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納谷の死
先生によると、登校時、校門から正面玄関までの開けた場所で、ある生徒が突然燃え始めたそうで。
急に悲鳴が聞こえたかと思えば、人が燃えていて、全身から火が吹き出て、服や体に燃え移り肉がただれて炎の勢いは物凄い速度で増していき、近くで悲鳴を上げた生徒、納谷が巻き添えになった。
その炎は骨すらも焼き尽くし、後に残ったのは舞い上がる少しの遺灰と、石造りの地面に残る黒く大きな2つの焼け跡だけだった。
無論異変に気付いた先生や生徒が消火器や水を持ってきたが間に合わず、炎はもう消えていた。
まるで燃やす「もの」が無くなったかのように。
先生方は警察を呼んで一連の出来事を話した。
この事を知っているのは一部の先生と、その場にいた生徒たちだけ。
その生徒たちには「混乱を招くので、この事は無闇に喋らないように」と釘を打ったが、何処から漏れたのか噂がちらほら聞こえるらしい。
先生は私が気になる事があったら付きまとったり質問攻めにしたりする性分なのを知っていたので噂が飛び交う中諦め半分で私にこの事を話してくれた。
納谷の友達は二人とは違いクラスに何人もいたらしく、教室の中でひそひそ泣いている生徒や慰めている生徒もいた。
でも少し不自然に思ったのが、被害者は納谷だけではなくもう一人居る、それなのに周囲の人は納谷が死んだ事しか考えていない気がする。
俺はそうは思いたくない、いくら親しい人が死んだからといってもう一人の被害者の事を敬わないのは被害者に失礼だ、と、親友を失ったのに妙に冷静な頭を使って、その人の名前でも知ろうとして先生に聞いた。
「加山も気付いたか」と返ってきて意味が分からなかった。
「実は発火した生徒が誰なのか分からないんだ。現場にいた生徒の誰もが、顔がただれて性別すら分からないと言ってる」
確かに体が燃えてから納谷の叫び声が聞こえて、周りの注意が集まるのに少し時間が掛かるかもしれない。
炎の勢いは激しいのだから制服と皮膚が一気に燃えて誰も分からない状態になっても不思議じゃない。
「それで全クラスの出席を取るから教室に待機していろ」
あとこの事は誰にも言うんじゃないぞ、
と釘を刺されて、教室に戻った。
生徒の確認を終えた先生は職員室に向かっていった。10分ぐらい経ってからトイレを口実に教室から抜け出し、職員室を覗いてみたら妙な空気が流れていた。
「出席してないのは加山野乃一人だけか…」
「でも彼女は不登校ぎみで…、それにもし登校していたら校門にいる先生が気づくはずでしょう?」
「でも私は野乃君も不審者も見てないぞ?」
え、いや、野乃は俺が家を出た時いたじゃないか。
誰かが発火したのは早朝だし、その時は野乃と話していた。
「家に電話はしてるのか?」
「それが、さっきから掛けているんですが全然出ないんですよ」
アナウンス「ブッ、おかけになった相手の通信機器の電源が入っていないか、または、故障中と思われます」
!!
「今繋がらなくなりました!」
「え?」
「電話が壊れたんでしょうか」
へ!?
電話が壊れるなんてそうないだろ、
精々高い所から落としたり、意図的に壊さないと────
慶理は何故か物凄く不安な気持ちになって、
駐輪場に行って自転車を掻っ払って学校を出た。
無我夢中で走った、
もう親しい人を亡くすのは嫌だった、
足が痛い、息が苦しい、
心臓が痛い
家に着いた。
なんで?どうして?
唖然と絶望で渦巻く。
この世界にはどうしようもなく死にたいくらい辛いことがある。
今は蓮がどれほど辛い気持ちだったのか痛いほど分かる。
家が燃えていた。