第22話 悪役令嬢と招かれざる者
「サラ!また新しい魔法ができたわよ!」
「今度はどんなトンチキ魔法を作ったのですか?」
「トンチキって何よ」
「以前、魔法に腕ごと食べられたのを忘れたのですか。控えめに言ってお嬢様には小虫程度の脳みそしかないのでございますね」
サラの言っているのは以前作った保存魔法『大口』のことだろう。あれはとても素晴らしい魔法だと思うのだけどサラの言うことも一理あるかもしれない。
「あれは確かにちょっと痛かったわね」
「痛いですませるようなものではないかと思いますが……」
「それよりこっちに来なさいよ」
私はサラを連れて自室の調理場へと立つ。手に持っているのは新鮮なキャベツだ。
「いい?見てなさい?加速」
「!?」
私は見事な包丁さばきを見せるとキャベツを千切りにして皿へと移してく。1玉、2玉、3玉。千切りの山が面白いように作り上げられていくのは見ていて気持ちのいいことだろう。
「どう?」
「これは……無駄な動きが一切ありませんでしたね。切る動きから場所を自分の体を移動する動き、皿へと移し替える動き。これはスピード……というより手際?手際に一切の無駄がなくスムーズでございました」
さすがサラ、良くわかっているわね。加速と言っているが別に私のスピードが上がる魔法ではない。
「この魔法は思考速度を加速させる魔法なのよ!短い時間でも複数のことを考える余裕もできるから煮物の具合を見ながら、肉の焼き具合を見るみたいなことも可能になるの!もちろん料理の手際も無駄が無くなって時間短縮が出来るわ!どう?すごいでしょう?」
「その魔法を料理のためだけに作ったお嬢様の頭は確かにすごいと言って過言ではありません。控えめに言って猫に小判でございます」
「あら、サラが私を褒めるなんて珍しいわね」
「……」
猫のように優雅で小判のように輝く私にぴったりのことわざね。そんな私は今日も朝の日課と午前中の予定を済ませてから治療所へと向かった。
「癒しを!」
ハゲ商人(名前は忘れた)や貴族たちから治療費をぼったくってから9か月。前世の記憶を思い出してから1年以上がたち、治療所では私以外にも治癒魔法を使える人間が増えている。
トーマス達の孤児3人衆である。
私は「強い『感謝』が魔法発動へとつながる」ということを隠し立てもせずに話をしていたのだけど、いつの間にか3人に魔法がインストールされていたのだ。いったい誰に感謝したのかは謎だけれど、治療を任せられるようになったので新しく雇った会計担当者たちと相談の上、大幅に給料アップしたし、歩合制も導入した。
さらに収入が増えた私や周りの状況で少し変わったこともある。
まずは私の服装である。
動きやすい布の服を着ていたのだけどやっぱり激しい運動や乗馬(たまに馬が私に逆うので殴り合いになる)をしていると消耗が激しく破れてしまうのでオーダーメイドで運動用の服を仕立てることにしたのだ。
サラを通して注文したのは厚手の布地で作った服とズボンが一体となったツナギだ。自動車整備員やカンフー俳優なんかが着ているアレである。これからの革命で肉弾戦なんかの時には丈夫で動きやすい服が必要だものね。
そしてそれは出来上がったのだけど……。
「サラ……なんでこのツナギは真っ赤なの?」
「どうせお嬢様の血や相手の血で血塗れになるのですから最初から染めておきました」
なんということでしょう。そこには真っ赤に染まった上下のツナギが……まぁサラの言うことにはもっともなので……。
「それはぐうの音も出ないわね!」
っということで今日も今日とて治療所で真っ赤なツナギを来て治療所を開設している。領内・領外を問わず死にそうな怪我や病気をした人間をたくさん治した私は金銭的にはホクホクだ。
死亡する運命の人が今生きていることになるからもう千人単位で革命勢力の増強は出来たんじゃないかしら。
それから薄毛治療や美容のために来るお金持ちも増えた。他領の貴族まで来ることになって収入は結構な金額になったけれど……私はそれを使わずにしまっておくつもりはない。
まずは私ほどでもないが治癒魔法を使えるようになった3人は私と一緒に患者の治療をすることになったので先ほども言った通り大幅に給料がアップしている。貴族並みの生活が出来るくらい渡しているのだけれど、贅沢をしている様子はない。
この3人は本当に拾い物だったわね。もともと才能があったのかもしれない。彼女たちとはよく一緒にいるので戦闘の訓練を一緒にやったり、前世の話を聞かせたりしている。3人とも子供らしく前世のマンガやアニメや特撮ヒーローの話をしてあげると喜んでくれる。
なお、街との連絡役などは別の孤児や仕事の無い人なんかを雇うことにした。そこには先日闇商人(仮)の店に馬車を突っ込ませた二人もいる。鉱山行きより私の手足として働かせた方が便利だからね。
「この調子で病人を減らして、無職の人たちに仕事を与えていけば……死んじゃう人も減るかしらね」
農奴も開放したし、仕事にあぶれた人たちは私の畑で働いてもらって給料を払っている。死亡者は減り、私のための労働力は増え、順風満帆である。
そんなことを考えていたある日。
「ここか!聖女がいるという救護院は!」
そんな大声とともにスカズカと入ってきたのはカイゼル髭を生やした全身鎧を着た騎士風の男……。
そしてその後ろには複数の騎士と豪華な馬車。その馬車の扉には王家でのみ使われるという鷹の紋章が彫られていた。
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