第25話 悪役令嬢と目利き
お父様とお母様はランス何とか君を殺すとか王都へ攻め込むとか言っていたが周りの説得により何とか収まり、今日も今日とて魔物狩りに出かけている。
一応抗議の手紙を出したみたいで、毎年行っている王都での新年祝賀会にももう参加しないことを決めたそうだ。まぁ遠いから行きたくないわよね。往復で2か月もかかるし。
悪役令嬢的には王都なんて一生行く気はないし、革命は私が成長するもうちょっと先でいいので今日も日課をこなすだけだ。
でもその前に……。
「料理長!料理長を出しなさい!」
私は屋敷の調理場のドアを叩きまくっていた。最近はここで料理はさせてはもらえないものの、雑用をやりながらなら料理を見ててもいいということでたまに通っている。
「うるせえ!普通に呼べば出るから叩くんじゃねえよ!お嬢!」
料理長アレクシスが現れた。その後ろに副料理長のホーストと見習い料理人のジェイミーもいる。
「今日はあなたに果たし状を持って来たわ!」
「相変わらず人の話聞かずに話進めるなぁお嬢は。なんだ?果たし状?」
「読むわよ!」
「それ渡すんじゃなくて読むのかよ……」
「最初は渡そうと思ったんだけれど、なんだか手紙に書いて相手に渡すだけって私らしくないっていうか……言いたいことがあるなら直接本人に言えばいいって思うじゃない?でも果たし状って言うのにはちょっと憧れるじゃない?だからここで読むのよ」
「お、おう。何となく気持ちは分かる」「分かりますね」「分かるっす!」
さすがデズモンド家の料理人たち。私の気持ちがばっちり分かるらしい。
「すみません、ちょっと何言っているのか分かりません」
私の後ろからサラがひょっこり顔を出す。今日もサラは私と一緒。だけれどサラの毒舌についてはいつものことなのでスルーしよう。
「果たし状!デズモンド家、料理長アレクシス!あなたに料理勝負を挑みます!時間は6日後の正午、場所はデズモンド家の大食堂!料理の条件は何でもありで1皿出すこと!審査員はお父さまとお母さま、それから使用人のみんなに頼んであります!棄権は失格負けとします!以上!」
「はぁ!?料理勝負!?」
「そうよ!私が世界一の料理人だと証明するためにあなたに料理勝負を挑みます!」
しかし、私はそう宣言して果たし状を渡そうとしたところ物言いが入った。
「ちょっと待って!」「ちょっと待つっす!」
物言いを入れたのはホーストとジェイミーだ。
「お嬢様は世界一の料理人に勝負を挑みたいのでしょう?それでしたら副料理長の俺、ホーストにその果たし状は申し込まれるべきです」
「いやいや、俺っしょ。この俺ジェイミーこそお嬢の相手に相応しいっすよ!年も近いし!お嬢が大人になる頃には料理長なんてぽっくりいってるかもしれないっすよ」
「ああっ!?そんな歳じゃねえよ!ぶっ飛ばされたいのか!」
実際にアレクシスの拳でジェイミーが吹き飛んだ。
「いいからその果たし状を私に渡しなさい」
「俺の名前が書いてあるから俺のものだろうが!」
「それはずるいっすよ!」
すぐに復活してきたジェイミーと一緒に3人の殴り合いが始まった。どうしたものか。いや、別に気にする必要はないか。代表が誰でも勝つのは私だし、他の二人はまた別の機会に勝負すればいいだろう。
「私は別に誰が相手でもいいし、3人一緒に相手にしてもいいわよ。じゃあサラ、いくわよ」
「あれをそのまま放っておくのですか。控えめに言ってお嬢様には悪女の素質がございますね」
私は3人を放置したまま厩舎へと向かう。今日はちょっとした予定があるのであまりもたもたしているわけにはいかないのだ。
「トップ!元気そうね!」
「ブルルッ!」
私が手を挙げて以前調教した馬のトップに挨拶すると頭突きと噛みつきで挨拶を返してきた。
「あらあら、元気ね……って髪の毛に噛みつくんじゃないわよ!」
私の繰り出した右ストレートをトップは紙一重で避ける。
私にテイムされたトップなのだけど、こんな感じで結構頻繁に逆らってくる。でも私はむしろそんな反骨心があるところを気に入っているのだけれどね。
「ほら、ニンジンあげるから馬車をひきなさい」
トップがやっと大人しくなったところで人参を与えて馬車に繋げる。そして屋敷の前まで来ると待ち伏せをした。しばらくすると顔を腫らしたジェイミーが出てきた。狙い通りだ。
そこに馬車に乗った年配の男が現れ、ジェイミーを乗せると馬車が走り出す。
「さぁ、あの馬車を追うのよ」
「ブルルッ……」
『仕方ねえなぁ』と言うような態度でトップは馬車をひき始めた。
「お嬢様はまるで馬と話が出来ているように振舞われますね。知能が近いから通じるものがあるのでしょうか」
「そうね。頭のいい馬よね。むしろトップが私と張り合えるのを褒めるべきね!」
「幸せな理解力で何よりでございます。それで今回はどんな阿呆なことをされに行くのですか?」
「料理勝負をするんだから食材調達しないといけないでしょ。今まで近くの街でばかり食材を買っていたけど、どうもうちの料理人が使っているような食材が近くでは見つからないよ」
「普通に売っていたと思いますが?」
「素材の品質が違うのよ。この間の晩餐会でも食べたけどあれは厳選に厳選を重ねた素材で作られていたわ。よっぽど良い目利きをしているのね。だからうちの料理人の仕入れ先を確認して良さそうだったら料理に使うつもりなのよ」
「だからうちの御用商人の馬車をつけているのですね」
「そのとおり」
ゴロゴロと木製の車輪を回しながらのんびりと前の馬車が進む。
トップも暴れ出すようなこともなく、私の乗った馬車も進み続け、太陽が真上に登る頃に目的地であろう町が見えてきた。
屋敷からここまで4時間くらいかかっただろうか。普段は来ない街である。確か街の名前はフリージア。農業と酪農の街フリージアである。
名前は知ってはいたけれど、まさかこんなに遠くまで買い出しに来ているとは思わなかった。
「じゃあこのあたりで降りてあとは歩いてついて行こうかしら」
私は手綱をひいて馬車を止めるとスタリと地面に降り立った。なかなか遠かったので歩きでなく、馬車の旅は楽だったけれど少し運動不足な感じだ。ここからは歩きでも問題はないだろう。
「サラも降りて……」
「ヒヒーーーン!」
サラに降りるように声をかけようとしたその時、トップが突然いななくとグルリと馬車を転回させて私たちが来た方向に走り出した。
「お嬢様―――――――!!」
「ブヒヒッ!」
トップが私を振り返って笑っているように見える。あの糞馬今まで猫をかぶっていたのね!いえ、馬だから馬を被っていたのね!
さすが私の愛馬だけあって油断も隙も無い。私をここに置き去りにするために隙を伺っていたのだろう。サラを乗せたまま屋敷の方向へ向かって馬車が小さくなっていく。
そんなトップの悪行は悪役令嬢的にはむしろ好感を覚えるけど、戻ったら一発殴っておこう。それで許す。
「それより食材の仕入先よ!」
トップのことを気にしてても仕方ないので私は前を走る馬車を追って街に入った。
街に入った御用商人とジェイミーはしばらく進むと馬車を置いて1軒の商店の前に立ち止まった。野菜が多く置かれているところを見ると八百屋だろうか。ジェイミーはそこの店主と思われる男と話をしだす。
しばらくすると店主は奥から布の袋を持って来て二人の前で袋を開いた。
「あれは小麦かしらね?」
遠目なので身体強化で視力を強化するとはっきりとその様子が見える。ジェイミーが確かめるように袋を持ち上げたかと思ったら突然怒鳴り声をあげた。
「おい!てめぇ!この俺に混ぜもののあるものを売ろうっていうのか!?ああ!?」
「は!?何言ってやがる!混ぜ物なんてしてねえよ!そもそも中も見てねえじゃねえか!中も見ずに難癖つけんじゃねえ!」
「ほぅ?だったら中を出してみるか?」
「あ……お、おい!やめろ!」
店主が止めるのも構わずにジェイミーは袋を逆さまにしてテーブルの上にぶちまけた。よく見ると小麦粉の色が2層になっていて底に入っていた方の色が濃いようだ。
「見ろ!虫食いの古い粉混ぜやがって!なめてんじゃねえぞ!おらっ!おらっ!」
「ぐあああ!」
おおっ!見習い料理人のジェイミー君、殴る、殴る、殴る。朝、料理長たちと殴り合いをして顔をパンパンにしていたとは思えないくらい強いじゃない。見直したわ!
「お、お前……俺にこんなことしてうちの商会長や町長が黙ってないぞ……」
「だったら俺が後でそいつらに今あったことを直接話しておいてやるよ。次行くっすよ、サラディンさん」
「ちょっ、まっ……」
一緒にいる御用商人はサラディンというらしい。今後私ともお付き合いがあるかもしれないし名前は覚えておこう。二人で一緒に颯爽と立ち去るジェイミーとサラディン。うーん、やるわね。
やるというのは暴力のことだけでなく、一瞬で混ぜ物を見破ったことについてだ。前世ではさすがに混ぜ物とかする店はなかったが、この世界では普通にやってくる。
私も以前食材を買って帰ったものの質の悪いものが混ざっていたということはあるので、今は中を検めてから買うようにはしている。それでも今のジェイミーのように持っただけでは状態は分からない。今のはどうやって分かったんだろう。
「おじさん。くーださーいな」
何かこつがあるかもしれないし、この店のものに分かりやすい特徴があるかもしれない。早速実践してみるべく、私もジェイミーに殴られた店主が立ち上がるのを待って商店に入ってみた。
「あ、ああ。いらっしゃい」
「小麦が欲しいのだけどおすすめはあるかしら」
「小麦ね。ちょっと散らかっててすまねえな。さっきひでえクレーマーが嫌がってな。お嬢ちゃんん、こっちの袋のなんか引き立てだから状態が良いよ」
殴られた顔を抑えつつ、接客を開始する商人。傷の治療よりも商売を優先させたようだ。そんなところは商売人の鏡である。しばらくして店主が袋を持ってきたので空けて袋の中を確認してみることにする。
「見た感じ色は白いし、粉もきめ細かく引いてあって状態は良くみえるわね」
「そりゃそうだ。それは今年取れて先週引いたばかりのピカピカ新品の一級品よ」
袋を持って重さを感じてみる。うん、分からない。ジェイミーはどうやって中の状態を確認したのかしら。仕方ない。いつもの手でいこう。
「お、おい!」
試しに小麦粉に手を突っ込んで下の方をさらって見ると……。
「うわっ……酷いわね」
古く所々黒ずんだ小麦粉が出てきた。よく見ると小麦粉でさえないものも見える。その部分を摘まんで掌に載せた。ん?これって砂じゃないの?噓でしょ。まさか食材に砂が混ぜられてるの?
「売りもんに何しやがる!買い取ってもらうからな!」
「これって砂よね?」
手でつかんだ砂混じりの小麦粉を見せてやると店主はそっぽを向いた。
「あ?お前が今入れたんじゃねえのか?知らねえよ」
「私が食材に砂なんて混ぜるわけないでしょ!料理人なめるんじゃなわよ!」
「ちょっ……何を……ぎゃあああああ!」
私は身体強化の魔法を発動すると店主の腹に10発、顔面に20発ほど拳を叩きこんだ。こういうやつは言って分かるはずないからね。ちゃんと悪いことしたら痛い目に会うと体に教えてあげないといけない。
「これに懲りたらもう少しいい食材を揃えるようにしなさい。そうすれば買ってあげるわ」
パンパンと両手を払って店を出ようとすると……。
「何してんすか、お嬢」
ジェイミーが戻って来ていて店の中を覗いていた。
「あら、ジェイミーごきげんよう」
「ごきげんようじゃないっすよ。屋敷からついてきてると思ったら喧嘩してるし……。あーあー……こんなボコボコにしちまって……」
ジェイミーが店主を哀れんでいるけど、それ半分はあなたが殴った怪我だからね。私のせいだけじゃないからね。
「そんなことより私のこといつから気づいていたの?」
「そりゃあんな騒々しい馬に騒々しいお嬢が乗って後ろからついてくりゃ分かるっすよ。あっ……お嬢!治療あざっす!」
別に気づかれても良いと思って堂々とついてきてたのだけれど、それ以前の問題だったらしい。もう遠慮することはないのでジェイミーに治癒魔法をかけて料理長たちから殴られた怪我を治してあげる。
殴られて顔がパンパンだったからね。今殴った倒れている店主は……別に死ぬこともないだろうから放置でいいわね。この痛みを糧に立派な商人になりなさい。
「それで何をしてたんすか?」
ジェイミーも店主への興味は薄れたみたいでケロッとした顔で私に尋ねてきた。
「小麦粉に砂が混じってたからぶん殴ってたのよ。信じられる?食材に砂よ?砂」
「そこまでする店はめったにないんすけどね。せいぜい古い小麦とか雑穀の粉混ぜたりとかくらいっすけど、マジで砂は参るっすよね。味が落ちるとか言うレベルじゃないっすからね」
そんな感じでジェイミーの食材買い付けに同行しながら食材談議に興じつつ、街を見て回る。そこで気になっていたことを聞いてみることにした。
「ジェイミーってどうやって食材選別してるの?さっき中を見もせずに混ぜ物に気づいていたわよね?他の食材も良いものばかり選んでいるみたいだったし、どうやっているの?」
私もジェイミーと同じように食材の目利きをしているつもりだったけれど、全く叶っていなかった。前世の知識を持った私でもかなわない。
その後、試しに私の選んだ野菜とジェイミーの選んだ野菜で味比べをしてみたのだけれど、ジェイミーの選んだ方が中までしっかり新鮮で瑞々しかった。
さすがあの料理長が食材選びを任せるだけはある。
「お嬢の目利きも結構しっかりできてると思うっすけどね。うーん……どうしようかなぁ……」
「別に教えるのが嫌なら教えなくてもいいわよ」
だったら技術を盗むだけだし。盗賊は手でものを盗むが、料理人は目と舌で味を盗むのだ。悪役令嬢たる私が見事に盗んで見せようじゃない。そう意気込んでいると……。
「うーん……料理長にも教えてないんすけど……。お嬢、料理長に勝つつもりなんすよね?」
「あたりまえじゃない。つもりじゃなくて勝つのは私よ!」
「お嬢には俺が相手したかったんすけどね。あの料理長、俺には下処理ばっかりさせてろくにレシピも教えてくれねえし、腹が立ってたんすよ!食材の目利きのコツを教えるんでやっちまってください!お嬢ならもっと良い料理が出来るはずっすから!」
ジェイミーの目に炎を見た。よほど普段からうっぷんが貯まっていたらしい。確かに気持ちはわかる。私も前世で下積み時代にずっと芋とか玉ねぎの皮むきばかりやらされていた時は嫌になったものだ。
「任せておきなさい。それで目利きのコツってなに?どうやっているの?」
「まぁ、よく見ててくださいっす」
ジェイミーは玉ねぎの入った袋を一つとると目をつぶる。それ以外に何も起きないまま時間が過ぎていき、目を見開いた。
「何をしているか分かるっすか?」
「え?」
ただ袋を持っているだけに見えるけれど……。何もしていないのに何かしているということは……?
「もしかして魔法?」
「ぶー!ハズレっす。俺魔法は苦手なんすよね。だけど誰だって魔力がないわけじゃないっすからこうやって目に魔法化させずに魔力を集中させるんすよ」
魔力?私にとって魔力とはAPのことだ。体内のAPを魔法にせずに目に集中させたりするのかしら。遠くをよく見るときの身体強化の魔法の際に使ったりはしていたのだけれど食材を見るのに使ったことはない。
試しに言われた魔力を魔法にせずに目に集中させてみると……。
「わぁ!」
目を開くと世界が魔力であふれていた。ジェイミーの目の周りと手に持った袋の中に魔力が濃く集中していることが分かる。
「出来たっすか?さすがっすねお嬢。これ結構むずいんすよ」
「まだ目に魔力を集めただけよ」
「その状態でこうやって食材に薄く魔力を浸透させていくと食材の中までしっかり見ることが出来るんすよ。混ぜものや虫食い、空隙まで外からじゃ分からないところも分かるっす」
なるほど。私は野菜の葉の根本や重さ、全体の状態などで良し悪しを見ていたけれど、見えない部分までは感でしか把握できなかった。それを補えるというのであればこれは画期的な方法だ。
「ちょっとやってみるわね……」
ジェイミーから袋を借りて中に魔力を浸透……しないわね。
「もっと薄くするっす。お嬢の魔力は濃いっすからもっともっと薄めて」
魔力量は体積と濃度に依存する。
私は体が小さいから毎日魔法を使って濃度を濃くしてきたのだけど、それが裏目に出たってことかしら。私は出来るだけ魔力を込めないように魔力を伸ばす。
「難しいわね……こう?」
「もっと、もっとっす」
こうして私とジェイミーは街を回りながら食材の目利きの練習をし続けるがなかなか難しい。すぐにどうにか出来るわけでもなさそうだ。
「時間かかりそうっすね。まぁこれは魔法じゃなくて純然たる技術っすから練習あるのみっすよ。でもお嬢にも有利な点があるじゃないっすか。こうするのはどうっすか?『料理長の持っていない食材』で料理をするんすよ」
「どういうこと?」
「お嬢がマナブレアの森から色々食材を手に入れたって聞いたっすよ?それを使って料理長の知らない材料で料理を作るんす。そうすれば料理長には対策のとりようがないっしょ」
「……そうかしら?」
でも確かに一理ある。私しか持っていない食材で勝負すれば私に一定のアドバンテージはあるだろう。街を巡りつつ私とジェイミーは食材を選びながら来週の料理勝負への対策を考えるのだった。
ちなみに家に帰った後、トップはぶん殴っておいた。
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