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閑話 とある王子の独白①

 私、第1王子であるランスロット・オルレアンの下には様々な人間が訪れる。今日はこいつ。どこぞの伯爵家の子息らしいが、自分の領の自慢とともに(うそ)をまき散らす。


「こちらは私の領で作られた焼き菓子でございます。おひとついかがでございますか?ランスロット殿下。菓子に古い小麦を混ぜているという隣のクランマー領の焼き菓子とは違い、これは引き立ての厳選された小麦だけが使われているのですよ」


 こいつの言ったランクマー領は小麦の大産地でパンや焼き菓子等も有名な老舗だ。顧客の信頼は厚いし、そんな偽装をする意味がない。逆にこいつの家は先代が優秀であったため爵位こそ高いものの当代評判は悪く、産業も乏しいため何でもやらないと成りあがれないときた。


 こいつも私もまだ6歳。おそらく親に言われて私の取り巻きになろうと嘘をつくように言いつけられているのだろう。こいつが私の毒見係になってから調べたから間違いはないだろう。


 本当に嫌になる。嘘、嘘、嘘。私の周りは人を陥れて自分が得をしようとする嘘つきだらけだ。毒見役だというこいつがその食べ物を口に含んだまま飲み込んでないのを私はしっかりと見ている。

 私が過去に毒で倒れたことがあるのでそれをそのまま飲み込むのが怖いのだろう。それどころか私が食べてから飲み込もうという腹だろう。これではどっちが毒見薬か分かりはしない。


「そうか。では一ついただこう……うぐっ!?」


 そして私も嘘つきだ。こんな連中を馬鹿正直に相手にしていられない。私は血のりを口に含んで吐き出した。


「で、殿下!?」

「おい、貴様!?殿下に何を食べさせた!?」

「い、医者!医者を呼べ!」


 ふんっ、私に(うそ)を飲ませたのだから当然の罰だ。こんな奴が従者として務まるか。そう、王位継承者であるこの私の従者に。





 今日も私は嘘をつく。

 私が嘘をつき始めたのはいつからだろうか。厳しい父上である王からの叱責を避けるためだったからだろうか、私に接する貴族たちの言っていることのほとんどが嘘と気づいた時からだろうか。


 いや、それは私が毒で倒れた時のはずだ。

 あの時も私には毒見薬がいた。しかしその毒見薬は毒入りの料理を毒見もせずに私に差し 出したのだ。毒入り料理を食べた私は数週間生死の境をさ迷った。そしてその毒見薬はいつの間にか姿を消しており、事件は闇の中へと葬られた。

 事件として動機のある者を調べられたがその対象が多すぎたのだ。竜王国を始めとしたオルレアン王国と敵対している国々、国内の王族派と意見の異なる貴族派、王家への反逆を画策する庶民たち、王族内での対立派閥の者達などだ。

 その時、父である国王陛下に言われた言葉を今も思い出す。


「毒見もしていないものを食べるとは馬鹿め。例え側近だとしても人を疑え。口に入れても飲み込むまで信用するな」


 そんなことを言われ、私は幼いながらも大人にならざるを得ないと思った。子供であることを捨て、知識を得て人の一挙手一投足に目を配り、誰も信用などしなくなった。


 そして私は嘘つきになった。あとからバレても構わない嘘もあれば、最後までバレることのない嘘、そもそも嘘をつく必要のない嘘。私は特に理由もなく嘘をつく。それが貴族であり、王族であると周りの大人たちから学んだ結果だ。

 そんな生活をしていて楽しいのかというと楽しくはない。何もかも隠し事なく生きていければそんな楽しいことはないと思うが、そんなことが出来るわけもなく私は嘘をついては灰色の日々を過ごしている。



 そんなある日。私は足の骨を折る怪我をした。これは本当の怪我だ。嘘ではない。階段で足を踏み外して右足がぽっきりと折れてしまったのだ。そのため教会による治癒魔法で段階治療をしようと相談していたところ、父から呼び出された。


「ランスロットよ。お前はデズモンドまで行ってくるがいい」

「はい」


 この恐ろしい父に対しては嘘でもYESしか許されない。この国の王である父は絶対王権主義者で、自分の意に沿わない者は誰であろうと許すことはない。私も目の前で斬り捨てられた人間を見たことがある。

 

 そんな父が言うにはデズモンド領で2つの用事を済ませてこいというものだった。一つは足の治療。王都の城下町には優秀な治癒魔法を使える神官がいるが、骨折を治すにはそれでも時間がかかる。噂によると教会では幼いが優秀な少女が治癒の手伝いをしているというがそれでも一瞬で治せるというものではないだろう。


 しかし、デズモンド領にはどんな怪我や病気も一瞬で癒す『聖女』がいるらしいのだ。そこで治療をしてこいということだが……デズモンド領まで1か月、往復で2か月はかかることを考えると王都で治療したほうがいいのではないか……と思うが、そんなことは言えないので私は嘘をつく。


「さすが父上。素晴らしいお考えです」


 そして2つ目の用事。それはデズモント家の令嬢と婚約をして来いというものだった。

 

 デズモンド家。

 王家であるオルレアン家にも連なる由緒正しい貴族であり、王家に匹敵する広大な領土と軍事力を持つ名家だ。父も幼少のころから交流があり、父はお互いの子供を結婚させて縁を結びたいとかねてから考えていたという。しかし、一人娘を大事にするデズモンドの領主からこれまでは素気無く断られていたとのことだった。


 あの恐ろしい父に逆らえる家などデズモンド家を置いて他はないだろう。そんなデズモンドだが、なんでも晩餐会で『王家になら娘をやってもいい』というようなことを聞いた貴族がいたらしい。

 それでは!ということで私に親書を持ってデズモンドまで行ってこいということだった。さらに贈り物として『淑女の涙』と呼ばれる巨大なエメラルドが付いた指輪を持たされた。


 しかしデズモンド家の娘とは……。


 噂はいろいろと聞いたことがある。『まるで聖女のように優しく、身分の貴賓を問わず接している』『悪魔のような鬼子で幼い子供の頭でも平気で叩き割る』『貴族にあるまじき服装をして畑で野菜を作っている』『カラスを殺して回っており、カラススレイヤーの称号を取得している』『馬と1対1で決闘を行い、殴り合いで勝利をおさめた』などなど。

 おそらくほとんどが嘘なのだろうが、お近づきになりたくない噂なのは確かだ。そもそも馬と殴り合うってなんだ。噂にしてももはや原型も留めてないくらい変わってしまっているのではないか。


「デズモンド家のご令嬢との婚姻できるなんてとても喜ばしいです」


 それでも私は嘘をつく。それが貴族の、王族の生き方なのだから。

 そして1か月後……。私は護衛の近衛騎士団とともに小汚い治療所でデズモンドの令嬢と初めて出会うことになる。


お読みいただきありがとうございます。

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