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第12話 悪役令嬢とつぶれかけの魔道具店

「サラ!料理がしたいわ!」

「はぁ……また突然になんでございますか。お嬢様」


 いつものように自室で叫んだ私にサラが呆れたようにため息を付いている。たまには私の気持ちを察してくれてもいいのにサラは分かってないわね。仕方ないので説明してあげることにしよう。


「私が世界一の料理人になるって話は覚えてる?」

「ええ、私はお嬢様と違って記憶力はいいので良く覚えておりますよ」

「あの時はお金がなくて食材も道具も買えなかったけれど……今は買えるのよ、買えちゃうのよ!」


 治療所は革命勢力側の人たちが死んで減ってしまうのを防ぐために作ったのだけれど、デズモンド領には明日の生活をも知れぬ貧しい人々だけがいるというわけではない。

 連日訪れてくる患者たちの一部には金持ちもおり、当然金持ちから財産の1割を貰えばお金が増えるわけで私はちょっとどころかかなりの大金を手に入れているのだ。いわゆる小金持ちと言ったところであろうか。


「そのお金は人々を救うために使われるのではないですか?」

「私がそんなことのためにお金を使うはずないでしょ!料理よ!私は料理がしたいの!」


 サラは何を勘違いしているのかしら。

 治癒魔法を使うのも革命を目指すのもすべて料理をするため、私が料理人になるためにしていることじゃない。私は一言も誰かを助けるために行動しているなんて言ってはいない。


「お嬢様の言われるレボリューションとやらはよろしいのですか?他にも色々とやることがあるのでは?料理などあの料理長にでもやらせておけばよろしいのでは?時間がもったいなくありませんか?」

「料理は料理で大切でしょう!私はあの料理長の揚げパンを超えないといけないのだから!」


 揚げパンに限らず料理長のアレクの作る料理は今の私には太刀打ちできないものばかり。至高とも言える美味しさなのだ。

 ぐぬぬ……ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかない!私はもっと前に進まなければ!そのために料理をしなければ!




♦️




「そういうわけだからで調理場を貸しなさい!あと食材もね!」

「なにがそういうことだ!」

「私の部屋じゃ(かまど)もないし、換気も出来ないのよ!分かるでしょう!」

「分からん!断る!!」


 善は急げと屋敷の調理場に向かい、料理長のアレクに直談判したが即座に却下されてしまった。この私を相手に交渉の余地もなく真っ向から断ってくるとはいい度胸をしている。


「なんでよ!!食材のお金はちゃんと返すし、なんなら調理場の使用料を払ってもいいわよ!」


 そう、今の私は今小金持ち。お金が欲しいというのなら金貨の10枚や20枚料理の為ならば惜しくない。もしかしたら料理長たちは食材や調味料の費用なんかが限られてるかもしれないからね。それを切り詰めてまで使わせろというほど私は鬼ではない。


「金の問題じゃねえ!調理場に女子供を入れられるか!ここは男の職場なんだよ!」

「なんで……すって……」


 アレクの言葉に私は一瞬言葉を失う。え?なんて言った?

 

 男の職場?女子供を入れられない?


 私の脳裏に前世の記憶が蘇る。

 






 前世の私の実家は料理屋だった。なかなかに流行っている料理屋で中学校を出た私は実家の料理屋を継ぎたいと思っていた。

 自分で料理の勉強もしたし、いろいろと実際に作っては家庭でふるまっていた。しかし父は店で女に絶対に包丁を握らせようとはしなかった。もちろん私が料理屋を継ぐなんてできるはずもなかった。


 それに怒った前世の私は家を出て料理店で働こうとしたが……現実は非情であった。どこに行っても女だからと断られたり馬鹿にされたりした。

 いまだに残る料理界の男尊女卑というものだろう。


 まぁ、前世のその後私が働くことになった店は失敗すれば殴られるという意味で料理長が物理的に男女平等だったからそんなことはなかったけれどね。



 とにかく女の料理人を認めないとか!女は家庭を守っていればいいとか、世間で許しても私が絶対に許さん!その想いは今も前世も変わらない。


「料理長……いえ、アレク!あなたはすごい料理人だと思っていたけど……女を差別するなんて最低ね!あなたなんかもう大嫌い!!いくわよ、サラ!」


 料理人として尊敬していたのに!

 こんな男尊女卑の最低男だったなんて思わなかった!いつまでもこんなのの相手にしているわけにはいかない。私はさっさとその場を離れると……何か後ろで崩れ落ちるような音がした。


「なんの音かしら?」

「……ざまぁでございますね」

「サラ、何か言った?」

「いえ、なんでもございません。それでどちらに行かれるのですか?」

「ここで料理道具が使えないなら道具を買いに行くしかないでしょう。街に出るわよ!」




♦️




 やって来ました城下町である始まりの町セレノア。

 といっても家である城から10キロ以上離れてるから城下町と言っていいかどうか微妙なところだけれど。


「それで何を買われるのですか?」

「そうね。まずは料理人の命とも言える包丁が欲しいわね。良い研ぎ石も買わないといけないし、まな板や鍋やフライパンにそれから……」


 あらあら、何だか楽しくなってきたわ。

 前世のことは他人のことにしか思えないので、これからするのが生まれて初めての料理ということになる。

 新しい調理器具に新鮮な食材!それらを使って料理をする!ワクワクしてきた!

 見てなさいよ料理長!女の私があなたを超えていくところを!


 決意を新たに商店街のある繁華街を見て回ると……。相変わらずじろじろ見られるわね……。前と違って今は動きやすい布の服なのにどうしてなのかしら。

 そんなことを思いながらお店を探していると1つの建物が目に入った。

 年期の入った家構え。薄暗い店内には金物がたくさんあるように見える。ただ見た目は薄暗いもののよく見ると意外と清潔そうではある。


「あれは金物屋かしら?」

「雑貨屋かもしれませんね」


 狭い店内に所狭しと物が置いてあるようだけれど、別に雑貨屋でも金物屋でもどちらにしろ調理器具が置いてあるかもしれない。良い包丁が手に入ればどっちでもいいわね。まずは物を見てからだ。


「ごきげんよう!」


 元気よく挨拶をしてお店に入ると暗い店内には見たこともないものばかりが並んでいた。

 棒の先に赤い石が嵌め込まれている道具、先が割れた大きな銃器のような道具、魔方陣っぽい模様のかかれた布等々。


「あら……?でもこれはどこかで見たことがあるような……」

「ひっ……ひひっ……い、い、いらっしゃい」


 店の奥からどもりながら声をかけてきたのは長い黒髪の男だった。いや、女かな?甲高い声なのでどちらとも判断がつかない。 

 長い前髪でその片目は覆われてしまっているけど年齢は若い……のかしら。年齢不詳だ

 それより気になるのは……。


「これってもしかしてマップ兵器的な武器じゃないの?」


 そう、まるで大根でも置くように店の隅にポンと立てかけてあったのは前世でやっていたこの世界を舞台にしたゲームで見た気がする道具の見た目に似たものだった。


 DLCダウンロードコンテンツで闇商人が売っていた武器に酷似している。長い銃身の先に光る宝石のようなものが付けられている形状はゲームの武器購入画面で見たものだ。


「そ、そ、それ……は……。ひひっ……。金貨5000枚だよ」

「高っかいわね!!」


 いや、確かゲームでもそれくらいの値段だった気がするけれど国家予算レベルでお金が使えるゲームと現実はさすがに違う。金貨5000枚はさすがに今買える金額ではない。

 でもこれを売っているということは……


「もしかしてあなた闇商人のレネー・ノックス?」

「や、や……闇って何?ぼぼぼ僕はノックスだけど」


 あれ?闇商人はやってないかしら。ゲームでは戦場で武器の密売を行う顔の見えない黒いローブを着たキャラクターだったのだけれど。おかしいわね。


「まぁいいわ!でもあれ!あの棒状の金貨5000枚のやつとかってすごい武器じゃないの?人も動物も巻き込んで殺しちゃったりできる」

「ち、違うよ。あ、あれはただ地面の凸凹を平らにしたりする道具だよ」

「え……そうなの?そんなものなにに使うの?」

「さ、さぁ?僕は作りたいものを作ってるだけだから……」


 他の道具についても聞いてみたが要領を得ない。どうにも実用性のありそうな道具が見当たらないような気がするというか……本人の言うように作ることが目的で実用性は考えてないみたいだ。趣味の店っぽい。


「この中二病っぽい魔方陣が書かれた布はなに?」

「そ、それはね。魔石を糸状にして編み上げてみたんだ。魔力を込めると使えるよ」


 私が試しに魔力を込めると少し発光したが何も起きない。


「これどうやって使うの?」

「そ、それはね。周りから受けた波を保存できるんだ」

「波を保存?どういうこと?」

「この世界のすべては波で出来てるからね……そ、それで例えば声とか保存できるよ」

「そうなの?おーほっほっほ!」


 試しに魔力を込めて私の高笑いを保存してみた。うん、珍しく普通に高笑いが出来た。そしてもう一度布に魔力を通してみると……。


『おーほっほっほ』

「……」


 うーん。いらないかなぁ……。

 歌を録音しておこうとか思わなくもないけどこの世界の楽曲とか今のところ何も知らないし、戦闘でも使えそうもないので他の物を見てみることにする。


「この野球の球みたいなものは何?」

「やきうって何?そ、それはね……こうして魔力を込めると回るんだよ。金貨100枚だよ」

「こっちの手袋みたいなやつは?」

「それは……こうして持ったものにマーキングして離れたところから引き寄せられるんだよ。金貨300枚だよ」

「何に使うの?」

「さ、さぁ?使いたい人が使いたいように使ってもらえばいいかなって……」


 うーん……テレビのリモコンとかを引っ張ったりするのには利用すれば前世では使えたかも知れないけれど今のところ使い道は思いつかない。


 よく分からないけれどまだ今の時期のノックスは兵器開発をしていないってことなのかしら。

 どうしたものかと考えていると……馬の嘶きとともに表から馬車が向かってくるのが見えた。止まる気配が……ない!


「サラ!ノックス!」


 瞬間的に身体強化を使って二人の服を引っ張り一緒にお店の角へと倒れこんだ。


 ガシャーン!


 物の割れる音と何かの崩れる音が鳴り響いた。店の中に馬車が突っ込み、めちゃくちゃになっている。

 私が気づかなかったら二人も巻き添えになっていたかもしれない。


「あーーーーーー!!」


 マップ兵器……じゃないけど将来マップ兵器になったかもしれない道具も見事に2つに折れて宝石も割れてしまっているじゃない!近くで無事なのは手元にある変なボールと変な手袋くらいだ。


「よぉ、ノックス。金はできたか?」

「おいおい、酷でぇあり様だな。ぎゃはははは」


 下卑た笑いをあげながら二人の男が歩いてくる。ひょろ長い痩せぎすの男と小太りのチビだ。その高圧的な態度から見るに堅気の人間ではないのだろう。


「死んでないよなぁ、ノックス。金を払わないとこんな不幸な事故で死んじまうかもしれねえぞ?」

「うっ、ううっ……」


 ノックスはというと部屋の隅で震えている……がその目は怒りに燃えているように見える。さすが闇商人、怯えている割にはなかなかいい目をするわね、こいつ。


「ぼ、ぼ、僕の店になんでこんなことを……」

「あ?俺たちがやったつうのか?馬がやったんだろ?馬が勝手に。俺は知らねえなぁ。それよりノックスさんよぉ、さっさと金を返してくれねえかな?いつまで待たせん……ぎゃあああああああああ!?」

「あ、兄貴!?ぐああああ」

「よくも私の革命兵器を壊してくれたわね!ぶん殴るわよ!!」


 私は身体強化をしてひょろと小太りの二人を殴り飛ばすと崩れた入り口から表へと飛び出した。


「も、もう殴ってんじゃねえか!ていうかあんた誰だよ!」

「ごきげんよう。私はメアリ・アン・デズモンドよ。この私に喧嘩を売るなんて小物にしてはいい度胸ね」

「誰が小物だ!このガキ!これは俺らとノックスの借金の話だ。関係ないガキが出しゃばってくるんじゃねえよ」


 どうやらノックスには借金があるらしい。確かにそれは返さないといけない。借金取りが借金を取り返しに来る。当り前よね。そこだけは認めてあげるわ。


「ノックス、あなた借金があるの?いくらくらい?」

「き、金貨400枚」


 日本円にして4000万とは結構な額を借金している。何にそんなに使ったのかしら。豪遊するような遊び好きには見えないのだけれど……。


「そうね……じゃあ、私がこの変な手袋と変な球を買ってあげる。これで合わせて金貨400枚ね。『大口(ビッグマウス)』!サラ、ちょっと持っててね』

「かしこまりました」


 私は『大口』の魔法を発動させて次元の裂け目から金貨を取り出すと借金取りに投げつけてやる。


「これで借金は無くなったわね。次はあんたたちの番よ」

「はぁ!?金はともかく……お、俺らの番ってなんだよ?」

「お店に馬車を突っ込ませた損害を払ってもらわないとね!ええ!私の!私の大事な兵器を台無しにした損害を!!」

「まだお嬢様のものではございませんよ」

「お金が貯まったら買うつもりだったのだからもう私のものよ!それでノックス。損害額はおいくらくらいかしら?」

「え……ぜ、全部だと……金貨5万枚くらいだと思うけど……」

「さぁ、金貨五万枚!耳を揃えて払いなさい!」

「たけぇよ!!」


 思わず男が叫ぶが確かに高いとは思う。前世の価値で言うと50億円といったところだろうか。魔道具ってそんなに高額なのかしら。


「で、ででも……大きな魔石は希少品で……1つでも金貨1000枚以上はするし……魔力伝導率の高い素材は材料費だけで金貨数千枚もするものもあるし……。ほ、ほとんど原価で売ってるから!た、高くはないから」


 ノックスは素材の質には自信があるのかそこは譲れないらしい。原価が高いことを考えると良心価格なのかしら。それなら仕方ない。まぁそれでも全然売れないから借金をしてるんだろうけど。


「そういうわけだから金貨5万枚!きっちり払ってもらおうかしら?」

「し、知るか!その馬車と俺らは関係ねえし!証拠は!?証拠はあんのかよ!?」


 私は魔法のグローブを手にはめると魔力を込めてマーキングした手に持ったボール回転させてみた。

 あら、これはなかなか面白いわね。魔力を込めれば込めるほど回転数がギュンギュンと上がる。

 そしてグローブの中で回転を続けるボールを振りかぶると男の股間に向けて投げつけてやった。


「ぐぎゃあああああああ!」

「命中ですね。お見事でございます。お嬢様」

「ありがとうサラ。これでも前世はソフトボール部に仮入部したことがあるのよ」

「そふとぼーるぶという意味がよく分かりませんが、それは自慢するほどのことなのですか?」


 私の手を離れたボールは抉るように男の股間に命中しており、男は涙と涎を流しながらもがいている。


「あ、兄貴―――!!お前らよくも兄貴を……ひでぇ、つぶれてやがる……兄貴の兄貴がつぶれちまってるじゃねえか!兄貴は将来たくさんの子供に囲まれて過ごしたいとか言ってたのに……兄貴ー!」


 小太りがひょろにかけよっているが、そんなに大事なものを潰されたくないのなら私に喧嘩を売らないことだ。


「金貨5万枚を払わないっていうんなら弟分のあなたについてるそのチンケな兄貴の心配もした方がいいわよ」


 私の言葉に小太りが股間を押さえながら後ずさった。実の兄貴より股間の兄貴のほうが大事そうだ。


「だ、黙れ!だから俺らがやった証拠はどこにあるんだよ」


 さっきからこの男は何をいっているのだろう。この私に対して証拠を出せって?分かっていないわね。


「……ここがどこだか、私が誰だか分かってそんな馬鹿なこと言っているの?なぜ証拠が必要なの?」

「は、はぁ!?そんもの!捕まえたり裁判したりするなら証拠が必要だろうが……」

「この私、メアリ・アン・デズモンドの前にそんなものが必要だと?」

「……は?え!?デ、デズモンド!?」

「この私が有罪と判断したら有罪であって、無罪と判断したら無罪なの。警察官兼検察官兼裁判官がこの私。ついでに刑の執行官もやってあげようかしら?」

「お嬢様、デズモンド家には強制労働させるのにちょうど良い鉱山があったかと思います」


 この私に対して法律を持ち出すとは笑わせてくれる。無法者とは思えないほどの甘えた考えだ。この世界は私を中心に回っているのに。そこに法律も何も関係ない。

 そもそも無法者が許されるデズモンドで法律だの裁判を持ち出すなんて笑わせてくれる。


「あら、ちょうどいいわね。じゃあ鉱山でお金を返せるまで働いてもらおうかしら?10年?それとも100年くらいかかるかしら?」

「ひぃ!?」

「おいおい……こりゃあ何事だよ!?」


 サラと二人でチンピラを脅しつけていると見覚えのある男が叫びながら走ってきた。スラム街のボスをしているフレンだ。いまだに革命組織を作りもせずにフラフラとこんなところで何をしているのだろう。


「あら、フレンじゃない。ごきげんよう。どうしたの?」


 息を切らしながら現れたスラムのボスであるフレン。今日の揚げパンはもう届いてるはずだけど何か用かしら。もしかしてパンが足りなかったとか?


「どうしたのじゃねえよ。街で騒ぎがあるってんで見に来たんだが……こいつらが何かしたのか?」

「もしかしてその人達ってあなたのところの下っ端なの?」

「ああ……まぁ面倒見てやっているやつらだが……おい、何があったのか説明しろ!」


 フレンがドスの効いた声で弟分の方の胸倉を掴むと鋭い眼光で威圧する。まさにヤクザかマフィアのようである。肝の小さい小物などこんな恫喝をされたら縮みあがることだろう。


「ボス……。いや、あの……。俺らは借金の取り立てに来ただけで……」

「ああ、お前らに取り立ての仕事を回したよな。それでなんでこんな状況になってんだ?あの店の惨状はなんだ?」

「それは……」


 小太りが言い淀んでいる。どうやらフレンの命令でこんなことをしたわけでなく、小太りとヒョロの独断だったのだろう。しかし、そんなことで誤魔化せるとでも思っているのかしら。


「そいつらが馬車をお店に突っ込ませたせいで私が買いたかった魔道具が台無しになっちゃったのよ。借金を取り立てたいなら魔道具を差し押さえておけば私が買ってあげたし、そのお金で借金も返せたのに馬鹿なの?」

「あんなわけの分からねえもの誰が買うんだよ!」

「ちょっとおめえは黙ってろ」

「へ、へい」


 フレンが子分をひと睨みで黙らせる。さすが暗黒街のボスなだけはある。迫力が違う。私はこの見た目のせいで舐められることがあるからちょっと羨ましくもある。


「お嬢、今言ったことは本当なのか?こいつらがお嬢に迷惑をかけたってのは……」

「ええ、私の命に係わるかもしれない金貨5万枚以上の価値のあった魔道具たちが台無しよ。だからお金を……」


 お金を払えと言いたかったがそれより早くフレンが弟分の胸倉をさらに掴んで締め上げていた。


「おい、てめぇ……何お嬢に迷惑かけてんだ……ああ!?俺の顔を潰す気か!おう!」

「ボ、ボス……。苦し……」

「黙れ!てめーらが馬車を突っ込ませたのか!?正直に言えよ。言わなかったらどんな目にあうか分かってんだろうな……」


 フレンは子分の胸ぐらを締め上げながらさらに膝を腹に数発入れている。人を詰めるのに慣れている様子だ。たまらず小太りがゲロった。


「お、俺たちが!俺たちがやりました!店に馬を突っ込ませました!」

「やっと吐きやがったか!お嬢、すまねえな……こいつらにはそんな金を払えるわけがねえ。お嬢に迷惑をかけたんだ。こいつらの(たま)で責任取らせるしかねえか」

「そ、そんな!」


 フレンは腰からナイフを引き抜くと小太りの首に突き付ける。

 突き付けられた小太りは顔面を蒼白にさせて口をパクパクさせるが締め上げられて声が出ないようだ。

 しかしそんな暴挙を私が許すはずがない。


「は?馬鹿な事言ってんじゃないわよ。前にも言ったけど私は誰も死なせたくないのよ。あなた分かってて言ってるでしょ」


 私の言葉にフレンはニヤリと笑ってナイフを腰に戻した。


「あー、それじゃあ仕方ねえなぁ。お前らお嬢に感謝しろよ。働いて返すためにも五体満足じゃねえといけないよな。治療費は俺が払うからこいつらを俺に預けちゃくれねえか」


 革命軍の総司令官がそう言うってことは……こいつらも革命軍に入るのかしら。もしかしたら使える戦力になるかもしてない。

 今はこんな小物だけど革命まではあと9年余りあるのだ。その間に成長するかもしれないからね。だったらここは治しておこう。


(癒しを!)


 私の手の平から飛び出した光が二人を包む。二人はその光の中で驚いた様子で自分の体が治っていくのを見ていた。


「もう治したわ。兄貴でも兄貴の兄貴でもなんでもいいけどそれを使ってたくさん子供作っていくらでも増殖するといいわ」


 もしかしたらこいつらが家庭をつくってその子供たちが革命軍の力になる可能性もある。それはそれで大歓迎だ。


「よっし。じゃあ、おめえらさっさと起きてお嬢に頭を下げろ」

「「ありがとうございます!す、すいませんっしたー!!」」

「お礼も謝罪もいらないわ!まずはお店を何とかするの手伝いなさい。あとお金は働いてノックスに返すことね」


 それから私たちは馬車を撤去してお店の片づけをすることにした。

 店の修理はスラムの人間を手配するとのことだった。壊れた魔道具は修理できないか聞いたところノックスが頑張って直してみるらしい。

 でもこれって魔法とか鍛冶とか錬金術とか使わないと作れないようなものばかりよね。大丈夫なのかしら。


「あ、あ、あの……なんとお礼を言っていいか……」

「ねぇ、ノックス。あなた鍛冶仕事とか錬金術とかも出来るの?」

「え?で、出来る……けどなに?」


 詳しく話を聞いたところノックスは鍛冶や錬金術に加え彫金技術などあらゆる製作技術を習得しているという。

 なにこのチートキャラ。さすがは闇商人と言えばいいのかしら。だったら……。


「お礼は要らないから私のために道具を作ってくれない?もちろんお金は払うわ」

「ど、道具?どんな?さっき言ってた破壊兵器ってやつ?」


 ノックスはきょとんとした顔をしているが、私が今日街に来たのはそのためなのだ。あんなチンピラを鉱山で働かせるよりもっと大切なことが世の中にはある。それは……。


「調理器具を作って欲しいの!」


お読みいただきありがとうございます。

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