神殿を後にして、心は少しだけ前へ
無理
神殿を後にして、心は少しだけ前へ
「りゅうと……」
「なんだよ……」
「お母さんって呼んでくれて……ちょっと……嬉しかった……」
「っ!!!!!!!!! だからあれは違……!」
「お母さんは、りゅうとのこと……ずっと見てるからね」
かんながそう言うと、りゅうとの顔は真っ赤に染まり、まるでパンクしたように動きが止まった。
まるで気絶しているかのようだった。
「かんなが可愛すぎて、りゅうと気絶しちゃったクロよ……」
「絶対……違うよ……。だって……りゅうとは……こんなブサイクな私のこと、好きなわけない……」
「かんなは、りゅうとのこと好きってことクロ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
かんなは、学校でのりゅうとの姿を思い出す。
イケメンで、女子からも大人気。
面白くて、りゅうとを好きな人は多かった。
私も……好きだった。
でも、あの時こんな噂が流れていた。
「りゅうと君、ルリちゃんと付き合ってるんだって……」
「マジ!?!? 羨ましい……。私もりゅうと君のこと好きだったのに……!!」
ルリちゃんは外国人。
肌が綺麗で、お母さんはモデル。
紫色のツインテールが印象的で、性格も優しくて、誰にでも親切だった。
私もハンカチを忘れた時、貸してくれたことがある。
ルリちゃんとりゅうとなら、釣り合う。
私は……地味だから、釣り合わない。
その噂を聞いたあと、私は家で三日間、眠れなかった。
「実はね……」
かんなは、その思い出をすべてクロに話した。
「かんな、せっかく可愛いのに台無しクロよ!!!!!!」
「可愛くないよ……。ブサイクだから、マスクで隠してるのもあるし……」
「じゃあ、明日試してみてクロ! 明日学校クロでしょ? 可愛い服で、マスクもなし! いいクロか?」
「……分かったよ」
恋かんなたちは、そっと約束を交わした。
こんなに長く感じた出来事も、現実ではまだ三時間しか経っていない。
ゲームの時間とは、まるで違う。
その時、気絶していたりゅうとが目を覚ました。
「ん……」
「りゅうと……ごめんね」
「いや、気絶したの俺だし……迷惑かけただろ?」
「全然、大丈夫……」
その時、グランファリーさんが静かに言った。
「じゃあ……そろそろですね……」
「ですよね……」
この神殿に、ずっといるわけにはいかない。
そうだ、私たちの目標は隣村に行くことだった。
まだ旅の半分も進んでいない。
もう少しすると、海も見えてくるはず。
「グランファリーさん……またいつか会いましょう!」
「はい! かんなさんたちが来たら、私、絶対声かけますね!」
かんなは、泣きそうになるのをぐっと堪えて――
「お世話になりました!」
そして、三人は森の神殿を後にした。
無理




