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第6話 悪役令嬢と日課

「私には体力が必要だと思うの」


 私は部屋でサラに向かってしみじみとそうつぶやいた。確かに私は魔法が使えるようになった。だけど魔法があれば何でもできる……なんてことはない。

 なぜなら私には体力がない。

 まったくない。信じられないくらいない。これでは将来強敵が現れた時、指先一つでダウンさせられるのは確実。前世の記憶を取り戻してから常々とそう感じている。


「はぁー……今日は一体なんなのですか?」

「ねぇ、サラ。私って同年代の子供と比べても体力が少ないじゃない?」

「はい、控えめに言って最底辺の芋虫レベルでございますね」


 サラの毒舌は今日も絶好調で何よりであるが、私は少し困っている。それは歩いたり走ったりするたびに倒れることだ。それも日常生活レベルで。私の体は見た目通りにとてもひ弱なのである。


「その芋虫のままじゃ困るのよ……ということで今日から走るわ、サラ!早速いくわよ!」

「それ私もついていかなければいけませんか?」


 心底嫌そうな目をしたサラと一緒に来ました我が家の外。

 以前に説明したが我が家は堀に囲まれたお城である。はっきり言ってでっかい。隣接した場所には領の騎士団詰所や厩、家畜などを飼育している牧場などもある。

 おそらく我が家の城の外周だけでもたぶん1kmくらいあるんじゃないかしら。だったら……。


「毎日目標10周よ!いくわよ!サラ!」


 私は自分に毎日の日課を課すことにした。毎朝1日10km走る!これまでろくに歩きも走りもせずに鈍ったこの体を叩きなおすのよ!


「はいはい」


 私が走り出すと、嫌そうな返事とともにサラもついてきた。あら?なんで私は全力で走ってるのにサラは歩いているのかしら……。あ、脇腹が痛い……。息が上がる……。そして普通に歩いているサラに抜かされた。


「はぁ……はぁ……」

「お嬢様。まだ一周の半分も進んでおりませんよ?口だけでございますか?」

「分かってるわよ!」


 再び走り出す私。でも黙って走るのは結構きついわね……。よし!こんな時こそ前世の知識を活かすのよ!前世では走るとき何をしてたっけ……?えーっと……そうだわ!アレよ!


「♪王都の貴族は くそったれー!」


 私は大空へ向けて大声で歌いだす。


「突然どうされたのですか?お嬢様。頭大丈夫ですか?」

「今日はまだ頭を打ったりしてないわよ。サラ、歌いながら走るのよ」

「歌いながら……ですか?」

「軍隊でも部活でも前世では歌ったりリズムに乗りながら走ってたわ!あれは指揮を高めるだけじゃなくて意識をそっちに向けて疲れを誤魔化すのに効果があったんだと思うの!」


 確か前世の軍隊モノの映画……古い金属のジャケット的な名前の映画で兵隊さんたちが卑猥な歌を歌いながら走っていた。あれを見習おう!


「意識を誤魔化せるって……それってお嬢様だけの感想ではございませんか?」

「うるさいわね!いいからいくわよ!サラも復唱してね!」

「はいはい……仕方がございませんね」


「♪王都の貴族は くそったれー」

「♪王都の貴族は くそったれー」

「♪庶民のことなど 見てないぞー!」

「♪庶民のことなど 見てないぞー!」

「♪レボリューション!」「♪レボリューション!」

「♪レボリューション!」「♪レボリューション!」


「♪頭の 中は 花畑」

「♪頭の 中は 花畑」

「♪レボリューション!」「♪レボリューション!」

「♪レボリューション!」「♪レボリューション!」


 古い金属のジャケット的なリズムで歌いながら私とサラは走り続ける。


・ 


───そして……


 私は一人で堀のそばの木陰で倒れていた。

 私の頭のそばにはサラが用意した水の入ったコップが置いてある。いつも思うのだけれどサラってどこから水とかコップとか用意しているのかしら。


「♪うちの お嬢は 甘ったれー」


 そしてサラはなぜか私の代わりに替え歌を歌いながらお家の周りを走っている。先に一周走り切ったほうが次の歌詞を考えると決めたので今はサラが替え歌を作って歌いながら走ってるのよね。


「はぁー……はぁー……休憩終わり!行くわよ!」


 私はいまだに私の毒説を歌い続けるサラを追いかけ走り続けるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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