表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/212

命と向き合う夕暮れ

無理

命と向き合う夕暮れ

魚をクロが包丁で捌いていく――そんな展開にはならなかった。


「gk&xljjnxkk&jkdjtgsgxrgkkkbagigjapygjxpjuvwu……」


クロは魚に向かって、意味不明な言葉を呟き始めた。

かんながその様子を見ていると、魚たちの目が――覚めた。


(このままだとバケツから逃げ出しちゃう!)


そう思ったが、魚たちは一匹も逃げなかった。

全員が、じっとクロの方を見つめていた。


「ピチャピチャ……」


魚たちは跳ねながら、何かをクロに伝えているようだった。

でも、私たちにはその意味がまったく分からない。


すると、クロが何かを考えるようにこちらを見て言った。


「かんな……」


「な、何?」


かんなが恐る恐る答えると、クロはニッと笑った。


「この子たち……調理を工夫してくれれば、食べてもいいって言ってるクロよ」


――待って待って待って!!!!!!

理解が追いつかない。


クロがぬいぐるみ同士や柴犬同士と話せるのは知ってたけど、魚とも!?

すごすぎる。

しかも、クロのスーパーしっぽ返しもあるし、能力の幅が広すぎる。


でも、魚たちが「美味しく食べてくれるなら命を差し出してもいい」って……。

そんなこと、ありえるの?


私が魚だったら、絶対そんなこと言わない。

かんなが混乱していると、クロが続けた。


「魚たちが言ってたクロ。『僕たちの使命は食料です。弱いからこそ、美味しく食べてもらえるのが一番の幸せ』って」


「え……でも……それって……命を……」


「そうクロよね……でも、魚本人がそう言ってるクロ」


「……流石に俺も……食べられねぇよ……」


りゅうとは顔を伏せた。

スーパーで売ってる魚は、美味しいからよく買う。

でも、元はこの子たちなんだよね。

今まで、何も考えずに食べていた魚が――この子たちの家族だったかもしれない。


泣きそうだ。

私たちが食べているものには、命がある。

その命を奪って、私たちは生きている。


それなのに、この子たちは「幸せに食べてくれればいい」なんて……。

そんなこと言わないで。

自分の命は守ってよ。

捨てないで……。


かんなは心の中で、そう強く願った。


「クロ……やっぱり、この子たちのことは……」


かんながそう言いかけた時だった。


「食べられることが使命なんてのは、僕たちの嘘。でもね、なぜかあなたたちになら食べられてもいい気がするの。あなたたちだけ……。

 その代わり、美味しく調理して食べてね。さぁ、ほら……調理していいよ……」


「……喋った?」


かんなは、そんな気がした。

でも、魚たちはただ跳ねているだけだった。


「ごめんね……!」


かんなはそう言いながら、包丁を手に取った。

でも、その手は震えて動かなかった。


魚たちが望んでいるとしても――やっぱり、無理だよ……。でも……。


「ヴ……」


かんなは涙をこぼしながら、包丁を振るった。

 

無理

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ