クロが導いた再起の一歩
無理
クロが導いた再起の一歩
その時、かんなたちは神殿の昔話コーナーでぼんやりと座り込んでいた。
さっき感じた強烈な気配――それが急に、ふっと消えた。
「さ、さっきの気配……なんだったんだろう……?」
「なんかパッと消えたぞ? 誰かが何かしたんじゃね?」
その気配は、グランファリーさんが命をかけて呪文を唱えようとした瞬間に起こったもの。
そして、気配が消えたのは――あいつがグランファリーさんの元から離れた時。
でも、かんなたちはそんなことを知るはずもない。
「今の気配……ボタンの気配じゃないよな?」
「りゅうと。ボタンから気配なんてしないって言ってたじゃん」
「確かにな……でも、すごいボタンだったら気配出るかもしれないぜ!」
「すごいボタンクロ!?!? 押してみたいクロ!」
「だよな!!」
……そんなことで盛り上がってる場合じゃないのに。
さっきの気配は、確かに強烈だった。
もしあれがグランファリーさんの気配なら、もっと優しい感じのはず。
あんな重くて不穏な気配――もしかして、犯人のもの?
犯人がグランファリーさんに何かをしていて、それで嫌な予感がした?
メモ帳にはそんなこと書いてなかったのに……。
いや、書いてあることだけ守って、書いてないことは好き勝手にやるってこと?
もし……乱暴されてたら……。
そんな嫌な想像ばかりが浮かんでくる。
その時、クロが言った。
「でもクロは、ボタンの気配じゃなくて、グランファリーさんを捕まえた悪者の気配だと思うクロ!」
私と同じ考えだ。
少し安心した。
でも、同じ考えってことは……クロも、乱暴されてる可能性を想像してるってこと?
……本当なの?
怖い。嫌だ。かわいそうすぎる。
そんなこと、あってほしくない。
でも、もし何かを奪われていたら……もし……もしも……。
「かんな、なんで元気ないクロ? グランファリーさんは、かんなの助けを待ってるクロよ! 早く助けないとクロ!」
「だ、だってさ……もし……もしも、グランファリーさんが乱暴されてたりしたら……」
かんながそう言った瞬間――
「かんなは本当ダメクロね……いいクロか? グランファリーさんは今、暇クロ!」
「……?」
「かんなの助けがこなくて暇クロよ! 何もない部屋に閉じ込められてるだけクロ! 乱暴なんてされてないクロ!」
「どうして言い切れるの……?」
「なんせグランファリーさんは精霊クロよ!?!? そして一番大事なポイントは、クロが認めて親友とみなしたことクロ!」
「な、何それ……ふふ……笑っちゃうじゃんwww」
さっきまでの不安が、少しずつ溶けていく。
あぁ、なんでだろう。クロって、たまにすごいよね。
元気が出る言葉を、ちゃんとくれる。
もしかしたら……クロがいたから、私はこの神殿に来て、グランファリーさんに出会えたのかもしれない。
「分かったよ、クロ! こんな落ち込んでる場合じゃないよね!」
「そうクロ! やっと普通のかんなに戻ったクロ!」
「さっさと元気取り戻せばいいのにな!」
「そうだね! なんであんなこと思い浮かべちゃったんだろう……」
「それは多分、かんなにはあの気配が強すぎたクロね!」
「え……? ってことは私だけ弱いみたいじゃん!」
「実際そうなんだよな」
「う、うるさい! 強さで言えば私、クロより上だし!」
「そうクロね……まぁ、クロには最強の防御があるクロけど……」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! さぁ、早く図鑑フロア探しに行くよ!」
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このあと、図鑑フロアで何が待っているのか。
グランファリーさんの気配は、再び現れるのか。
物語は、少しずつ核心へと近づいていく――。
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