の葉、笑う精霊たち、風に揺れる花々。
それは、彼女が守りたかった世界。
そして、もう二度と戻らない世界。
「……でも、私は……まだ、ここにいる」
彼女は立ち上がった。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
けれど、その奥には、確かな決意が宿っていた。
「この痛みを、無駄にはしない。絶対に」
灰が舞う。
風が吹く。
そして、彼女の記憶もまた、光に包まれていった。
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次章予告:「心の音を重ねる場所」
それぞれが、最も深い痛みを抱えている。
でも、痛みを分かち合うことで、絆は生まれる。
精霊たちは、互いの心に触れながら、次の試練へと進む。
そこでは、ひとりでは進めない。
心が重なった者だけが、道を開く。
無理




