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第18話 悪役令嬢とマナブレアの森

「ふふふっ……野菜が順調に育ってるわね。」


 カラスの駆除が終わり、もともと牧場だっただけあった土の質も悪くなく、私の農場の野菜は順調に育っていた。我がメアリ一家(ファミリー)の労働者たちは今日も元気に働いている。

 最初は素人っぽかったスラムの住人たちや孤児たちも農奴の人たちから道具の使い方や畝の作り方、水のまき方やその頻度などを教わりかなり形になってきた。もし野菜が出来た際には私の料理を食べさせてあげよう。


 私が前世の記憶を思い出してからもう1年が過ぎた。

 レボリューションのための準備は概ね順調といってもいいかもしれない。体も毎日鍛えているし、魔法の訓練も怠っていない。領内で死亡者が減っているので革命勢力も続々と増えているはずだ。私が本物の料理人になるのも近いだろう。


「でも野菜の種類がこれだけじゃね……」


 今日の私は治療所の客も少なかったので畑を見て回っていた。領内の死にそうな人はある程度治療しちゃったし、そうそう毎日たくさん人が治療所に来ることもなくなった。

 しかし今私には不満がある。この世界にある野菜の種類についてだ。前世で使っていた種類が手に入らず一部欠落しているというところにである。

 具体的にはトマトはあるがセロリはない。胡椒はあるが唐辛子はない。リンゴはあるが栗はないという感じで微妙に足りない。調べてみたが領内にもないし、それこそ他国にもないようなのだ。前世ではあった食材が!


「でもね……見つけちゃったのよね……。あれってどう見てもセロリよね……」


 私の見つめるのはマナブレアの森。その中にどう見てもセロリとしか思えない植物が見える。さらにその奥には栗の木のようなものも見える。なぜかどこを探してもなかった野菜が意外と近くにあったのだ。しかしそこは危険だと言われている森の中。


「これは行くしかないわよね!」


 幸い止めてきそうなサラは今日は用事を任せていて一緒にはいない。それにサラって肝心な時にちょっとポンコツ気味だから危険な場所には連れて行きたくないのよね。

 

「森に入って生きて戻ってきた人はいないって話だけど……」


 マナブレアの森に入ることはデズモンド領ではタブーとなっている。魔物が原因なのかそれともオカルト的な何かなのか、恐怖の象徴みたいになっているのだけど、魔物なら私の魔法で対処できるし、オカルト的なものなんて恐れるまでもない。

 死んだ人の呪いとかなんだとか何が怖いと言うのかしら。この世界で最も恐ろしい恐怖の象徴というのはこの私、『悪役令嬢メアリ・アン・デズモンド』のほかにあるはずがないって言うのに。


「さぁ、いざ採取よ!」


 私は大きな籠を持って森の入り口へ突撃した。さっと籠を下すと目的を順番に探して回る。


「さっそくここにセロリ発見!おおっ!唐辛子もあったー!やったわ!」


 慎重に土を掘り起こして根っこごと籠に入れる。そのまま持って帰って食材にして料理しちゃいたいけど。まずは数を増やさないとね。根っごとどこかえ植え替えて栽培して見よう。栗の木はどうしようかな。


「うーん……そんなのこのまま持っていくしかないわよね」


 自問自答するが答えは決まっている。いちいちここまで採取に来てられないし、数を増やすなら持って帰るのが一番だ。私はシャベルを取り出すと根っこを掘り起こし始めた。


「結構立派な木ねー」


 桃栗三年柿八年というけど、栗はいろいろ使えるわね。多分料理長も見たことがないから扱ったことがないんじゃないかしら。料理長には近々料理勝負を挑みたいと思っているのだ。

 でも私の考えているレシピに必要な材料が足りなくてまだ挑んでなかったのよね。


「んしょ、んしょ」


 身体強化を使ってスコップでザクザクと土を掘っていく。そろそろ堀り上がりそうね。栗があればマロンクリームも作れるし、ご飯と一緒に炊いてもいいし、栗きんとんなんかにしてもいいわね。夢が広がるわ。

 やがて根っこが堀上がって木が横倒しになった───その時。


ガサガサガサ


「……!?」


 背後の草むらで物音がした。草をかき分けるような音だ。ちらりと影が見える。熊のようなシルエット……大きいわね。魔物かしら?魔物ね?だったら先手必勝!


「ウインドカ……」

「ちょ、ちょちょちょ!待て!お嬢!」


 草の中から現れたのは『黄昏の旅団』の隊長ハウエルだった。でっかいから熊かと思った。寸でのところで魔法の発動を中止する。


「あら、ハウエルじゃない?どうしたの?」

「どうしたのはこっちだっての!急にいなくなってガキどもが心配してるぞ!」


 そういえば治療所の手伝いをしてもらってる子たちには森に行くとは言ってなかったわね。いつの間にか日が傾いているし、結構な時間の休憩時間になってしまったようだ。


「つーか、マナブレアの森に入ろうすんなよ!正気か!?入り口のこの辺りでさえ寒気が止まらねえぞ!」

「寒気なんて感じないけど……え?ここって森の中じゃないの?」

「まだ境界ギリギリってところだと思うが、心配させんじゃねえよ!」

「いたっ!」


 頭に拳骨を落とされた。なぜだろう。心配ってどういうこと?ああ、傭兵団には家賃とかいろいろ払っているからお金の心配かな。それなら納得だ。私になにかあったら収入がなくなってしまうよね。


「それよりこれを運ぶの手伝って。運賃は払うから」

「はぁ!?ちょっ、まてよ」


 こうして私はこの世界になかった前世の食材を手に入れたのだった。でもなんでこの森の中にあったのだろう。やっぱりこの世界は前世をもとにして作られているのだろうか。もしそうだとしたらこの場所はゲーム世界で使われなかったバグ置き場のようなものなのかもしれない。

 ここはこの世ならざる者の森(マナブレアの森)と言われているのだから。


お読みいただきありがとうございます。

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