王女殿下、私の仕事マニュアルにはセクハラ対処の方法は書いてありませんっ!
ふざけた内容が書きたくて笑
R18ってどこからだろう…セーフですよね?アウトなら教えて下さい!
ようやく陽が昇ろうと朝日が城を照らし始めた頃、ノーステッド王国の城内を歩く1人の騎士がいた。
彼は、パトリス家の次男で、ここノーステッド王国の近衛騎士、アーノルド・パトリスである。アーノルドの護衛対象は、第一王女殿下であるエレナ・ノーステッドだ。陽の光を存分に浴びたかのように艶めいている金髪とエメラルド色の瞳、白い肌に映える薔薇色の頬をしているエレナ殿下はとても可憐で美しく、騎士をしているならば誰もが一度は護衛したいと思うほどだ。聡明で使用人に対しても丁寧な態度で接し、権力を振りかざすような傲慢さはなく、とても穏和な性格をしている。
そんな皆が憧れるエレナ殿下から直接、護衛騎士として指名されたアーノルドは、今日もその使命を全うするべく殿下の護衛へ向かっている。しかし、その顔は決して誇りある騎士の顔ではなく、どんよりと顔はやつれ今にも溜め息が出てきそうなほど憂鬱な表情であった。
アーノルドはエレナ殿下の部屋の前で夜勤の護衛と交代する。エレナ殿下はまだ起床されていないらしい。アーノルドは、ほっと息を吐く。できれば、少しでもエレナ殿下の側で護衛している時間を減らしたい。護衛騎士としてあるまじき態度である。
それからしばらくして、エレナ殿下の侍女より殿下の支度が整ったと連絡が入る。アーノルドは気合いを入れて殿下の部屋は入り挨拶をした。
「エレナ殿下、おはようございます。本日も護衛を務めさせて頂きます」
「アーノルド、おはよう。ご機嫌いかが?私はなんだかまだ眠いわ」
とエレナは気軽に挨拶を返す。ほんとただの挨拶である…が、
「アーノルド、一緒に寝ましょう?私、昨日のあなたの癒しが足りなかったの」
はい、きた。これぞアーノルドを憂鬱にさせている原因である。誤解されるような言い方もやめてほしい。
「殿下、今日も冗談がお上手で。そんなことしたら、私の首は一瞬で落ちます」
「あら、そんなの私が許せばどうとでもなるわ。ほら、ここへ来て私の手を握ってほしいの」
勿論、アーノルドは護衛騎士であり情夫ではないため、そんなことはしない。いつものように壁際へ移動し護衛任務に着く。
「エレナ殿下、私には恐れ多く、この場所が私めと殿下の適切な距離であると認識しております」
「相変わらずね」とエレナは楽しそうに呟き、侍女が用意したお茶を飲んだ。侍女も慣れたもので、2人のそんな掛け合いなんて存在しないかのように、エレナの世話をしている。
そう、これがアーノルドを悩ます原因、セクハラ発言である。エレナからしてみれば、アーノルドを揶揄って反応を楽しんでいるにすぎないが、アーノルドからしてみれば、毎回毎回、揶揄われ反応に困っているのだ。
そして、最近はだんだんエレナの揶揄いに耐性がついてきたため、その内容が公には言えない類のものへ変わってきており、アーノルドは辟易している。
先ほどのやり取りは、ただの挨拶である。ほんの序の口だ。今日もエレナからどんなセクハラ発言をされるのか考えると、憂鬱になる気持ちは止められないアーノルドであった。
ーーー
エレナ殿下は聡明で優しく、絶世の美女といわれ、誰もが彼女に憧れるほど完璧な王族である。
…というのは表面上の殿下であり、実際はとても悪戯好きで子供っぽく陰湿だ。
今日も今日とて、殿下お気に入りの護衛騎士にセクハラし放題である。勿論、このセクハラするのは私と殿下、アーノルド様がいる時だけで、こっそり実行されているのは、ほんとタチの悪いことこの上ない。表向きはとても素晴らしい王女殿下を演じているのだから。
そんなこと不敬になるから何も言えないが、今、殿下はお気に入りの護衛騎士相手にお戯れ中である。
「ねぇ、アーノルド。今日の私の服、少し胸が開きすぎだと思わなくて?リリーったらやりすぎよね。男性のあなたから見てどうかしら?」
リリーとは私のことである。
「私は女性の衣装には疎いのでなんとも…ですが、とても素敵なお召し物ですよ、さすがリリー様です」
そう必死に私に視線を送るアーノルド様。せっかくのイケメンが台無しなほど疲れている。殿下の護衛騎士として来た時は、キラキラとしていたはずなのに…
あれは、1年ほど前、近衛騎士として城内警備を務めるアーノルド様を一目見て気に入った殿下は、すぐに国王陛下へ直談判し、自分の専属護衛騎士として取り立てた。
それまでの殿下は、王族としての義務に嫌気がさし、城内に出入りする貴族に対して純真無垢な顔でイタズラをしていたのだ。イタズラというには悪質なものもあったが。
殿下が6歳の時、国王陛下の側近で非常に優秀だが徐々に薄くなっていた頭髪を気にしていた部下がいた。殿下は「元気がないわね、今度良い栄養剤届けますわ」と無邪気に声をかけた。その後も、会うたびに体調を気遣う声をかけるが、だんだんと自分の頭のことを言われてるような気がしてきた部下は、しまいには本当に禿げてしまった。とてもナイーブな部下は職を辞し領地へ隠居した。
殿下が7歳の時に公爵家の子息が遊び相手として連れてこられた。彼は非常にきれいな顔立ちをしており、殿下は権力と無邪気さに物を言わせ「お友達とこんなことをしたかったの」と彼にドレスを着せ化粧を施し、ごっこ遊びをさせた。最終的には、子息が父親である公爵に泣きつき引きこもりになった。今でもそのトラウマを抱えていて、あんなにきれいで女の子みたいな彼は、ゴリゴリの騎士になっている。恋愛対象が男性という噂があったりなかったり。
次に8歳の時には、兄である第一王子の婚約者候補の侯爵令嬢がこれまた傲慢で殿下は気に食わなかった。そんな、ふんぞり返って歩いている侯爵令嬢へ、おもちゃのゴキブリを投げ、派手に転ばさせ、下着をお披露目させたことに関しては褒めて差し上げたい。
それ以外にも、子供っぽいイタズラから悪質なイタズラまで幅広く嫌がらせをし、退屈な日常を過ごしていた殿下は15歳になっても変わらなかった。
そんな殿下が、1人の殿方がほしいと父親に頼んだのである。陛下と第一王子は、このチャンスを逃すまいとアーノルドの護衛を承諾した。好いた殿方が近くにいれば、殿下の悪質な趣味もなくなるだろうと考えたのである。あながち間違ってはいないが、今度はその趣味がアーノルド1人へ向けられるなんて、誰が予想できただろうか。
これに関しては、陛下も第一王子も年頃の男の子が好きな女の子を揶揄うような可愛い物だと無理矢理言い聞かせ、アーノルドへ毎日、懺悔の祈りを送っているらしい…そう宰相である私の父が言っていた。
これまでの悪質なイタズラを知っている私からしたら、殿下の可愛い女心が暴走している結果に過ぎない。ただ、殿下はイチャイチャしてる気分なのだ。
「ねぇ、アーノルド…」
と、ぼそぼそと恋人との内緒話をするように話しかけた後に、顔を真っ赤にして「殿下っ!」とたじろいだアーノルド様、ご愁傷様です。
ーーー
俺は今、昔からの親友であるウッド・ニールと会っていた。
「あれ、なんかやつれてない?近衛はやっぱり激務なんだな」
「いや、まぁ大変だけど、それだけじゃないというか…」
はぁ、と大きくため息をついた俺にウッドはニヤニヤと尋ねる。
「なんだ、恋煩いか?もしや殿下に恋しちゃったとか言わないよな?殿下のお気に入りのアーノルド君は、とうとう結婚か?」
面白くない冗談である。やめてほしい、こっちは毎日のセクハラで辟易してるんだ。
「冗談よせ、そもそも伯爵家の俺とは身分が違う。お気に入りだなんて、ただの噂だろ」
えぇ、そうかなぁとウッドは相変わらずニヤニヤしている。一回締めとこうか?
「でもさ、あの絶世の美女、全ての女神様のエレナ殿下に仕えられるだけ幸せだろ?騎士の憧れだぞ、お前ほんと運が良いよなぁ。真面目誠実、忠誠心は認める、けど顔は俺のがいいのに」
「全ての女神様、ね…」
「うん?何々、なんか訳ありだな、おい。話せよ、俺たちの仲だろ?」
さすが何年も親友やってない。俺の歯切れの悪い言い方から察してくれるところ嫌いじゃない。
待ってましたと、俺は不敬になるから絶対黙ってろよ、と前置きしてから話す。もう言わずにはいられない、ストレスMAX、許せ。
「全ての女神と言われるほど優しく聡明な殿下、そんなのは嘘だ。…俺は毎日セクハラに合っている」
迷わずカミングアウトした俺に、ぽかんとウッドは俺を見つめた後、笑い出す。
「いや、冗談きついって!激務からおかしくなったか?妄想してしまうまで、近衛は、そっち方面も厳しいのかよ」
大丈夫?1人時間ある?出してる?などの下世話な発言はスルーする。
「笑い事じゃないし、大真面目だ。ほんとにセクハラ発言に参ってるんだよ」
「はいはい、そうですか」
「いや、ほんとだほんとに信じてくれ」
「じゃ、例えば美しい殿下はどんなセクハラ発言するんだよ、されてるなら言えるよな具体的に」
ウッドの言葉に俺は先日のことを思い出す。ぼそぼそと耳元で囁かれたあれだ…さすがにあれにはアウトと叫びたかった。いや、心の中は大暴れだ。
「…私に××を下さい、と…」
仰ったんだ、という俺の言葉はウッドに肩を掴まれ消える。
「それは、ダメ、アウト、犯罪だ」
「だろ?もう俺、どうしたら」
「妄想がすぎる、限界だ」
……は?
「不敬で捕まりたくないなら、今すぐ娼館へ行ってこい」
……っ違う!俺じゃない!
そんな目で俺を見るなっ‼︎
唯一の気心知れた親友でさえ、信じてくれない。
もう泣きたい、どうすればこの問題を解決できるんだ、してくれるんだっっ。
そんなアーノルドの悲痛な叫びは虚しく消えたのだった。
ーーー
今日はアーノルドをなんて言って揶揄おうかしら、そんなことを考え、うきうきしてるのは、アーノルドの頭を満たしている話題のエレナである。
『ふふふっ、ほんとに可愛いわ。あの真面目で誠実で忠誠心の塊みたいな顔が、赤くなっていくのを見ると、ドキドキしちゃう』
ほんとに困った性癖をお持ちである。
一目見た時から、この人だと思った。私の退屈な日常に花を差してくれる人だと。王族として何不自由なく生活していたエレナの世界はとても灰色であった。どんなに人を揶揄ってもイタズラしても、退屈な毎日は変わらなかった。それが、アーノルドを見た瞬間に、エレナの世界が色付きキラキラとアーノルドの周りが光輝いたのだ。
それからは、ほんとに毎日楽しくてうきうきで、アーノルドが来るのを待ちわびてるのよ…それなのに、アーノルドの反応がだんだん悪くなってきて…
あぁ、でもこの前の耳元で囁いたあれは良かったわ。あの反応見たら、もううずうずしちゃって今にも押し倒しそうに…いけないいけない。思い出すだけで顔が崩れちゃう。
今は仮面をひっつけとかないと。来賓も来ているパーティの最中なのだから。後ろに控えているアーノルドは、今日も素敵だわ。
そんなエレナを見て父である国王陛下と第一王子のエドワードはアーノルドへ同情の視線を向けるのであった。
ーーー
「アーノルド、ちょっと疲れたわ。飲み物をテラスに持ってきてちょうだい」
ダンスを来賓者と踊った後、休憩をするためにエレナとアーノルドはテラスへ来た。
エレナへ飲み物をわたすアーノルドは、どぎまぎしていた。セクハラ発言をされるかもという危機感もだが、先ほどのダンスをする殿下の美しさを見て、もし今、この前のような発言をされれば、それはセクハラとして受け取れないかもしれないと思うほど、エレナ殿下が素敵だったのだ。
『やばい、パーティ酔いしてるのか…どうか殿下が大人しくしてますように…』
「ねぇ、アーノルド」
「何でしょう、エレナ殿下」
アーノルドは身構える。
「そんなに離れてるとちょっと寂しいわ…皆、私が王族だからと遠慮するでしょう?だから…だから、今日くらいそんな寂しさを感じたくないの。それに、いつも揶揄ってごめんなさいね…少しでも仲良くなりたくて」
殿下、とアーノルドはハッとする。
この方は、王族としての義務を小さい頃から果たしてきている。その過程で寂しさを感じても顔には出さず我慢してきているのだ。感情を出すな、貴族の子もそう育てられるなら王族は尚更だ。
あれは、日頃の寂しさを埋めるための意地悪な発言であったのだと思うと納得するものがある。
テラスへ寄りかかり、月夜を背後にシャンパングラスを見つめるその姿は、美しいが儚く今にも消えそうだった。
アーノルドは少しでも、殿下の寂しさがなくなるならと近くへ寄った。
そんなアーノルドを見上げたエレナの瞳がキラッと光りーー
「じゃあ、このまま、ここでしましょうか?」
何が何をっ!
なんて聞くまでもなく。
「っ!殿下ぁ、もう、勘弁してくださいっ!」
少しでも信じた俺が馬鹿だった、
とアーノルドの悲痛な叫びはパーティの楽しげな音楽にかき消されたのであった。
この2人が仲睦まじく過ごす未来は、そう遠くないのかもしれないー。
完。
アーノルドのような、真面目ヘタレ大好きなのです。
ほんとはエレナにもっと過激なことを言わせて、アーノルドを揶揄いたい…やばい性癖は私自身ですね。
お付き合い下さり、ありがとうございました。