噂と帰り道、そして誰かの視線
無理
噂と帰り道、そして誰かの視線
「ねぇ……りゅうと様がかんなをお姫様抱っこしたんだって!」
「え!? マジでヤバ! 私もしてもらいたかった~!」
その噂は、瞬く間に全校生徒に広がってしまった。
「ねぇ、本当なの?」
「可愛くなったからってズルい!!」
「……」
かんなは顔が真っ赤になりそうになりながらも、必死に言い返した。
「あ、あれは事故なの! 私が階段から落ちそうになったのを、りゅうとが助けてくれただけだから!」
「そう? 私は、りゅうとがかんなのこと好きだからだと思うけど」
友達のニナが、さらりとそう言った。
「……え? そんなわけないじゃん……」
そうなってほしい。
そう願っている。
でも、叶ってはいない――そう思っていた。
「私、顔可愛くないし……」
「そう?」
ニナは不思議そうに首をかしげる。
(そうだよ、ニナ。庇わなくていい。思ってることをそのまま言ってほしい)
かんなは心の中でそう願っていた。
――今は五分休み。
その頃、りゅうとは――
「……」
机に顔を伏せていた。
(俺……かんなをお姫様抱っこしちまった……)
あの感触が、頭から離れない。
あたたかくて、柔らかくて――
思い出すたびに、顔がどんどん赤くなっていく。
そろそろ二時間目が始まる。
この感情を抑えなきゃ……でも、無理だろ……!!!
その後の授業では、いつも積極的に手を挙げるりゅうとが、一度も手を挙げなかった。
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「帰りの挨拶をします! さようなら!」
「さようなら!」
日直の声に合わせて、生徒たちはランドセルを背負い、友達と一緒に、あるいは一人で帰っていく。
かんなは――一人だった。
友達はいるけれど、家の方向が違う。
事故のあと、他のクラスの女子たちからの視線が痛いほど刺さる。
同じクラスの子たちは「事故だったんだね」と納得してくれた。
でも、他のクラスには説明できない。
そのせいで、「羨ましい」と睨まれるようになってしまった。
(こんな可愛い服、やっぱり着るんじゃなかったなぁ……)
かんなはとぼとぼと帰り道を歩いていた。
その時――
「トン」
ランドセルを優しく叩かれた。
(え、不審者!?)
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは――りゅうとだった。
「……どうしたの……?」
「いや……その……」
りゅうとは少し顔を赤くしながら言った。
「家、近いしさ……一緒に帰らない?」
「え……で、でも……」
「ダメ……?」
「べ、別に……いいよ!」
かんなとりゅうとは、二人で並んで歩き始めた。
でも――
ここで、あの子に出会ってしまう。
(りゅうとと一緒に帰るところだけは、見られたくなかったのに……)
だけど――見られてしまった。
無理




