第33話 悪役令嬢とスティング
スティングの案内で地下を歩くこと数時間。時計がないので何時間かは分からない。もしかした10数時間かもしれないけれど1日はたっていないと思う。
「そこを真っすぐ行って3つ目の水路を右だ」
「分かったわ」
スティングはこの数時間で片言の話し方から普通の話し方に変わっていた。私を質問攻めにする度に内容を吸収しているらしく、話し方が流暢で知的な感じになっていったのだ。
もしかして一を知って十を知るとか言う天才ってやつなのかもしれない。
「そこの瓦礫を登れば上に出られる」
「ここ?その割に暗いわね……本当に外につながってるの?」
スティングはその先が地上だと言うが、そこから光は落ちてこない。
私は足元に注意しながら瓦礫を登っていき、光が落ちてこない理由を把握した。それもそのはず。地下から地上へと上がって見上げた空には星が輝いていたのだから。
夜だ。
たぶん私は朝方に地下水路に落下したから、今はその日の夜か、次の日の明け方前といったところかしら。
周りを見るとここは廃墟の一角と呼べるような場所だけれど、遠くに明りや建物がたくさん見えるので街のスラム街の奥の方かもしれない。そうだとしたら落ちた場所からかなりの距離を流されて歩いてきたことになる。
「帰るわよ」
「俺も……か?」
「あたりまえじゃない」
せっかく拾ったのに逃してたまるものですか。このスティングは私が立派な革命勢力として育てて見せるわ。それにもし彼が暗黒剣士だったとしたら剣術で勝負してみたいと思う。互いに切磋琢磨すれば私は誰にも負けることもない天下無双の強さを手に入れられるだろう。だからスティングの利用価値は計り知れない。
「あれは!!!お嬢様!!」「お嬢……って臭え!!」
私は自分がだいたいどのあたりにいるか分かったので、家に向かってスティングを背負ってスラムを歩いていると松明を持った集団に取り囲まれた。遠くに見えていた明りは彼らだったらしい。
「サラ。それにフレン?」
そこにいたのは私の専属メイドのサラとスラム街のボスで将来革命組織『暁の翼』の総司令官になるはずのフレン、そしてその部下たちだった。
「こんなところで何をしているの?」
「お嬢を探していたに決まってるだろうが!」
フレン達に詳しく話を聞くと私が行方不明になったと大騒ぎになっていたらしい。
捜索隊が組織されて大規模な捜索が行われていたそうだ。悪役令嬢がいなくなったからって大げさだと思うけど、メアリ組の収入源である私がいなくなって騒ぐというのなら納得できる。お給料出なくなっちゃうから。
「ちょっと穴に落ちちゃったのよ」
「穴ぁ!?」
「でも安心して自力で帰ってきたから」
私が水路に落ちてからの大冒険を説明すると周りの人間の視線が私の背負っているスティングへと向いた。
「それでその背負ってるのは……」
「ええ、ここの地下で保護したスティングよ。連れていくわ」
「はぁ!?」
フレンとその周り男たちがどよめいた。どうしたのかしら。サラだけは普通ね。動揺しているようには見えない。なぜ男たちがどよめいているのか分かっていないような顔だ。
「そうそう、フレンに聞きたいことがあったのよね。この子は地下で怪我をして死にそうになっていたのだけれど……あなたは保護しなかったの?他にも死んじゃった子たちもいるみたいなのだけど」
「そいつらを保護って……お嬢。そいつらは地下住民ですぜ?俺らみたいに人間扱して保護なんてするはずがないですぜ」
「……は?」
いまなんて言った?アングラー?人間扱いしない?どういうこと?
「だからそいつらは地下にいて残飯を漁りに来る害獣みたいなもんで人間じゃねえって言ってるんですよ。汚ねぇし、臭えし、迷惑しかないやつらで……いてぇ!」
私はフレンの脛を魔法で身体強化した足で蹴りつけた。フレンが痛みで脛を押さえるように屈んだのでその髪を掴むとその額に私の額をガンとぶつけた。
目と目の間が数センチの距離で私はフレンを睨みつける。
「はぁ!?なんて言った!?もしかして地下に住んでるから人間扱いしないって言ったの!?」
「あ、ああ……地下住民は人間じゃねえってのがここらの常識で……」
こいつ本気で言っているの?仮にも将来平民の人権を取り戻すために立ち上がる革命軍の総司令官になる男でしょう?それが何を言っているの?私はフレンにはいつかきっと革命のために立ち上がるだけの度量があると期待していたのに……。
「フレン!あなた私に言ったわよね!『貴族は平民を人間扱いしていない』って!『人間扱いされずに死んでいくなんて許せない』って!あんたが!あんたがこの子の対してしてることと貴族がしていることの何が違うの!」
「いや、あの……」
私は至近距離で睨めつけるとフレンは必死に目を泳がせた。
「目を逸らすな!」
私はアレンの胸倉を掴むと無理やり私の顔へと向けさせる。
「私あなたに言ったわよね!死にそうな人がいたら教えなさいって!食べ物に困っている人がいたらパンを渡しなさいって!なんでそうしなかったの!?見損なったわフレン!今のあなたと!あなたの嫌いな糞貴族と!やっているこのなにが違うって言うの!」
私はフレンを放り投げるとスティングを背負って歩き出す。スラムのボスで『暁の翼』のリーダーになる男だったと思っていたのに本当に期待外れだ。
革命を成功させるために一人でも人数を増やさなければいけないというのに。しかも今回死にかけていたのは革命軍一の戦力となる暗黒剣士スティンかもしれない男の子だ。許せるはずがない。
「サラ、行くわよ!明日明るくなったら地下を捜索して、人がいたら保護するからね」
「承知しました。準備しておきます。お嬢様」
俯いて呆然としているフレンたちを置いて私たちは家路へと歩き出す。こうして真っ暗になってから街から家に帰るのは初めてかもしれない。
大自然に囲まれたデズモンド領らしく、空には満点の星空が広がっており、虫の音一つしないので私たちの足音だけなっている。スティングは疲れて寝ているのか『なんでなんで』攻撃もなく大人しい。
「お嬢様。お疲れでございましょう。私がその子を背負いましょうか」
「別にいいわよ。私が保護したのだから私が最後まで面倒見るわ」
私も地下にいたせいで泥だらけだし、サラの服まで汚す必要はない。
「これからどうなされるのですか?」
「家に帰ってこの子をお風呂に入れて綺麗にしてから寝ましょう。明日は地下の捜索ね。他の子とかあなたの友達が見つかるといいわね」
「メアリ……お姉ちゃん」
スティングに話しかけたところ、起きていたようでなぜか背中からギュっとされた。どうしたのかしら?何か絞り出しそうな声で私を呼んだのだけれど。
「……ありがとう」
「はぁ?何を言っているの?スティング。感謝なんてしないで!私はあなたが必要だから助けただけで善意とかそういうんじゃないからね。勘違いしないでよね!」
「お嬢様、その言い方だとますます勘違いされると思いますよ。阿呆なのですか?」
サラがまた訳の分からないことを言っている。
私がスティングを助けるのは自分の為だけの利己的行為なのだからお礼を言われるような要素は皆無なだけよ。
まぁサラの毒舌はいつものことなのでスルーすることにしよう。今日もいろいろあったけれど、デズモンド領はいつもどおり平和だ。
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