命と向き合う夕暮れ
無理
命と向き合う夕暮れ
魚をクロが包丁で捌いていく――そんな展開にはならなかった。
「gk&xljjnxkk&jkdjtgsgxrgkkkbagigjapygjxpjuvwu……」
クロは魚に向かって、意味不明な言葉を呟き始めた。
かんながその様子を見ていると、魚たちの目が――覚めた。
(このままだとバケツから逃げ出しちゃう!)
そう思ったが、魚たちは一匹も逃げなかった。
全員が、じっとクロの方を見つめていた。
「ピチャピチャ……」
魚たちは跳ねながら、何かをクロに伝えているようだった。
でも、私たちにはその意味がまったく分からない。
すると、クロが何かを考えるようにこちらを見て言った。
「かんな……」
「な、何?」
かんなが恐る恐る答えると、クロはニッと笑った。
「この子たち……調理を工夫してくれれば、食べてもいいって言ってるクロよ」
――待って待って待って!!!!!!
理解が追いつかない。
クロがぬいぐるみ同士や柴犬同士と話せるのは知ってたけど、魚とも!?
すごすぎる。
しかも、クロのスーパーしっぽ返しもあるし、能力の幅が広すぎる。
でも、魚たちが「美味しく食べてくれるなら命を差し出してもいい」って……。
そんなこと、ありえるの?
私が魚だったら、絶対そんなこと言わない。
かんなが混乱していると、クロが続けた。
「魚たちが言ってたクロ。『僕たちの使命は食料です。弱いからこそ、美味しく食べてもらえるのが一番の幸せ』って」
「え……でも……それって……命を……」
「そうクロよね……でも、魚本人がそう言ってるクロ」
「……流石に俺も……食べられねぇよ……」
りゅうとは顔を伏せた。
スーパーで売ってる魚は、美味しいからよく買う。
でも、元はこの子たちなんだよね。
今まで、何も考えずに食べていた魚が――この子たちの家族だったかもしれない。
泣きそうだ。
私たちが食べているものには、命がある。
その命を奪って、私たちは生きている。
それなのに、この子たちは「幸せに食べてくれればいい」なんて……。
そんなこと言わないで。
自分の命は守ってよ。
捨てないで……。
かんなは心の中で、そう強く願った。
「クロ……やっぱり、この子たちのことは……」
かんながそう言いかけた時だった。
「食べられることが使命なんてのは、僕たちの嘘。でもね、なぜかあなたたちになら食べられてもいい気がするの。あなたたちだけ……。
その代わり、美味しく調理して食べてね。さぁ、ほら……調理していいよ……」
「……喋った?」
かんなは、そんな気がした。
でも、魚たちはただ跳ねているだけだった。
「ごめんね……!」
かんなはそう言いながら、包丁を手に取った。
でも、その手は震えて動かなかった。
魚たちが望んでいるとしても――やっぱり、無理だよ……。でも……。
「ヴ……」
かんなは涙をこぼしながら、包丁を振るった。
無理




