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第7話 悪役令嬢と魔法訓練

 私が毎日の走り込みを始め、それは日課となり少しずつ走れるようになってきた。

 このことはサラ以外の使用人たちやお父様、お母様も知ることになり、週に1度お父様やお母様が帰って来た時には私とサラの二人に加えて騎士団の面々も一緒に走るようになった。


「♪私は 娘に クビったけー」「♪私は 娘に クビったけー」

「♪ラブラブラブラブ ラブ ウォンチュー」「♪ラブラブラブラブ ラブ ウォンチュー」

「♪ラブラブ」「♪ラブラブ」

「♪ウォンチューウォンチュー」「♪ウォンチューウォンチュー」


 お父様が先頭を走りながらそんな狂った歌詞の歌を歌っている。『その周で一番先頭を走っていた者が次の周の歌詞を考えてよい』という私の考えたルールのせいだ。

 親馬鹿だからってお父様はともかく騎士団にそんな歌を歌わせるなと思うものの……私はというと……。


「ばたんきゅー……」


 倒れていた。屈強なうちの両親や騎士団についていけるわけがないでしょう。悪役令嬢って言ってもこっちは運動始めたばかりの6歳の女の子だよ。筋肉どころか足の長さからして倍以上違うじゃない。


「お嬢様、お水です」

「サラ、ありがと」


 サラが差し出してくれるコップから水分を補給しながら考える。

 こんなことで倒れている場合じゃないわね。6歳だからなんだって?女の子だから?そんなことは理由にもならない。そんな理由で敵は容赦してくれないし、火炙りの刑が取りやめられることなどないのだから。

 私が目指すのはそんな権力さえひれ伏すほどの力を得ることなのだから。







 そんな感じで毎日の日課となりつつあるランニングを続けていたある日。


「今日は魔法の実験をするわ!」


 私はまたもや新たな目標を掲げるためにサラの目の前で胸を張って宣言していた。


「お嬢様、あれだけ毎日倒れているというのにお元気そうで何よりでございます」

「まずは火の魔法が使ってみたいわ!なんか火ってかっこいいし!」

「すばらしいスルースキルでございますね。控えめに言って耳に糞でも詰まっているのでございますか?」


 今日も毒舌を飛ばしてくるサラだけれど毎回毎回突っ込むと思ったら大間違いだ。そしてスルースキルを褒められて私はちょっとご満悦である。

 しかし、喋っている時間がもったいないので私はサラをつれて庭へと出ることにした。


 私の家はお城というだけあって庭も広い。

 どのくらい広いかというと庭で軽く学校の運動会が出来るくらいは広いと思う。庭師が植えた低木が見事に整えられており、季節に合わせた色とりどりの花を咲かせていた。

 そして私は『お花がかわいそう』などという可憐な聖女でもないので、そんな場所を魔法の訓練場として使うことになんの躊躇いもない。


「いくわよ!ファイアー!」


 私の気合と魔力を込めた手の先には……何も出ない……。

 何も出ないじゃない!どういうこと!?インストールされたあの能力はどんな魔法でも使えるようになるってことじゃなかったの!?


「お嬢様。自信満々に『想いを力に!』などと申しておりましたのに全然だめでございますね。控えめにいって失笑でございます」

「おかしいわね……魔法が使えない?いえ、違うわ!そうよ、さすがサラ!想いが足りないのよ!」


 ニコリともしないサラに失笑されてしまった。でもそれって失笑というのかしら。

 いえ、そんなことよりただ単純に火が出したいなんて思ってたからダメなのよ。私の願いは世界一の料理人になること!思いは力!そのための火をイメージするのよ!火は食の原点、火があるから人は動物から進化して火を通した食という力を得ることが出来たのよ!


「そう!火よ……火よ……私が求めるのは調理のための力!火力!料理は火力!」


(火よ!!)


 想いの力が火へと変換され……右手が真っ赤な炎に包まれた。

 ゴウゴウと燃え盛る炎は私の右手中心にガスバーナーのように炎を噴き上げる。つまり、私の右手が燃えている。


「あつ……あっつい!!あっついわ!!」

「お嬢様!魔法を止めてください!」

「ええ!?」


 魔法を……止める!? 

 サラが慌てているけど、この魔法ってどうやって止めるの!?止め方とか分からないんだけど!熱い熱い熱い!あ……意識が薄れてきた。これって……魔力切れの感覚……。


 バターン!


 私は庭の土の上に顔面から倒れるとすぐに意識がなくなった。







「はっ!ここは!?」

「おはようございます、お嬢様」

「あれ?部屋?私の右手は?」


 右手を見ると……手が治ってる?

 どうしてだろう。私が寝ているうちに無意識に治癒魔法を使ったのかしら。うん、きっとそうね。そうに違いない!さすがは私!寝ていても優秀さが隠せないのね!


「まさか自分自身を焼く炎魔法を開発するとは斬新でございますね。控えめに言って大阿呆でございます」

「止め方がわからないのよ!なんて言えばいいのかしら?蛇口の閉め方が分からないっていう感じかしら」

「『蛇口』……とはなんでございますか?」


 ああ、そうか。うちはまだ井戸水を使っているんだった。そのうちダムとか貯水池を作って水道を引きたいわね。あ、でも水は魔法で作れるからいらないのかな。


「とにかくもう一度練習をするわよ。手が燃えてちゃ料理ができないからね」


 私はサラを連れて再び庭へと出ることにした。早く魔法をマスターしなくちゃ敵と戦うに戦えないからね。


「その……火の魔法は危険なのでやめておいたほうがよろしいかと……」

「分かってるわよ。次は風の魔法で試してみるわね!」


 さすがに私ももう一度手を燃やすつもりはない。だから別の魔法を試してみる。風の魔法なら使ったからといって手が使えなくなることはないだろう。

 

 でも風……風か~。


 ただの風を想っただけじゃ多分発動しないわよね。特に風に思い入れなんてにし。風で私がしたいことって何だろう。風……風……料理……料理には香りが大切。そして換気扇がなければ焦げ臭いにおいや余計な匂いが料理についてしまう。

 連想ゲームのような形で私は風に想いを寄せる。


「料理は香り!私が求めるのは余計な香りを吹き飛ばす風力!」


(風よ!)


 私の魔力が変化していくのが分かる。そして右手から風が飛び出した。まるで台風の時の暴風のような風が。お、おお……これは……扱いにくい!


「お嬢様、風が強すぎます。もうちょっとおさえてください!スカートがめくれてしまいます」

「こ、こうかしら!?……くっ……うまくいかないわ」


 私の手から飛び出したのは暴風だった。

 あまりの風の勢いにすでに私とサラのスカートが捲れ上がってしまっている。必死に風を押さえようとするけど私の中の気持ちがあふれ出てしまった風が止まらない……。


 バターン!


 今日も私は顔から地面に突っ伏して鼻血の海へと沈むことになった。だから、サラ。鼻にちり紙詰め込むのやめてー……。







「はっ……ここは!?」

「おはようございます、お嬢様」

「私最近ベッドで眠りについた覚えがないわね」

「だいたい毎日地面にキスをしてお休みになってございますからね。控えめに言って地面と結婚すればよろしいかと存じます」


 今日もサラの毒舌は絶好調でなにより。

 ベッドから起き上がった私は寝癖のついた髪の毛をサラに整えてもらいながら窓の外へと視線を向けた。


「これは自分の魔法の限界を知らないと話にならないわね」

「どういうことでございますか?」

「魔力量がどのくらいあるか分かればどのくらい調整すればいいかも分かると思うのよ」

「魔力を測定する道具など聞いたことがございませんが……」


 確かに私も6年間生きてきてそんな魔道具は見たことも聞いたこともない。あるかもしれないけれど、今この場になければ仕方がない。

 でも私には考えがあるのだ。


「それはあれよ!治癒魔法で調べればいいじゃない!」

「治癒魔法で、とは?」

「治癒魔法を使って倒れなかった時はあるじゃない。あれってたぶん魔法の対象が私の持っている魔力で回復しきったらそれ以上治す場所がなくて魔法が終わったからだ思うの」


 いわば蛇口を締めるのではなく、タンクが一杯になったからこれ以上入らなくなる状態だ。いくらでも水を出しっぱなしにするのではなくて、一定の量の容器に水を入れていくイメージを想像すると分かりやすいかもしれない。


「ではどこかで怪我人でも探してまいりますか?」

「その必要はないわ、怪我の度合いで使う魔力も変わってきちゃうからね。そこで……これを使うわ!」


 私はスカートのポケットから粉を取りした。大小さまざまな欠片を含んだその粉は私が大事に大事に保管しておいたものだ。


「なんですか?それは」

「この間の揚げパンのパンくずよ」

「今すぐ捨ててその服は洗濯いたしましょう」


 サラが私のポケットに手をかけると中の物をすべて取り出そうとする。


「ちょっと!服をひっぱらないで!」

「何日前のパンだと思っているのですか。そんなものを食べたらお腹を壊します。阿呆なのですか?」

「いいから見ていなさい」


 私はいつかのことを思い出しながら粉に向けて魔法を発動する。そう、あの油と砂糖と小麦の最適解ともいえるコラボレーションされた揚げパンという料理の味を。


(癒しを!)


 粉の一つがムクムクと成長し、癒しの力で私の手の中でその理想的な形へと復活を果たす。そして私の手には出来立ての見事な揚げパンが握られていた。


「ふふん、どう?」

「本当に不思議ですね……お嬢様の魔法は。どう見ても出来立てにしか見えません」

「この調子で揚げパンを治していくわよ」



 そうして揚げパンを崩しては、そのパンくずをもとに揚げパンを作るという無限増殖作業を続けること十数分。


「次は……これが30個目ね……」


 魔力を消費してるからか、体力とは違う疲労感が全身を包んでいる。気絶する一歩手前という状態なのかもしれないがここでやめるわけにはいかない。まずは限界を見極めないと先に進めないのだから。


(癒しを!)


 さらに一つ、パンくずが揚げパンになる。




───その瞬間




バターン!


 私は部屋の床へと顔をつっこんでいた。

 いつも思うけれどサラ……私が倒れる前に支えてくれても良くない?あ、また鼻に!鼻にちり紙入れるのはやめてー!







「はっ!ここは!」

「おはようございます、お嬢様」

「サラ、いつも顔から地面にぶつかってるけど私の鼻って豚みたいになってないわよね?」

「豚のようにはなっておりませんが、将来お嬢様は立派なメス豚になることをこのサラが保証いたしまします」


 サラの毒舌が今日も通常営業で安心した。どうやら何ともなかったようだ。昨日までの魔法の練習成果もしっかりと覚えている。そして判明した事実とは……。


「昨日の実験ではっきりしたわね。私のAPは30よ!」

「……APとはなんでございましょうか」

「揚げパンポイントの略よ!」

「お嬢様のボキャブラリィの無さに私は感無量でございます」


 マジックポイントでも揚げパンポイントでもどっちでも良いけれど、魔法を使うのにそれを測る単位がないと話にならない。そこで私が考えたのがAP、揚げパンポイントだ。

 このポイントはつまり、今の私は揚げパン1本を癒す魔法を30回使えるということ。分かりやすいでしょう!

 よし、これを目安にまずは魔力の蛇口を作らないといけないわね!


「さぁ、私たちの特訓はこれからよ!」


お読みいただきありがとうございます。

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