探偵の目が曇る瞬間
無理
探偵の目が曇る瞬間
「りゅうとさん、これって……まずは玄関の扉が封鎖されているか確かめた方がいいよね? ……いいですよね?」
かんなは少し緊張しながら尋ねた。
今のりゅうとは、なぜか探偵モード。丁寧な口調で話さないと、空気が崩れそうだった。
「そうですね……まずは玄関の扉が封鎖されているか、確認しに行きましょう」
「分かったクロ!」
クロが元気よく走り出す。
だが神殿は広すぎた。迷路のような構造に翻弄され、三十分後――ようやく玄関に到着。
そして、そこにあったのは――封鎖された扉。
頑丈な鉄の檻が二重に張り巡らされていた。
(……これ、簡単には壊せないようにしてある)
グランファリーさんからもらった魔法を使えば、破壊は可能。
でも、そもそも逃げても意味がない。
どうせ後で強制的に別世界に連れて行かれるなら、封鎖する意味は……?
(敵の目的が……分からない)
逃げても、逃げなくても同じ。
その無意味さが、逆に不気味だった。
「これで玄関が封鎖されてることは分かったね」
「次に確かめることは……もうない気がするクロ」
「いや、別世界に繋がるゲートを探すなら、神殿の構造を把握しておいた方がいいかも」
かんなの提案で、神殿の探索が再開された。
お風呂、トイレ、テレビルーム、物置部屋……
一階はすべて見終わった。
「すごかったクロ! でも一番すごいのはキッチンクロね!」
「クロは食べ物にしか興味がないんだね……」
キッチンには、ずらりと食べ物が並んでいた。
今いるのは、何もない部屋。おそらく精霊が泊まるための部屋だろう。
とはいえ、特に目立ったものはない。
「りゅうとさん、怪しいところありましたか?」
「そうですね……特には……ただ、図書室が一番怪しいかと」
「え! 図書室なんてあったクロ!」
どうやらクロは見落としていたようだ。
図書室には、ぎっしりと本が詰まった本棚が並び、ドアには「蔵書十万冊以上」と書かれていた。
(多すぎ……学校にもそんなにないよね)
りゅうとが怪しいと感じた理由は、おそらく隠し部屋。
本棚の裏に隠し扉――よくある話だ。
でも、寝室にも本棚はあったし、テレビルームにも大量に並んでいた。
それなのに、なぜ図書室だけを疑ったのか?
「りゅうとさん、なんで図書室……」
かんなが問いかけようとした、その瞬間――
「お、俺は……一体何を……」
りゅうとの声が、急に震えた。
「り、りゅうとさん……?」
かんなは思わず立ち止まる。
その声は、いつものりゅうとじゃなかった。
神殿の空気が、少しだけ――冷たくなった。
無理




