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魔の法則  作者: 独り事
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2-1 願い




ォォ……



海の中にいた。



オオォォォ………



光が無く、底が見えない。



オオオォォォォ…………



手前は見えるが、遠くは見えない。



オオオオォォォォォ……………



浮上してるのか沈下してるのか、上下の感覚が無い。



オオオオオォォォォォォ………………



鈍く低い、到底音とは思えない振動が遠くで強くなっていく。



ドッ………ドッ………ドッ………



いつの間にか鼓動に合わせて海が振動し、共鳴していた。



ドッ……ドッ……ドッ……ドッ……ドッ……


ゴオオオオオオォォォォォォォ………!



鼓動が早くなるにつれ、鈍い音が強く近くなっていく。



ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


───!?


なんだこれ!!


めっちゃでかい龍?が口を大きく開けてこっちに泳いでくる!


は、早く逃げな────ドン!!


慶理「ぐえあ!」


野乃「やっと起きた」


「へ、あぁ…夢か……」


「なんの夢見たの?」


「なんか…龍に食べ──」


「とにかく朝ごはんだから早く降りてきてねー」


いや、聞いたんだから聞けよ!

と、言う間もなく、野乃は階段を降りていった。


まぁいいや、とりあえず着替えないと。


って昨日の火事で私服は疎か家具、貯金、教科書、pc、ゲーム機、マンガが全部燃えたのか……


今になって考えたらかなり絶望的だった……


保険とか大丈夫かな……保険証とかも燃えたから個人の証明とか学校がしてくれるかな……

やべっ、早く降りないとご飯が無くなる。


借り物のパジャマ姿のまま階段を降りて行くと


蓮「おはよう」


慶理「おはよー、見事にやつれた顔してるな」


蓮「慶ちゃんに言われたくない」


慶(そうだ、俺も泣いてたんだった…)


蓮母「おはよう」


慶「って蓮のお母さんもかい!」


母「最近なんだか涙もろくなってきて、それに納谷ちゃんも…加山さんも……いなくなっちゃって……うぅ…わあ"あぁぁ"ぁ"ぁ"……」


蓮に泣き付く母、


そうか、息子の彼女と自分の親友を失ったんだから泣いて当たり前だよな。

不謹慎だけど二人のために泣いてくれて、

少し心が温まった。


そしてその方向を見ようともせず、魚の小骨をチマチマ取り除いて、黙々と朝ごはんを食べている野乃。


(前からそうだったけど素っ気なさが酷くなってる…)


野「何?」


慶「お兄ちゃん心配になってきたよ…」


野「何が?」


慶「昔はもっと気さくで明るくて割と真剣にうざったい位の子だったのにっ…うぅ……」


野「ちょっと、昔の話出さないでよ!ていうかいつの話よ!」


慶「幼稚園」


野「それお兄も小学生じゃん!」


「それに私だって気を使ってそっとしておいたりたまには受け止めたりしてるんだから………お兄ちゃん以外…」


慶「この際俺の事は関係ないとしても現実を突き付けられた気がしてちょっと心が痛い」


野「え、あ、うん…、ごめん…」


兄妹の見本みたいな(皮肉)一連のやり取りを見て、


母「仲が良くて何よりね、元気そうで良かったわ」


慶「そうでも無さそうです、さっきも寝てる人のお腹に枕置いてその上にダイブして起こすし、人に質問しといて答え聞かずにどっか行くし」


蓮「そんな人事みたいに言って、妹が起こしてくれるだけでも十分仲がいいよ」


野「そういえば何の夢見たの?」


蓮「夢?」


慶「さっきの野乃が答え聞かずにどっか行ったやつ」


蓮「ダイブして起こされた時の夢ってこと?」


野「悪かったって、で、何見たの?」


慶「なんか…海の中にいて、遠くで低い音っていうか振動?みたいなのがしてて、その振動がどんどん強くなってなんかが近づいて来てる気がして、目と鼻の先まで気配が近づいて来たと思ったら、いきなりめっちゃでかい龍─細長い方の龍ね─が現れて、口を大きく開けて凄い勢いで迫って来たんだよ」


蓮「こわっ」


慶「んで食べられそうだったから逃げようとして、でも体が動かなかったんだけど食われる寸前で野乃がダイブして起こしてくれた」


野「私ナイスタイミングで起こしたのね」


蓮「その龍ってミズチじゃない?」


慶「ミズチかねぇ」


野「ミズチでしょ」


母「ミズチってなあに?」


蓮「伝説上の生き物で龍とか蛇みたいな形してる水の神様のこと」


母「へ~、みんな詳しいのね~」


野「まあゲームとかで見たことあるし」


慶「でもなんでミズチ?俺水に関わることなんもしてないよ?友達と親が燃えたぐらいで……」


………


野「ってか夢なんだから変に考えること無いでしょ!」


──────


朝ごはんを食べた後、今後の事を野乃と相談した。


家が燃えて帰る場所も無くなったので蓮の家にしばらく居候させてもらうことになった。


蓮の母が「本当は養子にしたかったんだけど、私独り身だし?でも知らない人たちの家で暮らすよりも友達の家で暮らした方が楽しいじゃない」


だそうで、


私達はその意見に賛同した。


ただ、いつまでも居候するわけにはいかないため、以下の事を提案した。


野乃が高校を卒業して

働き口が見つかり次第家を出る


でも蓮母が条件を付け足してきた。


野乃ちゃんが高校または大学を卒業して

二人ともちゃんとした働き口を見つけて

金銭的・生活力的に独りでも暮らして行けると私が判断した場合にのみ、二人暮らしを許し

家を出た後、しばらくの間定期的に連絡、報告をすること

困ったらちゃんと私を頼ること

ここを自分の家だと思ってちゃんとたまに帰ってくること

私のことをお母さんとかママなどの愛称で呼ぶこと


と補足してくれた。

(一番下のは多分願望)

改めてこの人は凄くいい人だと実感した。

いつも会った時はゆったりした人だなあと思っていたけど、思慮深くて自分には気づけないところも見えている。


蓮の母は離婚してシングルマザーになったので、過程は違えど同じく女手一つで子供たちを育ててきた加山さんとは仲が良かった。

二人は、夫が去った経緯や理由など、かなり内側の事情を話し合うほどの関係で、とてもママ友何て言葉じゃ足りないほど、まさに親友だった。


当たり前に

加山さんの死はとても大きな事だった。


野乃と慶理を引き入れたのも彼女の意思を継ぐためである。


生前、彼女達は自分に何かあったら娘息子を助けてあげて欲しい──と、互いに約束し合っていた。


それは相手を信頼しているからこそ成立する願いだった。


ただ、その願いは今は亡き母親と、今もその願いを継いでいる母親の───


母親達の胸の中にあるだけだ。



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