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第16話 悪役令嬢と奴隷解放

「いっちにー、さんしー」


 私は自室のベッドの上で準備体操をしている。汚れたり破れたりしてもいいように着ているのはドレスではなく、布の服だ。オーダーメイドのドレスとか高いからね。血だらけにしたり破いたりするのはさすがの私ももったいないと思う。それに比べて量産品は素晴らしい。


「ふふふふっ、ついに来たわねこの時が!」


 サラは今、別の用事で離れているのでこの部屋の中には私一人きりだ。そして目の前には黄金の輝きが満ち溢れている。

 ベッドの部屋の床一面に金貨が山となって積まれているのだ……というか私が自分で部屋の中にぶちまけたんだけどね。


「メアリ・アン・デズモンド、いっきまーす!」


 私はベッドから金貨の山へとダイブする。チャリンチャリンという心地よい音色とともに金貨が飛び散った。


「あはははははははははは!」


 私は金貨の海の中を縦横無尽に転げまわる。両手に金貨を握りしめながら両目にも1枚ずつ金貨をはめ込んでみたりする。金貨で目の前が見えないがそんなことは関係ない。金貨だよ、金貨の山だよ。


「あはははははははははははは、わーい!わーい!」

「……お嬢様?頭大丈夫ですか?」


 ゴロンゴロンと金貨の山の中を一人で転げまわって楽しんでいたところ、いつの間にか部屋の扉が開いていて、そこにサラが立っていた。時間を忘れて金貨のプールを楽しんでいたのだけど、その間にサラの用事は終わったらしい。


「頭を打ったりしてないから平気よ」

「頭の中身の話をしているのですが……というか何をなさっているのですか」

「何って見てのとおりよ。金貨の中を転げまわっていたの」

「……なぜそのようなことをなさっていたのです?」


 まずそこから説明しないといけないのか。今の自分の状況を冷静に見てみる。そこら中に金貨が飛び散った部屋。その中で髪や服の中にまで金貨が入り込んでいる私。うん、確かに説明しないと分からないかもしれない。


「この間の晩餐会でお父様とお母様が貴族たちに私の治療所のことを宣伝してくれたじゃない?」

「はい、発毛や美容にまで効果があるということで話題になっておりましたね」

「その後で貴族たちが治療所に押しかけてきたじゃない?」

「はい、治療費が財産の1割と聞いてびっくりされていましたね」

「でも結局支払ったじゃない?」

「渋っていたのに脅し取ったとも言えますね。まぁ、結果満足しておられましたが……」

「貴族の財産の1割ってすごい金額じゃない?それで大金が入ったし、使っちゃう前に一度やってみたかったこれをやっておこうと思ったのよ!」

「それが金貨の海を泳ぐことですか」

「サラには分からない?溢れるくらいのお金の中を転げまわりたいっていう中二的な心はないの?良かったらサラも一緒にやってもいいのよ?」

「はぁ……お嬢様は何をおっしゃっているのだか……」


 サラはため息をつくと……。


「そんな心、分かるに決まっているではございませんか。控えめに言って大好物でございます」

「じゃあ、一緒にやろ」

「はい」


 サラも私と同じように床に寝転がるとゴロンゴロンと金貨の中を転げだした。


「あははははははははは」

「……」


 私が楽しくて両手両足を投げ出して歓喜の声を上げているのとは対象的にサラは無表情で直立のままゴロンゴロンと転げまわっている。その度に金貨が飛び散り音がチャリチャリとなって非常に楽しい。


「あははははははははは」

「……」


 お金で遊ぶなとかそんなことを言う人間はここには一人もいない。今遊んでいるこのお金ももうすぐ使う予定があるから今だけ、これがやれるのは今だけなんだからやらない理由はない。


「お嬢様、お金を使う予定とおっしゃりましたが何に使われるのですか」

「え?前に言ったじゃない。奴隷を解放するのよ」

「あれは……本当のことだったのですか?」

「私は嘘をついたことなんてないし、これからも嘘をつく必要もないのよ!有言実行にきまってるでしょ……うわっ!」


 サラが私に抱きついてそのまま金貨の中を転がりだした。なに?二人で一緒にやる技かしら?よーし、それなら。


「あははははははは」


 私もさらに抱き着いて右へ左へと二人重なって回転を変えて金貨の中を転げまわる。

 その後、私とサラはその後満足するまで金貨の中を転げまわったり、ベッドの上からダイブしたり、金貨をお互いにかけあったりとした。

 そして最後にその場をメイド長に見つかるというオチが付いてその日は終了した。







「お父さま!お母さま!」

「おお、マリー。よく来たね」

「私の可愛いマリー、私にもハグをさせて」


 今日は珍しくお父さまとお母さまが家にいる日、いつものように私は両親にもみくちゃにされていた。

 正直言って両親は私に甘い。甘すぎると言うくらいだ。歳をいってからできた子供ということを差し引いても甘すぎる。


 でもこれから私が両親にするお願いはそんな甘すぎる両親でも『うん』と言うかどうか不明な案件だ。きちんと説明しなきゃいけない。


「お父様、お母様。一つご報告したい件がありますわ」


 私の普段と違う口調にサラがジト目を向けてくるわね。こう見ても私はTPOをわきまえているのよ。周りに合わせると言う意味ではなく、私が私に合わせるという意味で。

 私はお父様もお母様も強いし、尊敬しているし、大好きなんだから失礼な態度なんて取ろうとも思わないに決まっている。私は淑女教育だってしっかり受けているのよ、貴族たちの前でその成果を出そうとは思わないだけでね。

 しようとするつもりのない『出来ない』と本当に知識がない『出来ない』は全然違うのよ。だから私は私が本当に敬語を使いたい相手にだけ敬語を使う。


「なんだいマリー?何でも言ってごらん」

「私の昨年度の収入について税金をお支払いしますわ」


 私は収納魔法『大口』を発動させるとサラに裂け目を押さえてもらって中から革袋を取り出す。一つ、二つと取り出されている革袋で机の上は埋まってしまい、床にまで置いていくとその中身を二人に見せた。


「マリー……こんなにお金を稼いだのかい?」

「お父様とお母様が私の治療所の宣伝をしていただいたおかげですわ」


 それは本当のことだ。二人が治療の成果を直に見せ、宣伝してくれたおかげで貴族たちからぼったくることが出来たからこその金額である。


「まだ6歳だっていうのにうちの子は天才ね!でもあなたが税金なんて払う必要があるのかしら?」

「そうだね。私の可愛いマリーから税金なんて取ることは出来ないよ。これは自分のために使いなさい」


 予想通りお父様とお母様は受け取ろうとしないけれど、そういうわけにはいかない。今日の奴隷解放というミッションを成功させるためにはこのお金を受け取ってもらわなければならないからだ。


「それはいけませんわ、お父様、お母様。私たちは領民たちの税金を受け取って生活しているのです。私が娘だからと税金をなしなんかにしたら領民たちに示しが付きませんわ!」

「それはそうだが……しかし……なぁ?」

「そうねぇ……どうしようかしら」


 困った表情を浮かべているお父様とお母様。ここが勝負だ。


「でしたら私から税金を納める代わりにお願いを聞いてくださいますか?」

「おおっ!マリーのお願いならなんだって聞いてあげるさ」

「なんでも言ってちょうだい。それこそあなたのためならあの有名な『淑女の涙』だって手に入れて見せるわよ」


 『淑女の涙』って何だろう。魔物の素材か何かかしら。『人魚の涙』的なもの?まぁ今はそんなことはどうでもいいか。


「ありがとうございます、お父様、お母様。では私のお願いを聞いてくださるかしら。私の願いは『奴隷を解放してほしい』ですわ」

「……奴隷解放?」

「ええ、私聞きましたの。奴隷……特に農奴などはその過酷な労働のせいでほとんどの人が30歳までさえ生きることが出来ないと」

「まぁ……」


 お母様が驚いた顔をしているということは知らなかったのだろう。お父様もお母様も騎士団とはよく一緒に魔物狩りをしているが農民との接点はあまりない。農奴などはなおさら接点がなく、知らなくてもおかしくはないだろう。


「例えばその人が60歳まで生きることが出来ればそれまでの倍以上の時間を働くことができるのです。そうなればもっともっとデズモンド領は豊かになります。人が一人生まれ、そして育って働けるまでにはとても時間がかかるのです。ですから大農家から奴隷を解放することでデズモンド領をもっと豊かにしましょう。そのためにも農奴を開放して仕事に見合った最低賃金を払うことを義務とするべきだと思うのです」

「ほぉ……」


 お母様が感心したようにため息を吐きました。もしかしてうちの良心ちょろい?。


「30まで生きられないなんて酷いわね……でもそれだと大農家の方が文句を言わないかしら?安い労働力がとられるわけでしょう?不利益になるわよね」

「うちの娘の考えたことに逆らうとは許せんな。よし、2、3人見せしめに処刑しよう」

「ちょっと待ってください!」


 お母様の優しい言葉にお父様が即決即断しようとするが、領民が殺されちゃうのはちょっと困る。主にレボリューション人員的な問題で。

 悪役令嬢的にはお父様の暴虐ぶりに賛同したくはあるけれどね。


「『過って改めざる、これを過ちと言う』と言うではありませんか。例え間違ったことをしていたとしてもこれから改善すればいいのです」

「おお、マリーは小さいのに難しい言葉を知っているのだな」


 孔子が言ったとされる言葉だ。本当に言ったかどうかしらないけれどね。

 孔子の言葉は焚書坑儒で焼かれたとされているが、孔子も自分の言葉が遺されるように敵対派閥の焚書を行ったとされている。歴史は生き残った者が都合の良いように残すもの。

 まぁこの世界に孔子なんていないんだけどね。ここがゲーム世界なのか何なのかは分からないけれど前世のことわざはなぜかは使えるのよね。

 

「言うことを聞かない農家にはメアリ一家(ファミリー)で対処させていただきますわ。ある程度の損害への補償も必要でしょう。だからこの税金はそれらの対策に使ってください。それに農家から農奴が解雇されてしまった場合はこちらで引き受けるつもりです」

「メアリファミリー?」

「マリー?その『メアリファミリー』というのはなんだい?」


 あら?お父様とお母様が意外なところに食いついて来た。農家とか農奴とか今はそっちのほうが重要な話でしょう。


「私の一家……つまり私の私による私のための組織です。会員ナンバー1はここにいるサラですわ」


 おおっ、サラがお父様とお母様に胸を張ってドヤ顔を晒している。領民の多くから恐れられている両親を相手にすごい度胸だわ。


「なんだいそれは!?私は!私は会員ではないのか!?」

「そうよマリー!なんで私たちはメアリファミリーじゃないの!?」


 もはや二人とも奴隷のことではなくメアリーファミリーのほうに食いついてきている。おかしいな。農奴のことはもういいのだろうか。


「お父様とお母様は元々家族なのですからそれ以上の関係ではありませんか」

「そうか?確かにそうだな。ならいいかな?でも会員にしてくれてもいいんだよ?」

「そうね、ところでそのメアリファミリーのことをもっと教えてちょうだい。誰がメンバーなの?どんなことをしてるの?会費はいくら払えばいいのかしら」


 その後、お父様とお母様の質問攻めにあったものの、農奴解放の話は了承されるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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