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第30話 悪役令嬢 VS カラス

「こうして落ちた暗黒竜はその身が消滅する寸前、少年の右手に宿ることで消滅を避けることが出来たのでした。おしまい」

「えー!」

「続きはー!?」

「もう一回読んで!姫様!」


 ジョン神父から購入した聖書を自室で読んだところ、とても面白かったので子供たちに読み聞かせたところ大うけしていた。ジョン神父の聖書は中二病発症者である私たちが大いに楽しめる内容のファンタジー感満載の聖書(ライトノベル)だったのだ。


 挿絵も入っていて子供でも読みやすく、字を読めなかったトーマスたちも徐々に文字を覚えて本が取り合いになるくらいに盛り上がってしまった。

 私も続きを読みたかったので2巻以降も購入するためにジョン神父の教会に行くとニコニコ顔で売ってくれた。本が売れるのが嬉しいのかしら。いつもニコニコ顔をしているのでよく分からない。


 ちなみにマナブレアの森捜索隊にジョン神父を誘ったけれど断られた。私より強い人間を2人以上連れていきたいけれど、料理長にも断れられたし今のところ傭兵団長のハウエルしか該当人物がいない。

 ジョン神父なら本が売れて機嫌が良さそうなので頼めば行けるかと思っていたのだけれど『私をなんだと思っているのですか?』と料理長と同じことを言われてしまった。解せぬ。


 前人未到のマナブレアの森。そこに何が潜んでいるのか楽しみなんだけれど、今は準備中というところである。

 そんなわけで私は治療所で子供たちと聖書の第2巻を読んでいたのだけれど……。


「ちょっとカーテン閉めたの誰?」

「暗い!」

「本が見えないよ!」


 突然暗くなって本が読めなくなってしまった。しかし子供たちの1人が言った言葉で私たちは現実を理解する。


「……ここってカーテンなんてないよね」


 そう。治療所にはカーテンなんてつけていない。部屋で寝るようなこともないし、外から見られて困るわけでもないので付けていなかった。なのになぜ暗いのか。


 ガシャーン!


 続いてガラスの割れる大きな音が響き割った。そして頬が熱くなる。真っ暗で何が起こっているか分からないが私の頬が切れているようだ。手を当てるとぬるりとした血の感触がある。


(光よ!)


 苦手だけれど私は光魔法で発動させる。

 光で周りが見えるようになると私の顔の横の壁に黒い何かが突き刺さっていた。離れて見てみるとそれは……。


「カラス?」


 カラスが壁に突き刺さって死んでいた。頭から突っ込むように壁にめり込んでおり、そこから血がぽたぽたと流れ落ちている。


「きゃーーーーー!」


 子供の叫び声に振り向くと窓の外がやけに暗くなっており、太陽どころか空の青い部分も見えないほど黒い何かで覆われている。急いで割れた窓に駆け寄って空を見ると……。


 カアー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!


「うるさい!」


 周りの声が聞こえないほどのカラスの声が響き渡っていた。


 ダーン!


 また何かが頬をかすめる。後ろを見るとやっぱりカラスが壁に突き刺さっていた。もしかして私が狙われてる?命がけの特攻と言うやつだろうか。畑を守るためにずいぶん殺したから恨まれたのかな。あ、そうだ!畑!こんなカラスがいるってことは……。


「あああーーーーーーーーーーーーーー!!」


 畑の上も一面カラスで埋め尽くされていた。私たちが育てた野菜たちが無残に引き抜かれ、千切られて、ついばまれている。


「このくそカラスめ!」


 カーア!アーアーアーアーアーア!


「きゃあああああああああああ!」「うわあああああああ」「痛い!」


 返り討ちにしてやろうと思った瞬間、部屋の中にバサバサと大量のカラスが入って来て部屋の中に黒い羽根が舞い散る。


(ウィンドカッター……いや、だめよ!)


 さすがにこの狭い部屋の中で攻撃魔法を放ったら子供たちやサラに当たってしまう。メアリ一家のみんなを傷つけるわけにはいかない。


大口(ビッグマウス)!サラ!中から板を出して!窓を塞いで!」

「はい!」「おう!」


 サラと一緒にいた傭兵が『大口』から板と道具を取り出すと窓に打ち付ける。


 ガタガタガタガタ!


 それでもカラスはその隙間から入ろうしたり、板に体ごと突き刺さったり、攻撃の手は緩まない。しかも中に入ってきた烏の一部に子供たちが目を突かれたり、肉をついばまれたりしている。


(癒しを!))


 子供たちに治癒魔法って傷を使い続けるが、このままでは物量に押しつぶされそうだ。まるでヒッチコックの鳥のようにカラスがこの小屋の周囲を埋め尽くしている。このままでは私たちも、そして何より作物が全滅してしまう。


「サラ!ここは任せたわ!絶対に外に出ないでね!」

「お嬢様!?何を!」「お嬢!?」「姫様!?」


 私が狙われているのであれば私が外に出てカラスを叩けば手っ取り早い。サラ達が攻撃される理由なんてないからね。


 私は扉を開けて外に出ると扉をすぐに閉じる。きっとサラ達が板で押さえつけてくれるだろう。


 小屋から離れるために私が走り出すと上空に旋回しているカラスたちが一斉に私を見つめてくるのを感じる。太陽どころか空も見えないほど上空をカラスが埋め尽くされているのは異常だ。

 

 あれだけ殺してやったのにどこにこんなに隠れていたのだろう。もしかしてマナブレアの森だろうか。あそこの中までは私は入って行っていないので良い隠れ場所にはなったことだろうし。


「こっちに来なさい!」


 私が走るにつれて黒い群れも移動してくる。途中で何匹ものカラスが捨て身特攻で私の体に突き刺さってくるが致命傷以外はAP節約のために治癒魔法で治さずに突き進む。


「ウィンドカッター!」


 あまりに攻撃が激しいため振り向き様に私は10本の風の刃を放つ。これまで魔法を毎日気絶するまで使い続け、放てる刃の数が増えたので可能になった10連射だったのだが……。


「駄目だわ!」


 狙いが外れることもなく見事に10数匹のカラスを斬り裂いたが、上空には何万匹いるのか分からないほどのカラスの群れ、群れ、群れ。焼け石に水どころの話ではない。


「ぐっ!?」


 それらカラスが上空から滑空し勢いをつけて私に襲い掛かり続ける。お腹に突き刺さり、髪についばまれ、全身のツナギを穴だらけにして体にまとわりついてくる。


「この!」


 身体強化で数匹のカラスを殴り飛ばすも後から後から私にくちばしを突き刺そうと滑空しては突き刺さってくる。こんなの今使える魔法や物理攻撃では無理だ。


 ゲームのDLCでは主人公はどんな魔法でも創造していた。『愛の心が力になる』なんて言って空を飛んだり、空間転移したりと何でもありの活躍をしていたけれど、私が悪役令嬢なのが原因かは分からないが、私にはそこまでの魔法を使うことは出来ない。

 そもそも料理に関係する魔法限定なのよね。光魔法も暗くなってから料理したいと思って使えるようになった魔法だし、どうする?どうやったらこの群れを消し去れる?そもそもこんなにたくさん敵がいたら一つにまとめないとどうにもならない。各個撃破なんておそらく無理だ。

 ああ、なんかちょっとだけ腹が立ってきた。こいつら……悪役令嬢らしくまとめて地獄へと引きずり込んでやれないかしら……。


「んん?引きずり込む?」


 私の頭にひとつの考えが浮かぶ。そうよ、各個撃破なんてする必要はない。こっちから敵を攻撃する必要なんてないのよ。相手から地獄に引きずり込まれる、そんな魔法なら心当たりがあるわ!


 私は風魔法を変化させ、目の前に風の刃を固定させる。間違っても刃を飛ばしたりはしない。それを内向きに角度が付くように並べると……高速で回転させた。


 バリバリバリバリ。


 手のひらの近くにいたカラスたちがその刃に斬り裂かれるが、そのためだけに刃を作ったわけではない。それにこの程度の回転速度じゃあまだ足りない。


 生ごみ粉砕機(ディスポーザー)のようにすべてを粉砕して、換気扇を逆回ししたようにすべてを吸い込むようにもっと速く!もっと強靭に!


「換気閃!!」


 サラに以前ネーミングセンスがないとか言われた名前の魔法だけれどそんことは今は関係ない。魔法には私のイメージが大切なんだから。

 今まさに私がすべてを粉砕して吸い込む風の刃をイメージしたそれは……。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ!


 巨大な竜巻を生み出し、その力の中心が私の手を先の風の刃と接続された!


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 先ほどとは段違いの勢いでカラスたちが吸い込まれてはミンチとなって地面に落ちてく。

 空を飛んでいる連中は竜巻から脱出しようともがいているようだが、強靭な風の渦には為すすべもなく巻き込まれ、風の渦の中心部へと連行されていく。

 カラスだけでなく、雑草や荒らされた野菜たちも地面から引き抜かれ、木々の枝も巻き込み、土や小石、低木までも竜巻の中に巻き込まれては塵へと変わっていく。

 サラたちのいる小屋はガタガタと揺れているが何とか持ちこたえているようだ。そして……。




───どれくらい時間がたったことだろう。




 私のAP(揚げパンポイント)にも限界があるので心配だったのだけれど、目に見えてカラスの数が減って来た。上空を飛んでいるカラスは既になく、地面に叩きつけられて動けなくなっているカラスしかいなくなったので魔法の発動をやめて周りを見まわした。


「……」


 周り一面酷い状態になっていた。

 私の畑は柵も畑もあぜ道もどこがどこなのか分からない状態で土がむき出しになっていて、所々からミミズがノソノソと顔を出している。

 マナブレアの森の近くの木々は小枝や葉っぱはすべて消し飛んで丸裸であるし、私の周辺には数万羽はいただろうカラスの羽根と肉のミンチが山盛りになっていた。

 私自身も傷だらけの血だらけで来ていた服は下着も含めてすべて千切れ飛んで丸裸になっているし、何だか頭がクラクラする。目もぼんやりとして良く見えない。


「焼いて肥料にしなきゃ……」


 このまま放っておいたら虫が沸くし、疫病とかの原因にもなりかねない。燃やして肥料にするため炎の魔法を発動させようとしたところ、小屋の扉が開いで中のサラ達が飛び出してきた。


「お嬢様!」「お嬢!」「姫様!」


 よかった。見たところ誰も大きな怪我をしていないみたいだ。こんなところでカラスなんかに革命勢力を減らされなくて本当に良かった。


 バターン!


 安心したのが悪かったのか、私はいつものように魔力切れにより顔から地面に突っ込むと意識を失うのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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