第20話 悪役令嬢と猫
「猫に癒されたいわ」
「お嬢様がおかしいのはいつもですが、今度は突然なんですか」
私の作った朝食をサラと一緒に食べた後、私は唐突に思いついたのだ。『癒されたい』と。
もちろん力こそパワーと暴力こそバイオレンスに満ちた世界も悪役令嬢的にはありだけれどそれだけではつまらない。悪役令嬢にも癒しは必要なのだ……というか癒しを発見してしまったのだ。ついさっき。
「屋敷の中で猫を見かけたのよ。白と茶色と黒の入った猫よ」
「あぁ、私は毎日見かけていますね。おそらくアリーシアの飼い猫ですね」
アリーシアというのは使用人夫妻の子供の女の子だ。歳は私とそんなに離れていないはずだけれど、私を見かけると怖がって近づいてこないのでほとんど話をしたことは無い。
「そもそもなんでサラは毎日猫を見かけてるの?私はさっき初めて見たのに」
「……お嬢様は動物に嫌われているのではありませんか?だから見る機会がないのだと思います」
「そんなことあるはずないでしょう!あ、カラス!」
私は窓から手を伸ばすとカラスにウインドカッターをお見舞いして首ちょんぱした後、落下する前に火の魔法でカラスを灰にしてやった。
「まだカラスがこの辺りを飛んでるのね……それより猫よ、猫!名前はなんて言うのかしら?柔らかいのかしら?もふもふかしら?ネコスケって名前にするのはどうかしら」
「勝手に酷い名前をつけようとなされないでください。名前は確かミルという名前で呼ばれてましたね。ミルクが好きだからということでミル」
「へぇ……可愛い名前ね!あ、いたわ!」
窓から覗いた庭の中でミルが蝶々を追っかけていた。ヒラヒラと舞う蝶に一生懸命猫パンチをしながらじゃれついている。
「よーし、捕まえるわよ!そしてモフモフしてやるわ!」
「お嬢様!?」
サラには毎日のように見られているのに私から見つからないように逃げていたとは不敬よね。捕まえて思う存分モフモフしてやろうじゃない。
私は窓枠に足をかけると身体強化をかけてそのまま庭に降り立った。
「にゃっ!?」
ミルが私を見つけて驚くとともに庭の中から鳥が複数飛び立っていく。いや、鳥だけじゃなく虫なんかも庭から外へと飛び立っていったわね。
「あら?」
気が付くと先ほどまで鳥や虫の鳴などが聞こえていたのに静まり返る我が家の庭園。この静寂はどうしたのかしら。いや、それより今はそれよりやることがある。
「そんなことより猫よ、猫」
「ふぎゃー!」
ミルは私を見るなり全速力で走りだし入り口に停めてある馬車の下へと隠れてしまった。
「ちょっと!ミルー?るーるるーるるー?」
私は庭から猫じゃらしを引きちぎって馬車の下に差し出してみるけれど反応がない。なにこれ?もしかして私って猫に舐められているの?そういえば動物は序列を作るというわね。自分より序列下位の相手のいうことは聞かないっていうしもしかして私の順位が低かったりするのかしら。
だったら私の実力を見せつけないといけないわね!
「そっちが来ないならこっちからいくわよ」
こんな時には小さなこの体がありがたい。私は服が汚れるのも構わずに馬車の下へと潜り込んだ。しかし、そのとたんにミルはババっと砂を巻き上げてまた逃げてしまう。
「待ちなさい!」
私も馬車の下からずるずると出てくるとミルが屋敷の門から外へと飛び出していくのが見える。私から逃げ切るつもりらしい。
「待てー!」
私はミルを追いかけて野原を駆け回る。川を渡り、茂みを乗り越え、人々の間をするすると逃げ回っていく猫を追いかけて追いかけて……。
そして力尽きた。
「はぁ……はぁ……なんでよぉ……」
周りを見ると鳥や他の動物たちも私から逃げていくのが見える。
「お嬢様、お水です」
そんな中軽々と私を追いかけてきたサラからもらった水を飲み干すと……。
「アホー、アホー」
「うるさい!カラスめ!ウインドカッター!」
カラスが私を馬鹿にするように鳴いたので風の魔法でカラスをズタズタに引き裂き、その後燃え上がったそれは灰となって田畑へと降り注いだ。
「なんで私動物に嫌われているのかしら」
「さぁ、なんでしょうね」
サラに半目のままそんなことを言われた。
こうして私は猫に指一本触れることはできず、モフモフするという野望はここに潰えたのだった。
解せぬ。
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