第24話 悪役令嬢とほら吹き王子②
「お嬢、さすがに殺したりするなよ?」
「……それは相手の返答次第ね」
「……おいおい、勘弁してくれよ?」
「ところでサラの姿が見えないんだけど?」
「ああ、メイドの嬢ちゃんならすげー速さで屋敷のほうに走っていったぜ。領主様に報告してくるって」
「さすがサラ、仕事が早いわね。じゃあ私は私でないと出来ない仕事をしないとね」
私は治療所の中に戻ると腰を抜かしている少年を引きずりだした。この国の第一王子のランスなんとかだ。
「さて、どう落とし前を付けてもくれるのかしら?ほら吹き王子のランス何とかさん?」
「ひっ!?な、なんでこんなこと……」
あら?どうしたのかしら。なんかしゃべり方も表情も子供っぽくなっている。
こっちが素なのかしら。ゲームでは主人公に会うまでは嘘塗れの貴族社会で性格を拗らせているけれど根は善人という設定だった。
そんな自分がついた嘘に振り回されつつ、それでもランスなんとかを信じ続ける主人公に会って人を信じる心を取り戻す……だったかしら。
……まぁ根が悪役令嬢の私には関係ないけれどね!
「なんでって、分からないの?そこの髭が私に斬りかかって来たからじゃない」
「で、でも君が無礼な態度を取らなければよかったじゃないか……それに治療費も高すぎるし……」
「ここの治療費は財産の1割って決まってるのよ。だからそのまま言っただけだけど?」
「そ、そんなの!剣を抜かれたんだよ!身の危険があるのにそれでも譲らないって……。嘘でももう少し安い値段だと言っておけばこんなことにはならなかったのに……」
「は?私に嘘をつけと?生まれてこのかた嘘をついたことのないこの私に?」
「え……嘘を……ついたことが……ない!?」
ランス何とかが驚愕の表情を浮かべているのだけどどういうことかしら。驚くことを言った覚えなない。当たり前のことを当たり前のように言っただけなのだけれど。
「この私、メアリ・アン・デズモンドは嘘なんて吐く必要はないのよ!そんなことより足を見せなさい」
「痛い!」
怪我人をこれ以上痛めつけても何も意味がないからね。まずは怪我の様子を確認しよう。
私はランス何とか君の足の包帯を取るとそこのはパンパンに腫れた足が現れた。
「……これいつ折れたの?王都からここまでこの状態のままで来たの?馬鹿なの?多分放っておいたら腐って切るしかなくなるわよ」
「ひっ……」
ランスなんとか君が青ざめた顔をして泣きそうになっているけど、こんなになるなら王都でゆっくり治療すれば治ったんじゃないかしら?あそこには治癒魔法が得意な主人公のマリーなんとかと言うのがいるはずでしょう。
あれ?これって小さい頃のことで忘れちゃう予定の主人公と王子の出会いイベントの時の怪我なのかしら?なんでうちに来るのよ、こんなに遠い場所なのに。
「それより君……メアリ・アン・デズモンドっていうの……?これはここの……デズモンド家の長女の名前だけど……痛い!」
「デズモンド家の長女じゃなくて私の実家がデズモンド家と言い直しなさい!この世界のすべては私を中心に回っているんだから」
「え!?本当にメアリ嬢なの!?なんでそんな恰好を……」
私は自分の格好を見下ろす。私の着ているのはサラが用意してくれたいつもの真っ赤なツナギだ。我ながらすごく気に入っているので毎日着ている。
「動きやすいし……どうせ血で汚れるでしょ?だからよ」
魔力切れで毎日のように倒れて自分の血を流している。でもこれは血塗れになっても見た目は全然平気なツナギ姿だ。さすがは私のサラ。抜け目がない。
「本当のメアリ嬢なの?だ、だったらこれを渡さないと……」
ランス何とか君が懐から箱を取り出して私に差し出してきた。
「私は君と婚約するためにここまで来たんだ。これは贈り物の『淑女の涙』という宝石なんだけど」
「……は?私とあなたが?」
そう言えばプリレボでは私が王子の婚約者だという設定だったような記憶があるけど……。私とこいつが婚約?王家とデズモンド家が?
「……」
うん、ないわね!なんで革命される側の王子と革命側の私が婚約なんてしないといけないのよ!
「ふーん……淑女の涙ねー?」
私はとりあえず受け取った指輪を見つめる。エメラルドなのかブルーダイヤモンドなのか分からないが、大きな青い宝石がキラキラしていて中で星が輝いている。私は宝石に興味はないけどとてもお高そうだ。
「ねぇ、ハウエル。この宝石いくらくらいで売れるかしら」
「はぁ!?それを売る!?」
「何を驚いてるのよ」
「だってそれってすげえ有名なヤバいやつじゃねえのか?」
ハウエルに詳しく話を聞いてみるとおそらくこれは吟遊詩人の詩でも語られるくらい有名で庶民でも知ってるような宝石らしい。
「それでこれって売れるの?」
「あー……まぁこの国じゃヤバくて売れないが別の国にも傭兵の伝手があるから売れないことはねえかも……」
「じゃ、よろしくね」
「ちょっ!?投げんなよ!?」
私が投げた宝石をホーストが慌てて掴んだ。ナイスキャッチ。
「あの……それは婚約のための指輪で……」
「あ?私の頭を叩き斬ろうとしてきたあなたたちが婚約を求めるとかふざけてるの?それに治療費払わないなら帰ってもらうだけだけど……その怪我じゃ帰る前に死んじゃうんじゃない?これを代金代わりにするというのなら治してあげるけど?」
悪役令嬢的には向かってくるなら相手が子供でも容赦はしないけど、無力で無抵抗の子供を死なせるというのは私の悪としての矜持が許さない。そういうのはもっと小悪党があることだ。
「わ、分かったから……治してくれる?」
「まいどあり!」
(癒しを!)
私は魔法を発動させてとランス何とか君の足を治す。むむっ……結構重症ね。こんな状態でここまで来させるとか王国にはバカしかいないのかしら。ついでに頭の中身も治るといいけどそれは主人公に任せることにしよう。
「え……もう治ったの!?詠唱は!?」
「必要ないわ!さぁ、みんな。治ったなら倒れてるやつらを剥くの手伝って。こいつらの武装全部剥ぐわよ!」
傭兵団に声をかけると騎士たちの武器と鎧を剥いでいく。こいつらを治すのは取るもの取った後だ。
「ちょっ!なんでそんなことをするの!?」
「なんでってあなたの治療費は貰ったけどこいつらの分はこいつらから払ってもらうからよ」
王家の近衛騎士であればさぞやお高い武具を纏っていることだろう。もちろん所持金も全部没収するし、豪華そうな着ている服や持ち物も全部募集だ。下着くらいは残してあげてもいいかな。使い道無さそうだし。
「馬車も没収ね……。馬は……帰りの足くらいは残してあげるわ。感謝しなさい」
帰りの電車賃くらいは残しておいてやる的な感じで馬は許してやることにする。その後、魔法で傷を治癒してやると騎士たちが一人二人と起き上がる。
しかし髭騎士は納得がいっていないようで私をすごい形相で睨みつけてきた。もう少し痛めつけてやった方がいいのかしら。
「貴様ら我らにこんなことをして……ひっ!?」
髭騎士が何かを言おうとしたその瞬間、その首すれすれに飛んできた剣がひげ騎士の頬をかすって地面に突き刺さった。
何事かと飛んできた方向を見ると……
「貴様らかああああああああああああ!私の可愛いマリーを殺そうとしたのはああああああああああ!」
おお……。お父様だ。
真っ赤な髪を逆立たせて顔も真っ赤にしてたいそうお怒りのようだ。馬に乗ってこちらの方へ駆けてくるようだけど、まだ何百メートルも離れているのにあそこから剣を投げたのかしら。すごい腕力だわ。
馬の後ろにサラが乗っているということはサラが知らせて連れて来たんだろう。お母様やデズモンド騎士団の面々の顔も見える。
「全員皆殺しにしてくれるぞおおおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおお!お嬢様を守れえええええええええ!」
よくここまで届くなと言うような大声が響き渡り、王家の騎士団の面々の顔は青くなる。
「おい、お前ら!うちの領主様はやると言ったらやるお方だからな!逃げるなら早くしたほうが良いぞ!」
ハウエルが近衛騎士たちに余計なことを言うが、確かにお父様ならやりかねない。私としても今すぐの王家対デズモンドの戦を開戦は反対だ。王家とはもっと力を付けてからやりあいたいのでハウエルに反対はしないでおこう。
「あの赤髪は……本当にデズモンド卿だと!?だったら本当にこれがメアリ嬢!?ぐはっ」
髭騎士が驚愕しているが、これとか呼ぶな。もう一度石をぶつけてやろうか。もう今ぶつけたけど。
「殿下!ここは引きましょう!」
「あ、ああ!」
「行くぞおまえたち!馬に乗れ!」
髭騎士に続いて騎士たちが馬に乗り、ランス何とか君も抱えられると一目散で逃走を開始した。
「おおー……さすが騎士。逃げ足が速いわ。でも下着だけで馬に乗っているのって少し間抜けね」
「そりゃあお嬢がやらせたんじゃねぇか……」
逃げていく近衛騎士たちをお父様たちが追いかけていくと思ったが、半分以上は私のところに向かってきた。どうしたんだろう。
「マリー!?大丈夫か!?ああ……その頭は大丈夫なのか!?」
「ええ!?大丈夫ですけど?」
お父様にまで頭の心配をされるとは思わなかった。私の頭は極めて常識的で頭脳明晰ですけど何か。
「本当か!?額から血が出ているが平気なのか!?」
「え……血?」
額を触るとベタベタした感触がする。触った手を見ると血がべっとりとついていた。新しい血のようなので返り血じゃないということは……。
「あっ!切れてる!?」
髭騎士の初撃は包丁で防いだつもりだったけど頭に剣をめり込まされていたらしい。うわー!危なかったわ!
(癒しを!)
「今治りましたわ。大丈夫です、お父……様……」
頭に血が上っていてまったく気づかなかったけど、ずっと額から血を流し続けていたらしい。それはランス何とか君もビビるわよね……と言うか何か頭がくらくらしてきた……。
バターン!
「マリー!?」
「お嬢!?」
「お嬢様!?」
私は地面に顔面から倒れ伏せ、お父様たちが大きな声を出すのを聞きながら意識を失っていった……でもこれだけ人がいるなら倒れる前に支えてくれないものだろうか……。
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