閑話 竜王国①
アルスバーン竜王国。
オルレアン王国に隣接するこの国は深い渓谷と森で囲まれた過酷な環境にありながら飛竜などを使役する特殊な能力を有しており、独特の文明を気づいていた。
その王城に設けられた議場では竜王国を代表する面々が顔を合わせていた。竜王シルキス・フライ・アルスバーンを始め、宰相や大臣に加え、今回は飛竜を操る竜騎士団長まで列席している。
議題は隣国であるオルレアン王国についてである。
竜王国は険しい山脈に沿って作られた王国であり、自然は豊かではあるが川は急流で留まることが無く、険しい丘陵により農耕地として利用できる土地が非常に少ない国であった。
古来より魔獣を従える技に重点を置き、狩猟を主にした交易等を行っているが、それでも国民生活はギリギリ。
竜王国は守るには硬く、負け知らずであるが攻めるとなればそうもいかない。豊かな平野を持つ隣国にはたびたび攻め入ろうとしているものの、決定的な勝利はおさめられていない状態であった。
「みなさん、まずこちらの指輪をご覧ください」
宰相が小箱から赤い布に包まれた蒼い宝石の指輪を取り出すと周りに見えるように掲げて見せる。大ぶりのアメジストと思われる宝石は無数のカッティングにより光を取り込みその輝きを増していく。
その溢れんばかりの高貴な輝きは物語に出てくる伝説の指輪を思わせ、その場にいる人々から「ほぅ」という感嘆の溜息が漏れ出た。
「素晴らしいな……」
「そのような宝石が竜王国にあったとは……」
「どこの名工の作品だ?」
「淑女の涙……」
口々に会議の参加者から賞賛の声がするが、国王のその一声でその言葉は静まり返る。
『淑女の涙』。
数百年前に空前絶後の名工と歌われたオルレアン王国の宝飾工であるミリアンの最高傑作と言われる指輪である。門外不出のオルレアンの国宝であり、この場にあるはずがないものであった。
「これはとある筋から売りに出されていたものを買い取ったものです。売りに出された経緯も聞いておりますので偽物と言うことはありますまい」
宰相によるとこの宝石はオルレアンの馬鹿王子が婚約予定の貴族令嬢にこの指輪を送る際、令嬢を平民と勘違いした末に、不敬だとして斬り捨てようとしてさらには返り討ちにあい、慰謝料代わりに奪われた一品、とのことらしい。
それを聞いた面々はお互いの顔を確認しあうと……弾かれたように笑い出した。
「……ぷはははははは!」
「オルレアンも次代がこんなことをしていてはおしまいだな!ははははは」
「女子に負ける王子とはそんな者が戦に出てきても怖いものではありませんな!」
議場が爆笑に包まれる。それもそうだろう。
公爵令嬢に負け、大事な国宝を他国に売り払われているのだ。オルレアン王家は一生ものどころか今後数百年は語り継がれるほどの醜聞になることだろう。
「なるほど、面白いな。それで宰相よ。この指輪を買い取ってこの場に持ってきた理由を聞いてもいいか?皆を笑わせるためだけではあるまい」
「勿論です陛下。調べたところオルレアン王家はこの情報をまだ把握していない、または隠ぺいしている模様です。そこで次の年始のオルレアン王家の生誕祭に呼ばれた際に披露してはいかがかと……」
オルレアン王国とは小競り合いをしているものの交流が一切ないということはない。もちろん国王等の重要人物では暗殺される危険もあるため、国王が直接赴くことはなく、外交官等がその任を務めている。
他の国々の大使なども参加するため、年始を祝う生誕祭にも参加しており、社交という名の情報収集を行っていた。
「なるほど……そこでオルレアン王家の失態を他の国々にも暴露してやろうということか。面白いな。ライアン!」
「はい!」
竜王に呼ばれたのは竜王国の第二次王子ライアンである。すらりとした長身に竜王国人の特徴である竜の尾のように長い髪を編み込んで背中へと垂らし、野心家を思わせる鋭い目をしている。
「この指輪はお前にやろう。婚約者殿にこの指輪を贈り、それを付けてオルレアン王家の生誕祭に行って大いに挑発してやるといい。竜騎士団はその日は王都の上空で数騎待機しておけ。有事の際は逃走の手助けをせよ」
「はっ!」
もし挑発に乗って攻め込んでくれば良し。攻め込まれずとも王子が失態を犯して国宝を売り払らわれたオルレアン王国の信頼は低下することだろう。
「陛下、私からも報告よろしいでしょうか……」
王子の護衛の命令を受けた竜騎士団長が手をあげ、発言の許可を求める。
「なんだ?お前からの報告ということは……それもオルレアン王国の関係か?」
「はい……オルレアン王国へは飛竜やその眷属により常日頃より偵察を行って情報収集をしているのですが……デズモンド地方からの情報が入りにくくなっておりまして……」
「デスモンドだと……?」
デズモンドと言えば魔の領域であるマナブレアの森を要する一大魔境だ。オルレアン王家と兵力を二分するほどの力を持っている。
豊かではあるものの魔獣の跋扈する領地であり、あの土地を手に入れても身に余るというのが正直なところである。だだし、兵力については侮れずデズモンドの情報は非常に重要だと考えていた。
「それで原因は分かるのか?それとも飛竜に何かあったのか?」
「いえ、飛竜には異常はありません。おそらくは飛竜の眷属の方かと……」
竜王国の魔獣使いの能力は高い。
魔獣使いと聞いてただの動物調教師と勘違いされることもあるが、竜王国では使役した魔獣との意思疎通が可能なのだ。意志と言っても言葉のようなものを交わすことが出来るのだけなく、見たもの感じたものの感覚を共有できるというもので、現地で地上を偵察する様子をまるで自分の目であるように視ることも可能なのである。
さらに飛竜についていえば空を飛べる者すべてにとっての上位種族であり、鳥類はすべてが眷属。その鳥類から飛竜が報告を受け、それを使役者のテイマーに伝えるということも可能であった。
「デズモンド領の鳥類に何かがあったのか……?鳥が使えないとなると……直接飛竜に向かわせるしかあるまい。デズモンドの情報を疎かにするわけにはいかない」
「はっ!では飛竜をデズモンドへと向かわせます!」
こうしてオルレアン王都への第2王子の生誕祭への参加とデズモンド領への飛竜の派遣が決まるのであった。
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