第14話 悪役令嬢と晩餐会①
「サラ、晩餐会に潜入するわよ!」
「また今日も阿呆なことを……」
料理を初めて数か月。
私は前世の記憶にある様々な料理を作った。チャーハンにオムライス、ステーキやハンバーグ、煮物焼き物、野菜料理など料理の腕を思い出すために作り続け、サラと一緒に味見を続けた結果……。
思い知らされたのはうちの料理長アレクシスの腕の異常さだった。
お金が入って来たので街の有名な料理屋なんかにも食べに行ってみたのだけど、はっきり言って美味しくない。前世の庶民向けチェーン店の料理の方がまだおいしいような店ばかりであり、味の追及も、技術の研鑽も足りていないように感じた。
さらに街で売っている食材についても疑問だらけだった。
この世界が前世でのゲームの世界だからなのかどうなのかは分からないけれど、街で売られている食材は前世とほとんど変わらない。牛や豚や鶏もいるし、玉ねぎやジャガイモなんかも売っている。
でも前世にはあったのに売っていないものもたくさんあった。栗はどこを探してもなかったし、セロリもパセリもなかった。あって当たり前のものの1部が欠けているという感じだ。そんな風に手に入らない食材があるので私の前世の知識でのレシピもなかなか完成しない。
だというのにうちの料理長は今ある食材だけで実に見事な料理を完成させている。毎日毎日飽きさせないように優しい味わいの料理を作り続けるところは尊敬に値する、女を調理場に入れないってことを除いてはね!
だけどそんな毎日食べていた料理でさえ料理長の渾身の一品ではないと思うのだ。
「私は料理長の特別な一皿が食べたいのよ」
「それでしたら頼んで作ってもらえばよろしいではございませんか」
「好敵手にそんなこと言うは悔しいじゃない!でも晩餐会だったら特別な一皿を出すはずでしょう!」
「はぁ……でしたら普通に晩餐会に参加されてはいかがですか?今度の晩餐会は近隣の貴族たちがデズモンド家へ集まる大規模なものと聞いております。お嬢様も他の貴族の貴婦人方に顔を売る良い機会なのではないですか?」
「それこそ『何を阿呆なことを』よ。私は将来貴族じゃなくって料理人になるのだから顔を売る必要なんてないでしょう。それに私が貴族の頭お花畑な会話に耐えられると思うの?」
「お嬢様も一応は貴族としてのマナーや教育は受けておられますよね?」
サラの言う通り忙しい時間の合間をぬって貴族としての教育は受けている。むしろ前世の知識がある分年齢のわりにはマナーは完璧と言ってもいいと思えるくらいには。でも……。
「私は貴族のマナーが『出来ない』のが嫌だから身に付けてるだけよ。マナーを守るとはいっていないわ」
ルールを知らないのとルールを無視するのは全く違う。ルールを知らないのはただの愚か者だが、ルールを知ったうえであえて縛られらないのが無法者や反逆者だ。私は愚か者ではないので後者である。
「それではどうすると?」
「私にいい考えがあるの」
「お嬢様がその考えの末に大失敗するのが目に見えるような前ふりでございますね」
「失敗フラグみたいに言わないでよ!いい?私はデズモンド家の令嬢として参加するつもりなんてないけれど、かといって部外者として潜入したら会場から追い出されちゃうじゃない?だからね……私は給仕のメイドの一人として参加して料理を盗み食いしようと思うの!」
「もはやどこから突っ込んでいいのか分からないほどガバガバな考えですが本当にやるのですか?」
「もちろんよ!」
「でしたら衣装などは私の方でご用意しておきますが出来るだけ流血は避けていただくようにお願いいたします」
「既に流血沙汰になる前提で話を勧めないでほしいわね。さぁ、サラ!いざ晩餐会よ!」
私は料理長の本気料理を目指して拳を突き上げるのだった。
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