第13話 悪役令嬢と初めての料理
「ついに完成したわね……。素晴らしいわ」
「これを歴代の領主様が見られたら涙を流すのではないですか?」
「嬉しくて?」
「控えめに言って子孫の余りの残念さに号泣するのではないですか?」
ノックスに調理器具一式の制作を依頼して1か月。
領主の館の一室、まぁ私の部屋なんだけど……そこの壁に四角形の大穴が開いていた。穴には木の枠がはめ込まれており、その中心には丸い球が設置されている。さらに球の周りには扇状の木製プロペラが取り付けられていた。
「さぁ、いよいよね……。いくわよ!」
私は手から魔力を丸い球に送る。この丸い球は先日借金取りのチンピラのあそこに投げつけたものだ。魔力を受けると回転する特性があるということなので有効利用しているというわけである。
フィーンという軽快な回転音とともに室内の空気が外へと流れていく。
「やった……やったわ!換気扇よ!ねぇ、サラ換気扇が出来上がったのよ!」
「お嬢様の寝室のすぐ近くの壁にこんな穴を開けて何をしたいかと思いましたが、何ですか?これ」
「室内で料理したら油とか煤とかで壁とかベッドとかが汚れちゃうでしょ。これがあれば料理の煙とかはみんな外に出ていくから汚れないし、料理に変な香りが付いちゃうのも防げるのよ!すごいでしょう!」
「煙突みたいなものですか?しかし……本当にここで料理をする気なのですか。しかも歴史あるお屋敷の壁に穴を開けて……」
既に換気扇の下にはキッチンも出来上がっている。ノックスには結構な工賃を払うことになってしまったけれど、私は大満足だ。
ガスコンロは作れなかったけれど似たようなものは作ってもらうことが出来た。ガスの代わりに使うのは私の魔力だ。
魔法で火を起こした際にその火力を細かく調整できるようにツマミを回すことで火が飛び出る穴の大きさが変更できるコンロにしてもらったのだ。
(炎よ!)
「ほらっ、こうやってツマミを左に回すと穴が塞がって火が消えるし、右に回すと穴が広がって火力が上がる。コンロと同じようにしたのよ」
「それって火の魔法が使える人にしか使えませんよね」
「私専用だからこれでいいのよ。それに見てよ、この調理器具の数々を!」
私は自慢するようにキッチンの下の棚を開く。そこには各種包丁や鍋や釜、泡だて器にボール等、料理に必要な道具が詰まっていた。ちなみに全部ノックスに作ってもらったものだ。
「ほら、こうやって包丁を私の腰に差しておくための鞘とベルトも作ったのよ」
「お嬢様のその短い脚ではどう見ても調理台に届かないのではないですか?」
「それはね……よいしょっと。これを使うのよ」
私は階段状になった踏み台を引っ張り出してくる。これは街の道具屋で売っていた普通の踏み台だ。
「そこまでして料理がしたいお嬢様の執念に脱帽でございます」
「そんなに褒めなくてもいいわよ」
「決して褒めているつもりはございません」
「それより早速料理したいわ。サラ、食材取り出して」
私は『大口』を開くとサラに中から街で買ってきた食材を取り出してもらう。この中に入れておくと時間が止まっているのか食材が腐らないからすごく便利なのよね。我ながらすごい魔法を作り出したものだ。
「これは……初めて見る食材でございますが何ですか?」
「それはお米よ。うちの領地というかこの国では作ってないから輸入品ですっごく高くて在庫も今『大口』に入ってる分しかないけどまずは作りなれたものを作りたいからね」
「作りなれた?お嬢様は料理するのが初めてなのではないですか?」
「前世で私は料理人だったって言ったでしょ」
私が用意した材料はお米、玉ねぎ、鳥ガラ、卵、塩、コショウとシンプルなものだ。
まずは鳥ガラをたっぷりのお湯を入れた鍋で煮込んでいく。左手で炎の魔法を使って鍋を熱しながら、左手で換気扇へと魔力を送る。
「これは……結構難しいわね……」
でも火と風、二つ同時に魔法を発動しないと料理は出来ないので頑張るしかない。
そうしてじっくりと煮込んで出来た鳥ガラスープを別の鍋に入れて保存する。
ブイヨンとかコンソメなんかの粉末状の出汁をそのまま使えた前世と違って1から作るのはなかなか大変だ。そのうち大量に作っておいて保存しておこう。
「次はお米を炊いてっと」
研いだお米を入れた土鍋に先ほどの鳥ガラスープを入れて炊いていく。換気扇とコンロに魔力を使い続けているからAPがどんどん減っていくのが分かる。だけど負けるものか。これは私がこの世界で初めて作る料理なんだから。
「お米が炊けたから次は……」
棚から鉄鍋を取り出す。俗に言う中華鍋と呼ばれるものだ。私の体が小さいからかかなり大きく見えるわね。それに重い……。
鉄鍋に油と刻んだ玉ねぎを投入。塩コショウで味付けをして十分いたまったら卵を投入。卵が固まる前に先ほど炊いたお米も投入して火力をアップ!
鉄鍋が重くて振れなくなってきた……。まだまだ体力不足ね……仕方がないので身体強化魔法を体に使う。これで魔法3つの同時起動になったからか頭がふらふらしてきた。
「まだよ!まだ振れるわ!」
私が今作ろうとしているのは黄金チャーハンだ。鳥ガラの出汁をたっぷり含んだお米を玉ねぎと卵のみでシンプルに包み込み、油で炒めるという料理だが、この油で炒めるというところが料理人の腕の見せ所だ。
鉄板で炒めるだけでなく、食材を鉄鍋の湾曲を利用して空中へと返し、そこで炎に潜らせるのだ。直接炎にあぶられることによって水分を飛ばしてパリッと仕上げるチャーハンは鍋振りの修行にうって付けなので良く練習していた。
私の前世の腕が鈍っていないかの確認もある。
私は炎を噴き上げ、風を起こし、身体強化を駆使して鉄鍋を振る、振る、振る!何だか眩暈が酷くなってきたけど、まだまだ振る。
「お嬢様、ふらついておりますが大丈夫ですか?」
「サラ、お皿を用意して……」
「はい」
私は鉄鍋を置くとお玉でチャーハンをすくうとお皿をお玉に乗せてくるりと回してお皿に被せる。やっぱりチャーハンはこの形よね。
半円形となり皿に盛られた黄金色のチャーハンに満足しつつ、薬味のきざみネギをパラりと乗せてお皿をテーブルへと置いた。
「サラ……熱いうちに食べ……て……」
バターン!
そこでついに私のAPは尽きていつものように床に顔から突っ込むことになるのだった。
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